廊下ですれ違った級友に挨拶を返して、ルルーシュは三日ぶりの自分の座席に腰を下ろした。

風邪で休んでいる間のノートを持って数人が机の周りに集まってくる。

それを一冊ずつ受け取ってざっと中身を見た後返す。

それを4回ほど繰り返してありがとうと言うと、お前は相変わらずだなと皆が笑った。

それなりに優秀な頭脳がノートの内容を分析し、まだ遅れた内に入らないという結果をはじき出したのだ。

窓側の席には日差しが降り注ぎ、春の訪れを感じさせた。

その季節の変わり目で見事に風邪を引いたわけだが。

いつものように襲ってきた眠気に目を細めたとき、誰かが近くに寄ってきた雰囲気を感じ取ってルルーシュは笑んだ。

彼だとすぐに分かったから。

しかし見上げて彼の顔を見た瞬間笑顔は凍りつき、絶句する。


「スザッ・・・」

「ルルーシュ、おはよう。風邪はもういいの?」


ガタリと椅子が音を立てる。

慌てて立ち上がったルルーシュはスザクの顔を手で包んだ。

顔色は悪く、頬が少し扱けている。


「お前その顔色・・・」

「え、あ・・・ちょっと夜中具合悪くて。でももう大丈夫だか・・・」

「自分の顔色見てから言えこの馬鹿がッ!」


腕を掴み、強く引く。

やはり具合が悪いのか、どこか力ないスザクはそのままルルーシュに引きずられていく。

焦りの浮かんだルルーシュの横顔を見つめながら、スザクは薄く微笑んだ。







保健室に連れ込まれ、乱暴にベッドに押し倒され。

まぁいいかとブランケットを被ったスザクは、ちょうど不在だった保険医の変わりに体温計やら薬やらを集めるため狭い室内を奔走していたルルーシュを見つめる。

ああ、彼が生きてる。

夢と照らし合わせても同じ顔。

やはり夢で血に染まっていたのは彼なのだと、そう思うとまた涙が出そうになった。

そんなスザクとルルーシュは視線が合って、困ったように笑いながらスザクに走りよる。


「どうした?」

「なんでもないよ。」

「・・・そうか?」


怪訝そうに眉を寄せながらルルーシュは手に持っていた体温計をスザクの脇に挟み、薬瓶を机の上に並べてベッド脇の椅子に腰掛けた。


「で、どういう具合の悪さだ?」

「どういうって・・・言われても。」

「具合悪くないのか?そんな顔色で言われても説得力はないが。」

「いや、その・・・夢見が悪くて。夜中に目が覚めて・・・」

「それから眠れなかったとか?」

「いや、吐きまくった。」


手に持った薬瓶がすり抜けて、ガンッと音と共に机に倒れた。

唖然としたルルーシュがまだ吐き気はあるか?と訊ねて、スザクはそれに首を横に振る。

それに一先ずは安堵して倒れた薬瓶を元に戻したルルーシュは、くるくると跳ねた茶色の髪に指を差し入れて。

ゆっくりと撫でてやると、スザクは目を見張った。


「ルルーシュ?」

「実は俺も昨日夢見が悪かったらしくてな。目が覚めたら、その・・・涙が止まらなくて。」

「わかった。ナナリーにこうしてもらったんだろ。」


バツが悪そうな笑みは肯定の証。

意地悪く笑ったスザクはそれから黙り込んで。

心配そうに覗き込んでくる彼に、重く口を開いた。


「君を殺す、夢を見た。」


ルルーシュは何も言わなかった。

さして驚いているわけでもない。

ただ黙ってそれを聞いて、なおも次の言葉を待っている。


「君の身体に大きな剣を突き刺して。凭れ掛かってきた君の・・・徐々に失われていく体温を感じながら、僕は泣いた。」

「そうか。」

「・・・それだけ?」

「俺は昨日の夢、すぐ忘れてしまったんだが・・・今思い出した。お前に殺される夢だ。」


スザクも驚かなかった。

お互いの心はしんと静まり、ただお互いが漏らすぽつりぽつりとした言葉を聞いて、それを嚥下していく。


「変なんだ。」

「うん。」

「お前に刺されて、俺は死んでしまうのに。でも何故か嬉しくて・・・幸せだった。」

「・・・そう。僕は辛かった。夢から覚めた後も、手にこびり付いた君の血の色が忘れられなくて。」


酷く鮮明に、その情景を思い出せる。

彼を殺して、『スザク』は涙を流した。

多くの人々がいて、彼を殺した『スザク』を褒め称えたのだ。

スザクがルルーシュを殺す夢を見て、ルルーシュはスザクに殺される夢を見る。


「何の偶然なんだろう。」

「さあな。」

「・・・ルルーシュ。」

「ん?」

「好きだよ。」

「・・・ほぁあ!?」

「うん、好きだ。ルルーシュ、好きだよ。愛してる。」

「い、いきなり何なんだ!」


顔を真っ赤に染めたルルーシュは目に見えて動揺している。

それを楽しそうに観察しながら身を起こしたスザクは、ゆっくりと手を伸ばした。

スザクに見つめられて息を詰まらせたルルーシュは、ブツブツと何かを言いながら顔を背ける。

呟いているのは恥ずかしいだとか馬鹿だとか、そういう類のものだ。

しかしやがてゆっくりと歩き出し、ついには広げたスザクの腕の中に収まってしまった。

力任せに抱きしめるとルルーシュが怒ったようにスザクの髪を引っ張る。


「好きだよ。」

「さっきから何だお前は。」

「夢の中のルルーシュを殺しちゃった時、もっと好きだーって言っておけばよかったなって後悔したんだ。だから今、現実のルルーシュにひたすら愛を囁こうと思います。」

「意味が分からん。相互の関係性が全く・・・」

「好きだよ。」


もう勝手にしろとそっぽを向いたルルーシュだったが、やがて視線だけ戻して。


「あの夢を見てから・・・俺も、お前に言っておきたいと思うことがあったんだ。」

「うん。」

「好きだよ、スザク。」

「うん、僕もだよ。好きだ・・・大好き、ルルーシュ。」






頑張って甘ーくしたつもりですつд`。