どくどく、どくどく。
胸に手を当ててみる。
心臓は、動いている。
いつものように刻を止め、手に持ったナイフを埋め込むだけだった。
それは至極簡単な動作だ。
ただ、手を突き出せばいいのだから。
そんな失敗しようもない暗殺を結果的に『失敗』という形で終わらせ、依頼主にあたる男に殴り飛ばされた。
小さい身体は容赦なく吹き飛ぶ。
痛い。
ああ、これが痛みか。
漠然とそんなことを考えながら、今の身体に見合った小ささの掌を見る。
血で濡れている。
何度洗っても消えることの無い赤は、手に・・・というよりは目や、脳裏にこびり付いているのだ。
そして想う。
この汚れた手を、偽りでも取ってくれた者の事を。
『さすがは俺の弟だ』
そう微笑んでくれたのも嘘かも知れない。
嘘でもよかった。
憎かったはずの自分に、嘘でもそんな言葉をかけてくれるその優しさが、何よりの救いだったから。
「兄さん、は・・・嘘吐き・・・だから」
ぽつりぽつりと、同じ言葉を吐いた『あの頃』よりも幼く聞こえる声で、ゆっくり呟く。
痛む身体を起こし、もう一度掌を見る。
やっぱり、汚れている。
それでも。
それでも会いたい。
自分の事を知らなくても。
憎まれていたとしても。
唯一無二の、兄に。
ぐっと足に力を込めて立ち上がり、早鐘を打つ心臓に問いかけてみる。
逃げ切れる?
まるでそれに応えるかのように、強く強く、心臓が脈打つ。
力強い返答をもらい、ロロは走り出した。