「メリークリスマス」


クリスマスには、長いふわふわとした白髪と威厳のあるこれまたふわふわとした白い髭を蓄えた老人が、鮮やかな赤の服を纏って、子供たちにプレゼントを配る。

子供たちにとってはそれは最高の楽しみであるし、楽しみなのは子供たちだけではない。

恋人たちにとってもその夜は実に神秘的だ。


「メリークリスマス」


サンタクロースという万国共通の人物は、やはりセオリー通り赤の服を纏って、大きな白い袋を背負っていた。

歪なそれのなかに、きっとたくさんのプレゼントを入れているのだろう。

重そうに背負って歩く姿はまさに老人・・・というわけではなかった。

髪は黒く短い。

白い髭なんてものは勿論なくて、長身痩躯。

袋を重そうに背負っているのは恐らくその見る者が目を疑ってしまうような身体の細さのせいだろう。

ふらふらとおぼつかない足取りで歩く彼は、それでも街並みの中子供を見つけると穏やかにほほ笑んで、背負った袋をよいしょと下ろす。

中から取り出した箱は綺麗にラッピングされていて、それを見た子供は皆目を輝かせた。

しゃがみ込んで子供と目線を合わせるようにすると、期待に満ちた視線を向けられた。


「メリークリスマス」


そう言いながら目元を緩めると子供は受け取りながら屈託ない笑みを浮かべた。



「ありがとう、サンタさん!」

「お母さんのお手伝いをちゃんとするんだよ?」

「うん!」


頭を撫でてやってから立ち上がって、開いたままだった袋の紐をきゅっと引っ張るようにして閉じる。

目が合ったその子の母親らしい女性は、サンタクロースの顔を見て思わず声をあげそうになった。


「皇帝へいっ・・・」


苦笑したサンタクロースは口に立てた人差し指一本を当てて目配せする。

サンタクロースの視線の先を女性が眼で追うと、そこには目を輝かせてプレゼントを抱きしめる子供の姿。

女性は目を見開いたあと、微笑んで一礼した。

それにサンタクロースも礼を返して、袋を背負う。

方向を変えて次なるターゲットとなる子供を見つけたサンタクロースはよたよたと歩きながら声を上げた。


「メリークリスマス」



















「まったく、君らしいよね。」


呆れたようなその声に、目元を腕で覆ってソファーに倒れこんでいた彼は低く唸った。


「・・・何がだ。」

「体力無いくせに首都の子供たち全員にプレゼント配り歩くなんて。」


馬鹿だな、と言うスザクにサンタクロース・・・ルルーシュは不機嫌そうな声を発する。

街中を練り歩いたせいで、体力のないルルーシュは宮殿に戻ってすぐソファーに沈んだのだ。


「悪かったな。」

「予算絞ってたのもこの為だったの?」

「俺は無駄な予算を省いて有効活用しようと思っただけだ。」

「はいはい。」


コップに水差しの水を注いで差し出すと、ルルーシュは気だるそうに身体を起こしてそれを受取る。

こくっという音とともに喉が動く。

あっという間に全部飲みほしてしまったそれに苦笑して、スザクがまた水を注いだ。


「なんでもいいけど、そういうことするんだったら予め言っておいてもらえないと。君は皇帝なんだ。いつその身に危険が・・・」

「お前、後ろからこっそりついてきていただろう。じゃあいいじゃないか。」

「そりゃあ僕は君の騎士だから。破天荒な主を持って僕も苦労する。」

「スイマセンデシタ。」


棒読みな謝罪に眉をひそめて、スザクはルルーシュの隣に腰をおろした。

ルルーシュは何かを考え込んでいる。

声をかけようとしたスザクだったが、それよりもルルーシュは先に口を開いた。


「子供から、変えていかないと。」

「え?」

「子供は未来を担うものだ。未来がどうなるかは今の子供達が成長した後の行動によって決まる。」

「・・・うん。」

「だから今のうちに、たくさん夢を見てもらいたい。希望を持ってもらいたい。」

「そうだね。」


俯いたルルーシュの黒髪を、スザクが撫でる。

なんだと不機嫌そうに顔を上げたルルーシュがほあああ!?と声を上げたのは次の瞬間だった。

圧し掛かってきた重量にバランスを崩し、再び柔らかいソファーに沈む。

覆いかぶさった影はニコニコと笑いながら赤の衣装のボタンをぷちぷちと外していく。

眉を顰めたルルーシュは手のひらでスザクの顔を掴んで押し返そうとするが、もちろん力では敵わない。


「おい、スザク。」

「クリスマスプレゼント、僕まだ貰ってないし。」

「あれは子供限定だ馬鹿。お前自分が何歳だと思ってる。」

「んー?忘れちゃった。」


暴かれた首元にスザクが唇を寄せて、ルルーシュは身体に走った電撃のような感覚に身を捩った。

仕方ないな、とせめてもの抵抗で入れていた手の力を緩める。


「メリークリスマス」


宮殿の窓から見下ろした世界は、鮮やかなイルミネーションと白い雪に彩られている。









聖なる夜は君の隣で










クリスマスなんで、何か上げたいと奮闘した結果です。
この短さ故に10分で書きあがりました・・・自分、なんていうか乙。
騎士皇帝で賢帝ルルーシュ。
本編後そのまま即位している設定でもいいですし、「何歳だと思ってる」「忘れちゃった」発言から膨らませて二人ともコード継承→遠い未来に(どうにかして)国を治める地位に就いたっていうのでもいいかなぁと思います。
解釈は皆様のお好きなほうでw