あのマネージャーがルルーシュの元を訪れていたことなど知るわけも無いスザクは、その翌日にルルーシュの見舞いに来た。
いつものようにノックをしたのだが、ルルーシュの声は返ってこなかった。
寝ているのかと思い、静かにドアを開ける。
彼はベッドの上で上体を起こして、ぼんやりと窓の外を見ていた。
「ルルーシュ」
ピクリとその身体が震える。
腕に繋がっているらしい点滴のチューブがその動きに合わせて揺れた。
「起きてたんだね。具合はどう?・・・あ、暫く来れなくてごめんね。」
「・・・停学は、解けたのか。」
「・・・知ってたんだ。」
バツが悪そうに笑ったスザクはベッドの横に椅子を引き寄せて腰掛ける。
しかしルルーシュはスザクに視線を向けることはなく、静かにベッドを抜け出してしまった。
怪訝そうにスザクが眉を寄せて、思わず立ち上がる。
「どこにいくの?」
「・・・散歩。」
「じゃあ僕も一緒に」
「お前は来るな。」
点滴のぶらさがったイルリガードルを支えに立ち上がったルルーシュの肩を、ベッド越しにスザクが掴む。
痩せて、薄くなったその肩に眉を顰めながらもスザクは焦っていた。
何かがおかしい。
「ルルーシュ、僕が何かし・・・」
「放せ。」
「一体どうし・・・」
「放せと言っている!」
とても弱い力で、払われた。
力どうこうの前に払われたということに驚愕して、思わず身を引いてしまう。
ルルーシュはといえば、スザクの手を振りほどいたはいいものの、体力の衰えた身体では重心を失った身体を上手く支えることが出来なくてよろめいた。
点滴のチューブが揺れて、腕に刺さっている針が動く。
痛みに顔を顰めた。
「ルルーシュ。」
「もう、来なくていいから。」
「待って、ルル・・・」
「もう・・・来ないでくれ。」
潤んだアメジストの瞳から目が離せない。
「もっと他に、お前にはやることがあるはずだ。ちゃんと大学に行って、陸上の大会に出て。そうだ、彼女も作ればいい。」
「なんで、急にそんなこと・・・」
「もう俺のことは放っておいてくれ。どうせ・・・」
いつ終わるかも分からない命だ。
思わずそう口に出しそうになって、慌てて噤んだ。
自暴自棄になっているのかもしれない。
彼女の言っていた、『依存』という言葉の意味を理解した。
彼が、いないなら。
そう思ってしまう感情こそが『依存』なのだろう。
腕に刺さっている点滴の針を乱雑に引き抜く。
少量の血と薬液がシーツにしみを作った。
「ちょ・・・ルルーシュ!おかしいよ・・・ちょっと落ち着こう!?」
「煩い。さっさと出て行け。」
「嫌だよ!」
感情に任せてスザクがルルーシュの身体を引き寄せれば、その身体は簡単にバランスを失い、ベッドに沈み込む。
しまった、と後で後悔した。
相手は病人。
うろたえたスザクだったが、恨めしそうに睨みながら起き上がったルルーシュを見て安堵の息を吐いた。
色の悪い顔に手を添える。
「ねぇ、何があったの?」
「別に何もない。」
「嘘。君らしくない。」
それきり、ルルーシュは俯いて押し黙ってしまった。
何か言いたいことがあるのかとも考えたがどうも様子がおかしい。
じっとりと、汗をかいている。
顔色は蒼白で、肩は大きく上下しているのに呼吸は浅いものだった。
「ルルーシュ・・・具合悪いの・・・!?」
「なん・・・も、な・・・」
なんでもない、わけがない。
咄嗟に枕の陰に隠れていたナースコールを押した。
上半身を起こしたままでは辛いだろうと、ベッドに寝かせるために細い肩に手を添えた。
その時、ルルーシュが身を硬くする。
立て続けに咳き込んで、前のめりになる。
「ルルーシュ!」
何回も、何回もナースコールを押した。
どうすればいいのか分からない。
こんなにも具合の悪そうなルルーシュを未だかつて見たことがなかった。
気が動転するも、何とか震える手でルルーシュの背中を摩る。
ひゅっと、そんな音がルルーシュの口から漏れて。
白いシーツの、色が変わった。
口元と、服と、シーツ。
どれも白かったはずのそれらはあっという間に赤に染まる。
「あっ・・・あ・・・」
喉が引き攣って声が出ない。
病室のドアが開いて、医者と数人の看護師がなだれ込むように入ってきた。
ベッドに寝かされたルルーシュは処置を受けている間も喀血して、医師の白衣は赤く染まった。
医師と看護師の焦ったような声が時折耳に届いても、ただその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
赤と、手
すれ違うのは
やりたかったこと2.発作を起こしたルルーシュと、何も出来ずに立ち尽くすスザク。
こうみると発作を起こしたのがスザクのせいみたくなりますが、それは私の文才がないせいなのでスザクに非はありません(ということにしておいてください><)