初めて会ったのはお互いが10歳の時だった。
スザクが住まう日本に、ルルーシュが家族で旅行に来た時。
親同士が知り合いで、年が同じだからという理由で引き合わされたのだが、出会った時の印象はお互い最悪だった。
それなりにガキ大将だったスザクはルルーシュのことを「なんだこのひょろいやつは」と思っていたし、年甲斐もなく落着きを持っていたルルーシュはルルーシュで「なんだこのガサツなやつは」と思っていた。
仲良くなれるはずがない、と思っていた。
しかしそれは間違いで、少し長めの滞在期間が終わる頃にはもう親友と言ってもいいのではないかというほど親密になっていた。
別れが悲しくて、柄にもなく泣き喚いたのを覚えている。
いつの日ひかの再会を約束して、実際に再会したのはそれから7年後のことだ。
ルルーシュの肉親。
父と、母と、妹。
それらを事故でなくしてしまったルルーシュが単身、日本に留学してきた。
最初は枢木家に身を寄せろと説得したのだが、それをルルーシュが受け入れることはなく、結局彼は自分でマンションを借りてしまった。
スザクが通う高校の、スザクのクラスにルルーシュは転入してきた。
7年ぶりの再会は「変わったな」という言葉から始まった。
ルルーシュがガサツだと思っていたスザクは大人しくなっていたし、スザクから見たルルーシュはひょろいことには変わりないものの、昔に比べればガサツになったと感じる。
でもやはり親友だという認識は変わらず、2人は再会に歓喜して。
一緒にいる時間がなにより長くて、そして楽しかった。
それから一緒に高校3年へと進級し、受験勉強も一緒にした。
元々頭の出来がよかったルルーシュはそれなりに有名な大学への進学を決めていた。
一方スザクはルルーシュと一緒の大学に進みたかったのだが、残念ながらその大学に入学できるほどの頭脳を持ち合わせていなかったため、スポーツ特待生として同じ大学への進学を決めた。
「まさかお前と同じ大学に行くことになるなんてな。」
「僕に運動という道が残されていたことに感謝するよ。」
「そうだな、体力馬鹿。」
頭は良くても運動・・・というか体力が全くないルルーシュ。
頭は良くないが人並み外れた運動神経と体力を持ち合わせたスザク。
性質は異なっていたが、なんとか同じ道に進むことは出来た。
キャンパスライフは、きっと素晴らしいものになるだろうと。
その時の2人はそう疑わなかった。
スポーツ特待生として入学したスザクは、既に陸上競技で期待の新星のような存在だった。
大会が行われる競技場に足を踏み入れればカメラのフラッシュに囲まれる。
別に有名になりたいわけでもなかったのに、とスザクは一人ごちた。
それでも。
足の腱を十分に伸ばす。
目の前にあるのは競技用のトラックと、競う相手達。
緊迫した雰囲気。
でも空はどこまでも青く澄んでいる。
悪くない。
すっと視線を観客席に向ける。
(ルルーシュ・・・)
大会が行われるときには、必ずルルーシュは応援に来てくれた。
観客席から見つめる彼は、微笑んで手を振ってくる。
それにはにかみながら手を振り返せば、彼の唇が何かを語った。
『お前ならやれる』
きっとそう言ってくれているのだろう。
心が落ち着く。
スタートラインに立つ。
前を見据える。
目指すはゴールのみ。
審判の号令がかかる。
スターティングブロックに足をかけて、手を地についた。
耳を劈くような音が聞こえた瞬間。
思い切り、地を蹴った。
報道陣が群がる。
大会新記録を樹立してしまったのだからそれもしょうがないことなのかもしれない。
「この喜びを誰に伝えたいですか?」
そうインタビュアーの女性がマイクを向けてくる。
答えは決まっている。
家族でもなく、コーチでもない。
「応援してくれた、友達に。」
すっと視線を動かす。
彼は今の自分を微笑ましそうに見てくれているだろうか。
そして、彼はいなかった。
スタート前には確かにいた場所に彼はいなかった。
(もう、帰っちゃったのかな。)
観客席はなんだか騒がしい。
(あれ・・・)
担架で、誰かが運ばれていく。
だらりと垂れた腕しか見えない。
誰が倒れたのかと、首を傾げたスザクの耳に、悲鳴のような声が届いた。
「枢木君!」
それは陸上部のマネージャーなどではなく、よく講義が同じになる見知った顔の女性。
切迫したような表情で、叫ぶ。
「ランぺルージ君、倒れて病院にっ・・・」
言われた言葉が理解できなかった。
頭が真っ白になる。
じゃあ、あの担架は。
あの腕は。
気がつけば層のようになっていた報道陣をかき分けて。
ユニフォームのまま、競技場を飛び出していた。
「ごめんな、スザク。」
「なんで、謝るの。」
「ちゃんとお前がゴールした瞬間は見ていたんだが。」
「そんなこと、どうでもいい。」
「よくない。お前、記録を作ったんだぞ?すごいことじゃないか。」
運ばれた病院の、病室のベッドに横たわるルルーシュはとても儚げに見えた。
それがどうしようもなく怖くて、ぎゅっとその体温の低い手を握り締める。
困ったように、ルルーシュは笑った。
「どうした?」
「君が、倒れるなんて」
「ただの貧血だろ?一応大事をとって泊まるだけなんだから。」
「でも」
「でも、じゃない。お前は陸上部の皆にお礼言ったりだとか、もっと他にやることがあるだろ?」
いけよ、とルルーシュが促す。
それでもその手を放したくなくて、手にこめる力を強めた。
「ほら、早く。」
「いやだ。」
「・・・スザク。」
「いやだ。」
いやだ。
まるで駄々をこねる子供のようにそう繰り返すことしかできなくて。
情けなくて。
涙が出そうだった。
青と、空
嗚呼、僕はなんて情けないんだ
改めてみたら1話分がガチで短かったので、1話と2話をくっつけました。
正直、今回甘すぎです。
自分自身が糖分の過剰摂取状態です。
この時点からお互いがお互いを好き過ぎる感がありますが、まだ友情です。