変な胸騒ぎがして目を覚ましたルルーシュは、霞がかった思考をどうにか働かせながら枕の下に手を差し入れた。 
 
手に当たるのは無機質な触感。 
 
護身用のナイフを握り締めて、物音を立てないようにベッドから這い出す。 
 
ヒュウッという風の音と、ソレに靡くカーテンの衣擦れの音。 
 
息を潜めてベッドの天蓋の隙間に手を差し入れた。 
 
開け放たれたドア。 
 
バルコニーに何かの影があった。 
 
身構えたルルーシュは声を上げようとして、そして咄嗟にそれをやめた。 
 
賊の侵入を外部に知らせれば助けはきっとすぐにくる。 
 
でも何故かそれをする気にはなれなかった。 
 
そうするべきではないと自分の中の何かがそう告げていたから。 
 
ゆっくりと歩く。 
 
ナイフを握り締めた手に汗が滲んだ。 
 
ちょうどその影と向き合える場所まで行って、震える声を出す。 
 
 
「だれ・・・だ・・・」 
 
 
影は、勿論人間。 
 
しかしその痩躯をマントで覆い、不思議な形の仮面を被っていた。 
 
 
「・・・欲しいのは我が命か。この地位も有って無いような私に殺す価値があると、そう思うならそれ相応の理由を言ってみろ。」 
 
『命?』 
 
 
機械的な声。 
 
仮面の中に変声機でも仕込んでいるのか。 
 
怪訝そうに眉を顰めたルルーシュの目の前で、仮面の男は首を傾げた。 
 
 
『私が殺す?お前を?・・・この身が裂けようともありえない話だな。』 
 
「では何故ッ・・・」 
 
『私はただお前に会いたかっただけだ。』 
 
「ならばその仮面を外してみろ。仮面を被った状態で会いたいなどと言われても・・・」 
 
『・・・ああ、この仮面か。ここまで忍び込むのに顔を見られるわけにはいかなかったからな。』 
 
 
そう言って、男は仮面に手をかける。 
 
ギミック式なのだろうか。 
 
カシャンという音が響いた。 
 
仮面がゆっくりと外され、現れた色は黒。 
 
そして、燃え盛るルビーのような双眸。 
 
 
「お前・・・だれ、だ・・・?」 
 
 
呆然とするルルーシュの目の前で、男は微笑む。 
 
 
「私は生まれていない。故に名は『ゼロ』。何よりも大切な『片割れ』であるお前を、愛しにきた。」 
 
 
相違点は瞳の色だけ。 
 
まるで鏡合わせのように、二人はそこに存在した。 
 
 
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