簡素な造りの家の裏には畑がある。


やっとの思いで耕したその畑には野菜がたわわに実っていて、元々荒廃していたはずの土地にここまで素晴らしいものが出来ると何だか誇らしくなる。


太陽のように真っ赤に燃えるトマト、夕焼けのような人参。


綺麗な色のキャベツにレタス。


今日はこれらの野菜に合うドレッシングを作ろうと心に決めて、足取りも軽く収穫した野菜をいれた籠を抱えて表に回った。


そして。



「あ、君が『魔王』?はじめまして、僕『勇者』〜。」






嵐は、玄関のドアの前で停滞していました。











「は?」



然も不機嫌ですといった風に目を細めた『魔王』ことルルーシュは、目の前で何故か出された紅茶を優雅に飲んでいる『自称勇者』を睨みつけた。


そもそも世間一般的に『魔王』は『勇者』に討伐されるべき存在ではないのだろうか。


『勇者』が『魔王』の元を訪れる理由なんてその程度しか思い浮かばない。


そもそも討伐される様な悪行をルルーシュは行ったわけではないから討伐されに来ても正直困る。


だからこそ。


何をしに来たのだと、ここに来た理由はなんなのかと。


そう問うたのだが、『勇者』はとんでもないことを口にしたのだ。


思わずすまない俺の耳が悪かったもう一度言ってくれと頼んで。



「だから、君を嫁に貰いに来たもしくは君の婿になりに来たんだって。」



そして絶句。


そんな馬鹿な。


とりあえず冷静になろうと決めた。


きっと『勇者』は冷静さを欠いていて、だからこそこちらが冷静に対応して諭してやらねばという使命感でルルーシュは口の端を引くつかせながらも微笑んだ。



「『魔王』なんぞと呼ばれてはいるが性別を当て嵌めるなら一応俺は男だ。嫁にはならんし婿もいらん。」


「あ、今コイツ頭イカれてるとか思っただろ。大丈夫、君の性別が男だって分かるくらいには正常だよ。」



『勇者』は口をつけていたティーカップをソーサーの上に戻し、椅子から立ち上がって床の上に正座した。


そして深々と頭を下げる。



「僕の名前はスザク。不束者ですがどうぞよろしくお願いします。」



嗚呼、めまいが。


ふらつく身体をテーブルに預けて支えながら、ルルーシュは頭を抱えた。


そして『魔王』と『勇者』の奇妙な共同生活が始まった。




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