あの時。
振り返った先で微笑んでいた彼に、スザクは思わず逃げ出していた。
怖かったわけではないし、気持ち悪かったわけでも勿論ない。
ただ、思わず駆け出していた。
あれから数日後、三度目の遭遇。
最早運命といっても過言ではないのかもしれないと、スザクは彼を見ながら溜息を吐いた。
そしてよりにもよって、遭遇場所が。
(もしかして、同じ大学の学生だったのか?)
スザクの通う大学の、人通りのほとんど無い福利棟の建物の屋上に、彼は腰掛けていた。
因みに4階建。
スザクはゼミの下見に来ただけだったのにこの遭遇率だ。
これは切っても切れぬ縁があるのかと、スザクは下から上方を仰ぎ見た。
「ねぇ、危ないよ!」
彼は黒いノースリーブのハイネックを着ていた。
明らかに寒い。
身体を壊しかねない薄着っぷりだ。
思えば会う度に彼はどんどん薄着になっていっているような気がする。
そこまで考えて、スザクはふと考えた。
(薄着になっているんじゃなくて、もしかして・・・身軽になっているのか?)
身軽になる、と言っても服の違いは然程大きいものではない。
ただ彼はずっと空を見ていて、空を飛べるかどうかを気にしていた。
もしかしたら本当に、空を飛びたいと思っているのかもしれない。
「ねぇ、君っ・・・!?」
うそだろ、と思った。
彼の身体は徐々に前のほうに傾き、そしてやがて。
スザクは咄嗟に走り出していた。
落下してくる身体。
それから目を逸らさずに、落下地点を予測する。
正直4階から落下してくる人間を受け止めるなんて無茶だ。
無傷では済まされないかもしれないし、打ち所が悪かったとなれば死だって免れないかもしれない。
それでもただ落下する彼を傍観したところで、彼は死んでしまうかもしれない。
何もしないよりはマシだと思った。
黒い塊が落ちてくる。
ズンッという重みを腕に感じて、バランスを崩して倒れこむ。
背を強か地に打ちつけた。
下が芝生だったらよかったのに。
胸の上に人間の重みを感じながら、スザクは背中の痛みをやり過ごそうと深呼吸した。
意外とどうにかなるものだ、と思う。
身体を少しずつ動かしてみた様子では骨に異常はなさそうで、日々の鍛錬の賜物かなぁと満面の笑みだ。
腕の中の彼の背中を少し叩いてみる。
「大丈夫?」
彼はそれに応えるようにむくりと起き上がった。
そして浮かぶ、不敵な笑み。
「中々無茶するな、お前も。」
「はぁ!?」
何だその言い草は。
そう怒っても責められはしないだろう。
スザクも上半身を起こして、目を剥いて彼を見つめた。
「そもそも何で飛び降りたりしたんだ!危ないじゃないか!」
「お前が下にいるのが見えたからな。受け止めてくれるのかと思って。」
「ちょ、それなのに無茶とか言うわけ!?」
彼は立ち上がって衣服の土埃を払う。
そして差し出してきた手をスザクが取って立ち上がった。
「・・・で、何でこんなこと。」
「・・・昔、大好きだった妹が、死んで。」
あ、聞いてはまずかったかなとスザクが身構える。
しかし彼は気にしていない様子で目を細めた。
「乗っていた飛行機が墜落したんだ。それで・・・まだ幼かった俺は、妹が空を飛べたらよかったのに・・・なんて考えてな。最近唐突にそれを思い出したんだ。でもやっぱり空なんて飛べないな。妹には無理を言ってしまったようだ。」
そこまで言った後大きく伸びをした彼はその次の瞬間ぶるりと身体を震わせた。
当たり前だ。
溜息を吐きながらスザクは自分のコートを脱いで彼の肩にかけてやる。
彼は怪訝そうに眉を顰めた。
「お前が寒くなるだろう。この前のマフラーも借りっぱなしだし。」
「多分君よりは寒さに強いだろうから構わないよ。あのマフラーも前の女に貰った奴だからいらない。」
「・・・お前最低だな。」
「ははっ、よく言われるよ。」
笑いながら、彼は手を差し出してくる。
それを取って、スザクも笑った。
「ルルーシュ・ランペルージだ。」
「枢木スザク。よろしくね。」
曇天の中の何か
何が書きたかったのか正直わかりません^ρ^