「ルルーシュ、何か食べれる?」


彼は首を横に振った。


「じゃあ水飲む?」


また横に振る。


「先生がね、体調がいい日は少しリハビリしようって。足が萎えちゃってるから。」


二週間あまり眠り続けたルルーシュの足の筋肉は衰てしまい歩行も困難だ。

少しずつ慣らしていかなければ。

しかしルルーシュは応えなかった。

暫しの沈黙の後、やっとルルーシュが口を開く。


「聞いたんだろう。」

「何を?」

「俺の、身体のこと。」


流石にバレてない方がおかしいと考えたのだろう。

スザクから顔を背けたまま、ルルーシュは静かに言った。

スザクは何も言わない。


「嘘をついたんだ。」


悪意はなかった。

騙そうとして、嘘を付いたわけではない。

ただ知られたくなかっただけ。

心配をかけたくなかっただけ。

でもそれは所詮自己満足にしかならない。

相手のことを考えるあまり、相手の意思を無視したただのエゴ。


「幻滅しただろう。だから・・・」

「もう来るなって?嫌だよ、冗談じゃない。」

「スザク」

「じゃあいいよ。僕も君を幻滅させてあげる。」


にやりと、スザクは妖しく哂った。

至極愉快そうに。

それにルルーシュは眉を顰める。

そんな表情をスザクが浮かべたところを、未だかつて見たことがなかったからだ。

スザクが身を乗り出して、ルルーシュの鼻先まで自分の顔を近づける。

ルルーシュが身構えた。


「君は僕に言ったね。彼女を作れって。」

「そうだな。」

「無理だよ。」

「何故?」

「僕は女は愛せない。男が好きだから。」

「・・・はぁ!?」


思わずルルーシュが身を乗り出す。

しかし身体を支えるためについた手に力は篭らず、倒れこみそうになるのをスザクが支えた。

スザクはにこにこ笑っている。

要するに『僕は同性愛者です』なんて発言で爆弾を投下したような衝撃を与えておきながら。

唖然として、ルルーシュが目を瞬かせた。


「おま・・・」

「男が好きだよ。男の『君』が、好きで好きでたまらない。」

「なに、言って・・・」

「君を愛してるんだ。友達としてじゃなくて、男が女に抱くような感情で。あ、勿論男が好きっていうのは君が男だからであって、もし君が女性だったら女性の君を好きになってたよ?」


要するに、『君』が好きなんだ。

性別なんて二の次だよ、なんて笑顔で言われた日には言葉を失うのは当たり前だろう。

目を剥いたルルーシュは深呼吸して、スザクに断りを入れた後ベッドに身を預けた。


「お前・・・今までそういう風に俺を見てたのか。」

「気づいたのは最近だけどね。君が眠ってる時。どう、幻滅した?」

「いや、幻滅っていうか・・・なんていうか・・・。」


それ以前にイレギュラーすぎて思考が纏まらない。


「あのマネージャーにね、言われたんだ。僕がルルーシュに対して持ってる感情は『依存』だって。」

「・・・・・・」

「友達だから・・・親友だから当たり前だと思ってた。でもそれは・・・」

「もう、それ以上言わなくていい。」


突き放すように、ルルーシュが呟く。

スザクが少しだけ悲しそうに眉を寄せた。


「もう、いい。」

「ルルーシュ」

「俺にも・・・心当たりがある・・・から。」

「・・・へ?」


今度はスザクが唖然とする番だ。

ルルーシュが真っ赤に染まった顔を背けて、スザクがそれを信じられない様子で見つめてしまう。

実際、信じられない。


「る、るるるるるるる・・・」

「お前のそういう感情がそうだというんなら・・・多分俺のも同じなんだと・・・思う・・・気がしなくもない・・・ような気がする。」

「その歯切れの悪さがすっごい不安なんですけど。」


一緒にいたい。

彼がいないならあとはどうでもいい。

その依存が、そういうことに繋がるのなら。


「多分、俺もお前のこと・・・」


好き、なんだと思う。

語尾は本当に小さい声で紡がれた。

でも幸いなことに病室は静かで、その小さな声ですら聞き取るのに苦労はしない。


ただ、自分の心臓の音だけが酷く耳障りだった。






紅と、頬




ここがやっとスタートライン










ここまで長かったね、君たち。