ねぇ、ルルーシュ。

あれから世界はずいぶんとマシになったわ。

戦争に向いていたエネルギーは今は飢餓や貧困に向けられている。

いろんな憎しみや悪事はほとんど貴方一人に押し付けられている。

みんな、ダモクレスというシステムより名前のある一人のほうが分かりやすかったってことかしら。

調子の良い話よね。

でも、だからこそ、みんなは過去に囚われず、先に進めるのかもしれない。

計算どおりだって貴方は笑うのかしら。

もちろんいろんな問題は残っているけど・・・。




っていうかまさか憎しみを全て背負った貴方が、こんなにも人気者になるなんて思ってもみなかったわ。





部屋を飛び出すと、母は穏やかな表情で湯飲みに口をつけていた。

トースターの中できつね色に色づいたトーストを指で摘まんで、口に銜える。

香ばしい風味が口の中に広がった。


「お母さん、行ってくるね。」

「あ、カレン。ちょっと待って。」


ひらりと手を振ってリビングを出ようとしたカレンは、母の言葉に立ち止まる。


「今日は早く帰ってこれる?」

「部活があるから夕方過ぎになるけど・・・」


何かあったのかと思えば、母はテレビを指差していた。

思わず手に持ったトーストを落しそうになる。


「午後3時から、ルルーシュ陛下の特集ですって。」


『奇跡の悪逆皇帝、ルルーシュ陛下生出演!』


ははっ、と乾いた笑いが口から零れた。


「・・・ビデオに録画しておいて。」

「それが、もうビデオテープの買い置きがないのよ。」


今度は母がテレビの横にあるラックを指差す。

そこには所狭しと並ぶビデオテープの数々。


『新婚さんいらっしゃい(ルルーシュ陛下ご出演特別SP)』

『突撃!隣の晩御飯!特別SP、突撃!隣のルルーシュ陛下!』

『ルルーシュ陛下・愛の奇跡』

『もえもえ!ルルーシュ陛下』

『スペシャルドラマ『きみがいる〜愛を勝ち取ったナイトオブゼロ〜』』

Etc・・・


ルルーシュがテレビに出るたびに録画を繰り返していたせいで、ビデオテープの消費量がすごいことになっている。

しかも全て『ツメ』が折られているため上書きして録画することが出来ない。

「だからHDレコーダー買おうって言ったのに!」


今日は部活はサボるしかなさそうだ。

ピピピッ・・・と思考を遮るように携帯が音を立てて震えた。

新着メール一件。


送り主はジノ・ヴァインベルグ。


『今日学校が終わったら会えないか?』


返信は決まっている。





ルルーシュの特番があるから無理!






ジノ涙目。