次にスザクが彼に会ったのは、彼が屋根の上にいる時ではなかった。

今回彼が座っていたのは、近所の公園の大きな滑り台の上。

寒空の下、また彼は膝を抱えて座っていた。

白のカットソー。

前回のセーターより更に薄着になっている。

寒くないのだろうかと思わず立ち止まってしまった。

視線はやはり灰色の空に向けられていて、何を考えているのか想像もつかない。

関わらないのが得策。

普通のスザクならそう思うし、スザクじゃなくてもそう思うかもしれない。

それでも何故かスザクの足は彼の方に向いていた。


「何でいつも空を見てるの?」


滑り台の下から見上げるように、スザクは彼に問いかけた。


「もしかして、空を飛びたいとか思っているの?」


『ヒトは、空を飛べると思うか?』


初めて聞いた彼の声は確かにそう紡いでいた。

ずっと空を見ているし、もしかしたらそうなのかもしれない。

滑り台の裏手に回って階段を上る。

座っている彼の隣に立つと、彼の身体の細さに目を剥いた。

こんなにも細身なのにこの薄着。

スザクは自分の首に巻かれていたマフラーを手に取り、彼の首に巻きつけた。


「それ、あげる。風邪引くよ。」


やはり彼は黙ったままで、ずっと空を見ている。

空に何があるというのだろうか。

晴れ渡る青い空ならまだしも、いまは重い曇り空。

鳥が飛んでいるわけでも、飛行機が飛んでいるわけでもない。

本当に何も無いのだ。

スザクは眉を顰めた。

やはり関わらない方がよかったかもしれない。

反応も得られないし、ただ空を見上げているだけの彼をそのままに、スザクは滑り台を滑り降りた。

服の砂埃を払う。

マフラーを渡したことで肌寒くなった首元を庇うように肩を竦めて、ポケットに手を入れる。

数歩歩いて振り返る。

彼は空を見ている。

公園から出ようという時に、やめておけばいいのにと思いながらもう一度振り返った。


「・・・え」


彼は、スザクのほうを見て微笑んでいた。