「こちらモルディブから、お祭り娘ミレイ・アッシュフォードがお送りしまーす!本日はなんと!ハネムーン中の皇帝陛下にお会いしちゃいました!ルルちゃ〜ん?あれ、ルルちゃ〜ん?」
ミレイは、皇帝がいるであろう方向にマイクを向けようとしたのだが、肝心のその姿がない。
代わりにいたのはその騎士だった。
「不敬ですよ、会長。」
「あら、いいじゃない。私と貴方達の仲でしょう?」
「相変わらずですね。」
皇帝陛下の特別番組の担当は主にミレイだ。
皇帝とその騎士の学友であった彼女は、アナウンサーとしては唯一彼ら相手に軽口を叩ける人間だ。
お陰で多方面から引っ張りだこである。
「それで?ルルちゃんは?」
「あれ・・・本当に来ない・・・皇帝陛下―?」
スザクが振り向く。
ルルーシュの姿はない。
あれ?と首を傾げると、建物の陰からよろよろと歩いてくる細身のシルエット。
「あ、いました!我らが皇帝陛下です!ルルちゃーん!やっほー!」
「かい、ちょ・・・うっ・・・!」
壁に片手をついて、もう片方の手は口元に。
顔を真っ青にしたルルーシュは虚ろな視線を漂わせてミレイを見る。
心配して走り寄ったスザクがルルーシュのふらついた身体を支えるのを眺めていたミレイは、顎に手を添えて考える素振りを見せる。
「ルルちゃん。」
「なん・・・ですか・・・」
「ついに妊娠しちゃったのね。」
ほぁあ!?
顔を真っ赤に染めてそう声を上げたルルーシュに、その生中継をテレビの前で見ていた世界中の人々は大興奮だ。
萌えぇええ!と叫ぶ者さえいる。
しかしやがて、その観衆はあれ・・・と固まる。
妊娠?
「ルルーシュッ・・・ごめん、迸る僕の愛が神秘的な君の身体のナカに種として根付いてしまったんだね・・・!」
「なっ・・・そういうことを言うのはやめろ!はしたない!」
「心配しないで!幸せにするよ、ナイトオブゼロの名にかけて!」
「全世界の皆様!喜ばしいニュースです!皇帝陛下、御懐妊です!」
「なっ!違う!俺は男でっ・・・」
「僕はルルーシュ似の女の子がほしいんだけど。」
「話を聞けぇ!!!」
神聖ブリタニア帝国99代にして(元)悪逆皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの懐妊報道。
瞬く間に広まった祝賀モードに全世界は沸き立った。
自称生けるウェディングカーことスザクに担がれ長時間移動したことによる『乗り物酔い』で吐き気を催しただけだというルルーシュの言い分が通ったのはそれから三ヵ月後のことだった。
・・・・・
ところ変わってその頃、とあるオレンジ農園。
「なんとっ!!」
テレビを見ていたジェレミアは愕然とした表情で立ち上がった。
その余りの勢いにテーブルの上のマグカップが倒れ、コーヒーの黒が広がる。
『皇帝陛下、御懐妊の兆候』
そんなテロップを見せ付けられては忠臣ジェレミア、いても立ってもいられない。
今こそ立ち上がるときだ。
「アーニャ!アーニャ、どこにいる!」
「・・・ここ。」
リビングに顔を覗かせたアーニャの姿を確認して、ジェレミアは奮い立つ。
「ルルーシュ様に御懐妊の兆しが見えられたそうだ。」
「・・・うん。」
「御懐妊といえば悪阻!悪阻といえば酸っぱいもの!今こそ我らの作り上げしオレンジが役に立つ時だ!」
アーニャがピッと指に挟んだ紙を示す。
宅配業者の送り状だ。
宛先は勿論ブリタニア皇帝。
「・・・クロネコルルコ、手配しておいた。」
「でかした!急いで上質のオレンジを選別するぞ!」
それから計500個のオレンジを送りつけたジェレミアはこっ酷くルルーシュに叱られた。
オレンジ涙目。