若い男性に多く見られる、肺疾患だという。
医師から説明を受けたものの、内容は全然頭に入ってこなかった。
白い陰の映る彼の肺のX線写真を見ても、どうしても信じることが出来なかった。
命に関わるような病気じゃない。
いつしか微笑んだ彼はそう言っていた。
しかし実際受けた説明は全く異なっていた。
症状は致命的なものが多い。
いつ急激に症状が悪化して死亡してもおかしくない。
嘘を、吐かれたのだと。
理解は出来た。
でも嘘を吐かれた事よりも、目の前で眠る彼を見ることのほうが辛かった。
喀血によって赤く染まったシーツはもう既に取り替えられているはずなのに、目に焼きついた赤い光景が何度も何度も脳裏に蘇る。
もし彼を喪ってしまった時、自分は生きていられるだろうか。
いつか言われた、『依存』という言葉が蘇る。
これが『依存』ということなのかと考えて、首を振った。
きっとそんな言葉じゃ片付けられない。
「ルルーシュ」
彼の意識は戻らない。
人工呼吸器からする機械的な空気の音が耳につく。
心電図の電子音も。
「ルルーシュ」
助けて。
その呟きは誰の耳にも届かない。
ルルーシュが大きな発作を起こして意識不明になってから既に2週間が経っていた。
苛立ちにも似た、焦り。
矛先は人に物にと様々だ。
迷惑をかけている自覚はある。
自覚があってやめられないのは性質が悪いとしか言えないが。
「ルルーシュ」
返事はない。
でもいつか返ってくるだろうと信じてただただ話しかけ続ける。
「早く起きてくれないと、僕出席日数たりなくなって留年だよ。」
ルルーシュが発作を起こしてから一度も大学には行っていない。
実家にいる親には電話で事情を話して了解を得たから気兼ねはしていない。
病院側もルルーシュに身寄りがないことを知って、本来ならば面会謝絶のところスザクにだけは面会を許している。
「ルルーシュ」
早く。
早く目を覚まして。
そう何度も呟いた。
ルルーシュが眠っている間、気付いたことがある。
それを早く彼に告げたい。
彼は困った顔をしてしまうかもしれないけれど。
「ルルー・・・」
ガラッ!
病室のドアが乱暴に開け放たれる。
その音で医者ではないと判断したスザクは身構えた。
女性の、金切り声。
「どういうことよ!スザク君全然大学に来なく・・・っ!?」
「ねぇ、どういうことだい?」
スザクがゆらりと立ち上がる。
自然と浮かぶのは笑みだ。
彼女が。
陸上部のマネージャーである彼女が、ここを訪れる理由はない。
しかも病院の、病人のいる部屋に怒鳴りつけてくる理由など。
「スザクくっ・・・」
「なんで、君が?」
「あっ・・・」
「君、もしかして前にもここに来たことがある?」
発作を起こす前、ルルーシュの様子がおかしかった。
態と遠ざけるように。
もうくるな、と。
大学に行って、陸上の大会に出て。
彼女を作って。
全てが繋がる。
我ながらいい推理をしたものだと感心して、哂った。
「君が、ルルーシュに余計なことを言ったんだね?」
彼女はベッドで横たわるルルーシュの姿に驚愕していた。
以前彼女が来たときは、顔色が悪い程度だった彼は。
今、様々な医療器具に繋がれて物言わないからだ。
「君が」
声は低い。
「君があんなこと言うから」
目の前が暗くなる。
「ルルーシュ、もう二週間も目を覚まさないんだ。」
早く死んじゃえばいいのよ、なんて言うから。
「君が、ルルーシュの代わりに死んでくれる?」
彼女が脅えている。
考えている余裕はない。
「俺が」
殺してあげるよ。
そう言おうとしたとき。
くんっと服の裾が引かれた。
一瞬、何が起こったのかわからなくなった。
慌てて振り返ると。
「る、るるー・・・」
血の気の失せた白い手が服の裾をしっかりと握り締めている。
うっすらと開いた瞼の隙間から、アメジストが顔を覗かせた。
何かを言おうとしているのだろう。
彼の唇が動く。
しかし今彼には人工呼吸器が繋がれている状態だ。
挿管された状態では声を発することは出来ない。
無我夢中でナースコールを押して、そのまま服をつかむ彼の手を握った。
彼女はその隙に病室から逃げ出したが、そんなことはどうでも良かった。
「ルルーシュ」
ルルーシュが泣きそうな表情を浮かべている理由が、よく分からなかった。
藍と、夜
夜のような静寂と嵐
本当はここにやりたかったこと3.目を覚まさないルルーシュにスザクが壊れて、医者とかに『早く治せよ!お前ら医者だろ!?』と掴みかかるってのをいれたかった。