悪い夢だ。


なんて夢を見てしまったんだと、己の不運を嘆いた。


洗面台の前で座り込んだスザクは自嘲の笑みを浮かべながら、自分の震える手を見つめた。


赤い、アカイ。



「うっ・・・ぐッ・・・」



落ち着きを見せていた吐き気が蘇って立ち上がり、せり上がってくるものに噎せ込む。


もう胃の中はカラだ。


夢から覚めた後、ずっとこうやって吐き続けているのだから。


鏡に手をついて肩で息をしたスザクは、ゆるゆると顔を上げて鏡に映った自分の顔を見る。



「はッ・・・酷い顔・・・」



顔色は悪いし、汗は多くの筋を作って流れ落ちていく。


一緒に涙も零れ落ちた。


それが生理的なものなのか、はたまた別のものなのかは分からない。


・・・夢の内容は、何故か鮮明に覚えている。


いつも覚えられないのに、何故今回に限ってこんなに・・・と思うほどに。


人を、殺す夢。


多くの人を。


守ると言いながらそれを免罪符に多くの人を殺して、そして。



最後には。



「何で・・・こんな夢・・・」



手にこびり付いた色が忘れられない。


初めてこんなにもあの色が怖いと感じた。


それを溢れさせたのは何故か大切な親友で、原因を作ったのは自分で。


ガクリと折れた膝を床につき、面倒になってそのまま倒れこんだ。


ぼやける視界は何のせいだろう。


身体の不調のせいか、涙のせいか。


寒い。


そう感じた途端に身体が大きく震え上がった。


眠るのが怖い。


でも疲労か何かは分からないが、重い瞼がゆっくりと下りてくる。


このままここで眠ってしまおうか。


そんなことを考えたとき、異変に気付いたらしい母親が小さく悲鳴を上げて。


致し方なく自分の力で自室に戻り、ベッドに倒れこんだ。


明日は学校を休みなさいと言われたが、休む気になど到底なれなかった。


言わなければならないことがある。




彼に。