はぁぁぁぁぁあっと、漏れたのは盛大な溜息。
それに近くにいた友人は目を見張っていたけれど、それも何処吹く風といった様子でリヴァルはガクリと項垂れていた。
ガシガシと頭を掻いて、見慣れたものと比べて随分小さく見える自分の掌を見つめる。
「俺達って今何歳だっけ?」
「なにいってんだよリヴァル〜10才だろ〜?」
だよなぁ、と落胆にも似た声を出し、また大きくため息。
広げていた手の指を折って数を数えていく。
「まだまだ、だよなぁ」
かけがえのない悪友に、出会える日まで。
どういうわけか、未来に起こることを知ってしまった。
本当にその記憶通りになるかは分からない。
ただもしその記憶通りに未来が進んでいってしまったら。
また、後悔することになるかもしれない。
今はまだ出会ってすらいない悪友。
彼の死に顔は穏やかで、微笑んでいるようにも見えて、幸せそうだった。
民衆は彼の死に沸いていて、彼の妹は悲痛な声で泣いていて、彼を殺した男は仮面で表情は伺えなかったけれど、きっと静かに涙を流していたはずだ。
そして己の心は、しんと静まり返った。
悪友を失って悲しい気持ちと、これ以上悪友が知らない人間になっていくことがなくなって安心する気持ち。
それらがお互いを打ち消しあって、何も考えられなくなった。
はっきり分かるのは、後悔が残ったということ。
彼が背負ったものも知らず、のうのうと生きていた自分に腹が立ったのだ。
もっと話をすればよかった。
話してくれなくても、友人として傍で笑っていることくらいはできたはずだ。
話しかけて無視されても。
仕方のない奴だなと苦笑してくれるまで、しつこく付きまとえばよかったのだ。
だから、と。
決意を胸にリヴァルはしゃがみ込み、靴の紐をしっかりと結びなおした。
背中のリュックには、それこそ今の自分にとって命よりも大切なものが入っている。
それを守りながら、目指すのは一番天辺。
深呼吸一回のあと、リヴァルは駈け出した。
生徒会役員として駆けずり回った、アッシュフォード学園。
ルートは記憶に刻みつけられている。
学園は休校の日で、恐らくは誰もいないだろう。
まずは目指す場所に入るためのカードキーを手に入れなければならない。
生徒会の人間であったなら鍵を手に入れることなど造作もなかったのだが、今のこの時代での自身は生徒会役員でもなければこの学園の生徒でもない。
ただの侵入者でしかないのだ。
「君ッ・・・こんなところで何してる!」
教員らしい男性が声を荒げるのを聞いた。
当然の結果である。
教員室に飛び込んでキーを強奪し、身を翻して全力疾走。
教員は警備員を呼んだらしく、追手の数はどんどん増えていく。
それでも立ち止まる理由にはならなかった。
走って走って、辿り着いたのは、屋上。
痛む肺と霞む視界に畜生と悪態を吐いて、背負っていたリュックの中に手を突き入れた。
父親の書斎から盗んできたライターと、筒状のものを取り出して。
それから伸びる糸に火を点した。
追ってきた警備員の手が、身体を攫む。
それでも、成し遂げたのだから。
後はどうでもよかった。
耳を劈くような音。
空を仰げば咲く色とりどりの花。
またここで一緒にに上げようと約束した、綺麗な花だ。
警備員にいとも容易く小脇に抱えられ、ああなんて自分はちっぽけなんだと笑ってみせた。
その時。
「こんな馬鹿なこと、やるのはアンタくらいだと思ってたわ!」
そんな声が響いて、抱えられていたはずの身体が地に下ろされる。
目を瞬かせて声のした方を凝視すると、そこには長年恋心を抱いてきた女性・・・と思わしき少女と、同じ生徒会役員であった筈の少女たち。
「かいちょっ・・・、シャーリー・・・ニーナ!!!」
「やっぱり皆、考えることは同じだわね。」
そう言ったミレイが、手に持った筒状のものを軽く持ち上げてみせる。
「さぁ、パーッと打ち上げるわよ!」
たくさんの花火と共に彼を待つことを、心に決めた。