木漏れ日は穏やか。

息を深く吸い込めば肺に満ちるのは緑と、土の匂い。

自然に恵まれたその土地に、会いたい人はいるのだ。

もうすぐ会える。

そう思うと胸が弾み、それに同調するように足取りも弾み、躓いて転びそうになる。

咄嗟に支えてくれた腕があって難を逃れたユーフェミアは、その腕の主を見上げてほほ笑んだ。


「ありがとうございます。」

「気をつけないと今度は本当に転んでしまうかもしれないぞ?」

「はい、気をつけます。」


ほほ笑んだクロヴィスはその涼しげな表情とは裏腹に額に汗を滲ませていた。

芸術を愛するが故に、いつも活発に宮殿を走り回っていたユーフェミアよりも持久力がないのだ。

それでも兄の威厳を見せたいのかユーフェミアの荷物は率先して持っている。

人里よりも多少奥まった場所にあるその目的地までの道のりは意外と遠かった。


「思い出すなぁ」

「何をですか?」

「ほら、昔アリエスを訪れた時、私とユフィとナナリーと、ルルーシュで・・・かけっこをしただろう?あの後私にすら負けたルルーシュの機嫌をとるのにチェスをして、私がこてんぱんにやられた。」

「懐かしいですね」


その思い出はついこの間の事のように感じることもできるし、遠い昔の思い出のように懐かしむこともできる。

それは全てこの先の未来を知ってしまったからだ。


「お兄様」

「なんだい?」

「どうしてお兄様は、ルルーシュに会いに行くのですか?」


殺されたのに、憎くはないのですかと首を傾げられて、これは直球だなと苦笑したクロヴィスは空を仰いだ。


「全く憎くないと言えば嘘になるな。だからもしルルーシュが私を殺した事を覚えていたら、なんて酷い事をと怒るかもしれない。」

「覚えていなかったら?」


その言葉に、またクロヴィスは苦笑して、手に持った荷物を感慨深そうに見つめた。


「その時は、またあの頃のように朝までチェスでもしよう。」


こんなこともあろうかと、チェス盤は用意してきたんだ。

そう笑ったクロヴィスに、私は紅茶とお菓子を用意しますねとユーフェミアも笑う。

望んだ、穏やかな未来まで、もう少し。