「スザクさん、気づいていらっしゃるのでしょう?」


ルルーシュが買い物に出ている間、彼に頼まれて同じ場所にいるスザクに、ナナリーは顔をそちらへ向けないままそう小さく呟いた。

「え、何がだ?」

「態々取り繕う必要はありません。今お兄様はいらっしゃいませんから。」


静かにそう言うと、小さくため息をついてスザクは苦笑した。


「やっぱり君だけは誤魔化せないな。」

「私が騙されるのは、お兄様の嘘だけです。」


ゆっくりと瞼を持ち上げる。

初めて見る、幼い彼。

スザクは薄く微笑んでいた。


「やっぱり見えていたんだ」

「ギアスに負けていられない理由がありますから。」

「・・・それで、君は未来を変えたいの?」

「・・・はい」

「それはどちらの意味で?ルルーシュを死なせたくないのか、そもそもルルーシュをゼロにしたくないのか。」

「どちらもです。」


今の時代の己が実際に見たわけではないのに、あたかも実際見たかのように鮮明に思い出せる光景。

沸く民衆。

血に濡れて、どこか満足そうにほほ笑んだ兄。


「『ゼロ』を否定しておきながらこんなことを言うなんて・・・傲慢だと、自分でも分かっています。それでも私はお兄様を失いたくはないし、お兄様の望んだ世界にお兄様を存在させたい。」


『ゼロ』として世界の舞台に立たなければ、少なくとも自ら死を受け入れて命を落とすことはなかっただろう。

しかし、『ゼロ』がいなければ、世界は変わらなかったかもしれない。

それほどまでに彼の存在は世界に影響を与えた。

過程はどうであれ、事実彼は世界を優しくしたのだ。


「喪って、初めて気づいたんです。お兄様は世界に・・・世界を変える為に無くてはならない存在だった・・・『ゼロ』という記号が、大きな意味を持っていたんだって。」


膝の上の、少し汚れたブランケットを手で撫ぜる。

買い物に出ると言って、兄は自分のブランケットを膝にかけていってくれた。


「スザクさんは・・・お兄様の事を・・・」


彼は驚くでもなく、ただ、目を細めている。


「勿論僕も彼には生きていてほしかった。」


その声はどこか苦しそうで、ナナリーは思わず浮かびそうになった涙を堪える。


「ただ・・・例え時代を遡ったとしても彼が僕にギアスをかけたことには変わりはない。彼が望んだとおりに生きるのが、僕の大切な役目であり、罰なんだ。だから、彼が望まなきゃ・・・僕は動けない。」

「スザクさん・・・」

「それでも君の決意は変わらないんだろう?」


ナナリーはそれに力強く頷いた。

それに満足そうにほほ笑んで、スザクはナナリーの手を取った。


「何をする事が一番いい事なのか分かりません。でも何もしないよりはずっといい・・・だから私は・・・往きます。」

「うん」

「スザクさんはどうか・・・お兄様の傍に・・・ずっと。」

「約束する。」


握られた手の力強さが、決意の証だった。