奇妙な夢だ。
何もない白い世界。
己も、白い服を纏っている。
ただ己の黒く長い髪だけがその空間にそぐわない色となっている。
身体は軽い。
ああ、己は死んだのか。
そう思うと妙に納得してしまった。
余命幾ばくもないと分かっていたからこそ世界の混乱の中心に身を置いた。
争いの中で死ぬのも悪くないと思えたから。
ただ無駄に命を散らすより、世界に何か影響を与える死に方がしたい。
己は、何かを世界に残せただろうか。
『お前、誰だ?』
思考を割るように、誰かの声が響く。
白い空間に、また別の色があった。
己と同じ黒い髪。
やはり服は白で、肌もそれに溶け込むかのように透き通っている。
印象的なのは紫電の瞳。
覚えがあった。
その顔に。
声に。
だが思い出せない。
「貴様こそ、誰だ。」
そう言い返せば、相手はつまらなそうにそっぽを向いた。
「おい。」
『煩いぞ、部外者の癖に。ここは俺の空間だ。』
自分の空間だと彼は言った。
ではこの空間は何なのか、彼なら分かるはず。
そんな希望を抱いて問いかければ、彼は「教えてやる義理はない」と吐き棄てた。
「じゃあこの空間を出る方法を教えろ。」
『そうか。お前はまだ出ることが出来るのか。』
「知らん。」
『いや、出れるな・・・まだ、お前なら。』
少し考えて、彼はため息を吐く。
『じゃあこの空間から出る方法を教えてやる。その代わり俺の質問に答えろ。』
「なんだ。」
『世界は今・・・優しいか?』
少し、答えを出すのに手間取った。
「優しい、のだろうな。あの頃に比べれば。」
あの頃。
自分で言った言葉が理解できなかった。
どの頃と比べて今が優しいと判断できたのかが分からない。
それでも、何故かそう思えた。
「優しい。」
不確かな確信を持ってそう呟けば、彼は満足そうに微笑んだ。
『そうか。それはよかった。』
「優しい世界が好きなのか?」
『お前は嫌いか?』
「いや、そういうわけではないが。」
『ならばいい。世界は優しいに越したことはないよ。』
悪は滅んだ。
世界は優しくなった。
しかし、何を持って滅ぼしたモノを悪としたのか。
悪の定義は人それぞれだ。
自分達にとって、ブリタニアは悪だった。
だが日本人をはじめとするナンバーズにとってブリタニアが悪であったように、ブリタニア人にとっては自分達が悪ではなかったのか。
日常を脅かすものが悪ならば、双方が双方にとってどちらも悪だ。
何が真に悪なのか。
わからない。
『答えはもう出ているだろう、星刻。』
「答え・・・」
『悪は人それぞれ。お前の言ったとおりだ。だから、自分が信じる道を進めばいい。』
彼はすうっと移動した。
歩くという概念がこの空間にはないのかもしれない。
彼が指差した先に、空間の歪みのようなものがある。
『もう還れ。』
「かえ・・・る・・・」
『還りたくないのか?早くしなければ戻れなくなるぞ。』
戻れなくなる。
その意味を理解して、星刻は眉を寄せた。
『もう、世界に未練はないか?』
「ないといえば、ない。」
『じゃあ、遺す人には?彼女はもうお前が要らないなどと言ったか?』
彼女、といわれて、思い起こすのは一人の少女だ。
「言われた覚えは、ない。」
『ならば還れ。ここに来るのは、彼女がそう言ってからでいい。』
強く、優しく。
背中を押される。
振り返ると、彼は微笑んでいた。
「・・・っ・・・星刻!」
「天子・・・様・・・」
「よかった!目が覚めたのね!」
彼女は目に涙を一杯溜めて、それでも微笑んでいた。
「お医者さま呼んでくる!」
駆け出した彼女の背中を見つめながら、星刻はため息を吐いた。
己はベッドの上で、さまざまな医療器具に繋がれている。
どうやら本当に生死の境を彷徨っていたらしい。
「ルルーシュ。」
思い出した。
それが彼の名だ。
あの空間にいたのは・・・。
そう考えて頭を振る。
そんなわけはない。
彼が己の背中を押してくれるわけがない。
彼を裏切った。
裏切られた彼はそれでも世界を騙して、世界を導いた。
優しい世界へと。
今の世界は彼がきっと一番望んだものだ。
それでも己らは彼を信じることが出来ず、彼を棄てた。
夢に彼が出てくるなど、あり得ないことだ。
何と都合のいい夢か。
自嘲しながら、星刻は窓の外に広がる青空を見る。
世界が、彼を赦すことはないだろう。
ただ、自分の心が。
彼を赦したいと、彼に赦されたいと叫んだ。
請う者
今回は星刻で。
星刻は意外と許してます(だって結局天子様命なだけだしね★)
本当にルルーシュが出たのか、それとも星刻の妄想(違)なのかは皆様の見解にお任せします。
そろそろ出せる人は出したかな、という感じです。
あとは私の気の持ちよう次第。
むしろ今まで出した人をもう一巡くらいさせようかな(笑)
2008/10/17 UP
2011/04/06 加筆修正