ゼロが、何かを隠そうとしているのには気付いていた。
嘘をついていることにも。
でもそれが自分のために付いている嘘だと分かっているから、特に責める気にはならなかった。
今の自分にとっての世界は、この『家』だった。
酷い怪我を負い、そのせいかは分からないが記憶を失って。
他に身よりも無いらしく、ゼロが一緒に暮らそうと申し出てくれなければ路頭に迷うところだった。
それには感謝しているが、ゼロはどこか可笑しかった。
朝になると独特の衣装に身を包み、これまた独特の仮面をつけて家を出る。
『分かりやすく言えば、革命家。』
職業を問うたとき、そんな返事が返ってきたのは記憶に新しい。
どうやらこの国の中枢である建物と、この家は地下通路で繋がっているらしく、この家を出て行きついた場所がゼロの活動場所だった。
その間、一人残されたこの『世界』の中で、出来る限りのことをする。
家事全般がいい例だった。
記憶を失う前の自分はどうやら日常的にそれを行っていたらしく、いざ掃除用具や調理道具を手にすれば妙に馴染む感覚に戸惑った。
夜遅くにゼロは帰ってくる。
偶に帰ってこないこともあるが、そういう時は何かしら事前連絡があるからそんな日は一人で。
帰ってきた彼に料理を振舞って、片づけをして。
翌日の献立を考えながら眠りにつく。
時々胸にある大きな傷が痛むけれど、処方された鎮痛剤で乗り切る。
そんな穏やかな日々が続いたある日。
ゼロはバスルームで倒れていた。
気を失っていたゼロが、うわ言のように誰かの名を呟いていた。
『ルルーシュ』
その言葉を聞いてから、妙に心を揺さぶるものがあって。
彼が『仕事』に出かけてから、こっそり彼のパソコンを見た。
現状の生活に満足していたから、今まで特に自らの素性を調べようなどとは思わなかったし、ゼロがインターネットや新聞などのメディア媒体に触れることを是としなかった。
パソコンには普段ロックがかけられていて、そのパスワードを知らない自分にはそれに触ることが出来なかった。
何よりただの一般人がインターネットの検索にひっかかるわけがないと、そう思い込んでいたのだ。
だから別に世界情勢を知ろうともしなかったし、ゼロや自分について調べることもしなかった。
しかし何故かその日だけはパソコンが起動したまま放置されていたのだ。
マウスに添えた手が震える。
少し、頭が痛んだ。
検索ワードに『ゼロ』と打ち込む。
検索結果は夥しいまでの量で、彼が有名人なのだと理解した。
『奇跡の男、ゼロ。ブリタニア代表ナナリー・ヴィ・ブリタニア氏との会談に臨む。』
「ナ、ナリー・・・?」
またズキンと、頭が痛む。
そのあまりの痛みに目を細めて、もうやめようとした時。
『ルルーシュ』という言葉を見つけて手を止めた。
『悪逆皇帝ルルーシュの死から半年、英雄ゼロが世界を』
「か、え・・・た。」
ポツリと、そう呟いた。
その記事にはゼロのことが事細やかに書かれていた。
写真には馴染みのある衣装と仮面。
そしてその横にある別の写真に、何故か自分の顔があった。
「俺・・・?」
世界の敵。
悪逆皇帝。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
「・・・っ・・・う・・・」
激しい頭痛に吐き気がする。
目の前が暗くなって、意識が飛ぶ。
その瞬間、脳裏に浮かんできたのは『スザク』という言葉だった。
新生ゼロはうっかり者。