ぼんやりと天井を見つめて、少し身じろぐ。
その瞬間右の手首に走る鈍い痛み。
鈍色の手錠がそこでじゃらりと音を立てた。
くすくすと笑う声が耳元で聞こえて、少しだけ視線を向けた。
彼は、とても楽しそうに微笑んでいた。
「どうした?」
「・・・何も」
そう小さく呟いただけの唇を、覆いかぶさるように身を起こした彼が塞ぐ。
貪るように。
魂を吸い取るように。
そして、慈しむように。
啄んで、舌を絡めてくるその動きに全てを任せる。
ちゅっと音を立てて名残惜しそうに唇を離していく彼を、スザクはただ見つめた。
真っ白で染み一つない肌は上気し、淡い赤に色づいている。
アメジストを嵌め込んだ様な双眸の眼差しはいつもどおり強気に充ち溢れていたけれど、どこか泣いているようにも見えた。
唯一自由になる左手をふいっと動かして、彼の黒髪に触れる。
さらさらと風に靡いていたはずの黒髪は今、いつだったかスザクが放った精を浴びた為に乾いて固まっていた。
苦笑した彼はスザクの頬を一撫でする。
「シャワー浴びてくる。後でお前も拭いてやるからな。」
そう言って、起き上った彼はベッドから降りて部屋を出て行った。
全身の倦怠感を振り払うように頭を振って、それから息を深く吸って、そして吐く。
彼が跨っていたおかげでスザクの身体もベタベタだった。
乾き始めているそれが何とも気持ち悪い。
早く帰ってきて拭いてくれとぼんやり考えていると、ふと背中のあたりが震えた。
マットの下に隠してある携帯。
それを身を捩って取り出す。
また手錠がじゃらりと音を立てた。
やっとの思いでそれを手にとって、通話ボタンを押した。
『おいスザクッ・・・今どこに・・・!』
「ああ、ジノか。」
切羽詰ったような同僚の声にも、淡々とした口調でスザクは応えた。
『任務もほったらかしで詰所にも戻ってこないし・・・一体何があったんだ!?』
「ごめん、今ちょっと身動き取れないんだ。だからそちらには戻れない。」
『まさかっ・・・捕まってるのか?』
捕まっている。
その表現は間違いではないだろう。
手錠で繋がれ、食事も何もかも管理されて。
『場所は分かるか?すぐに助けに・・・』
「いいよ、ジノ。」
静かに、スザクは呟く。
電話の向こうでジノが息をのむのが分かった。
『スザク!』
「救援はいらない。僕は大丈夫だから。」
『大丈夫なワケあるか!』
「本当に、大丈夫なんだ。」
じゃらりと音を立てる手錠を弄ぶかのように、何度も何度も手首を振る。
チープな造りのそれを壊すのは容易い。
動きを封じられているのは右手のみ。
何かあればこうして通信もできる。
逃げる気になれば、いつでも逃げることはできた。
「じゃあね、ジノ。いつか・・・また・・・」
いつか、ここから抜け出す日が来たとしたら。
ジノが何か叫ぼうとしたのを遮るかのように通話を切る。
ふぅっと息を吐いて、携帯の電源を落とした。
それとほぼ同時に、ドアの向こうから彼が顔を覗かせる。
彼はスザクの手に握られた携帯電話を見て、逆上したように顔を歪めた。
毛先から滴る雫を散らしながら足早に歩み寄り、手から携帯電話を奪い取って力任せに放る。
鈍い音を立てて、壁に当たった携帯は床に落ちた。
その双眸から涙をボロボロ零しながら、彼は縋りついてくる。
「いや、だ・・・どこへも行くなッ・・・俺を一人にするな・・・!」
震える身体にそっと手を添えて、スザクはほほ笑む。
「僕は何処へも行かないよ」
頬笑みかければ、彼は大粒の涙を零しながらゆっくりと顔を上げる。
しゃくりあげる彼の頬をゆっくりと撫でた。
タナトスの囁きは甘く
「君の、傍にいるよ。ルルーシュ。」
君が僕に囚われている内は、僕も君に囚われてあげる。
『ヒュプノスの眠りは深く』と兄弟(?)にあたる話です。
まぁタナトスはヒュプノスの兄弟ですしね。
あちらではスザクが壊れていましたが、今回はルルーシュの方が壊れ気味です。
ヒュプノスをUPした時点でこちらも上げようと思っていたのですが、ヒュプノスがあまりにもアレな内容だったので、こちらにも修正を少しだけ加えて結果的にスザクもちょっと壊してみました^ρ^
最近こんなんばっかでスイマセンwww
シリアスとか盲目的な愛が書きたい気分だったんですwwww
そろそろギャグも書きます←
2009/09/08 UP
2011/04/06 加筆修正