「後は追うなよ。」
「僕が、君の後を?追うわけないじゃないか。」
ジェレミア卿じゃあるまいし。
そう吐き捨てれば、ルルーシュは「そうだな」と苦笑した。
ルルーシュが視線を送った先に、ジェレミアは黙って立ち尽くしている。
その頬を涙が音もなく伝い、それでもジェレミアは声を出さぬように唇を噛み締めていた。
「後は追うなよ、ジェレミア。お前には役目があるだろう?」
「・・・はい、全て我が君の御心のままに。」
一度主君を喪ったジェレミアは、その時の虚しさが忘れられずにいた。
その虚しさをもう一度味合わせるのは、今まで尽くしてくれた彼に対していささか酷な気もする。
しかしジェレミアが所有する力は世界にはまだ必要だ。
ギアスキャンセラー。
この世からギアスを消すために、彼には世界中を廻れと命じてある。
ルルーシュや、前ブリタニア皇帝のギアスにかかった者たちのギアスを消す。
それはジェレミアにしか成せない。
「あとC.C.を頼むよ。せめてお前が生きている間だけでも気に掛けてやってくれ。」
C.C.のコードはまだ彼女の身に宿っている。
死ぬことはなく、また永遠という拷問に苦しめられ続ける。
コードを継いでやれなくてすまない。
ルルーシュがそう言えば、C.C.はいつものように高圧的な笑みを浮かべた。
『お前のような童貞にくれてやるほど私のコードは安くはないさ。』
それは強がり。
そしてルルーシュに業を背負わせてたまるかという彼女の優しさでもある。
「さて、そろそろ時間だ。」
「ルルーシュ」
「これは契約。俺と、お前の。」
「ああ。」
ゼロ・レクイエム。
終焉のときが訪れる。
世界は『悪逆皇帝ルルーシュ』の名を持って破壊され、そして新たに創造された。
もうブリタニアという国はない。
もう『皇帝』という存在も、その意味を成さない。
スザクが腰に差していた剣を引き抜き、無言でルルーシュを貫いた。
白の衣装が、赤に染まる。
ぐらついた身体を、スザクは抱きとめた。
静かにその身体を横たえてやると、ルルーシュが少し咳き込む。
色素が失われていく唇の隙間からまた新たな赤が溢れた。
ははっ、とルルーシュは笑った。
「次、生まれ・・・変わる時、は・・・頭の悪・・・い、人間になり、たいな・・・」
「それは僕に対する嫌味かい?」
「そんな・・・じゃ、ない・・・さ」
世界をも動かすことが出来る程の頭脳を持っていたからこそ、その人生は波乱に満ちた。
来世は、平凡に。
小さな幸せを模索して生きる、凡庸な人間に。
「ユ、フィ・・・」
傷つけて、すまなかった。
「シャー・・・リ・・・」
傍にいてくれて、ありがとう。
「ロ・・・ロ」
嘘をついてばかりで、悪かった。
「ナ・・・ナ、リ・・・」
何か言葉を紡ごうと動く唇からは、それ以上何の音もすることはなかった。
「ジェレミア卿、最初の仕事・・・お願いします。」
「しかしそれは陛下の御心に反する。」
「いいんです。」
もう何回嘘を吐かれたか。
回数では表せない。
「きっとこれは彼が今一番吐かれたくない嘘だから。だから僕は彼を裏切る。」
それは憎しみが伴ってのことではない。
ただ親友として。
一人の人間として。
愛してしまったから。
ジェレミアは愛しき主の躯に「申し訳ございません」と一礼した。
主の意思に背くことになったとしても、ジェレミアはこうするのが一番いいのだと、そう割り切った。
静かに伏せられた右目。
それと相反するように左の『目』がカシャンと音を立てる。
青い光が溢れて、あっという間に包まれた。
スザクの目を輝かせた赤い光が点滅し、徐々にその光を失っていく。
「ありがとうございます。」
「・・・枢木卿・・・貴殿は・・・」
「皆のこと、よろしくお願いします。」
自らの握っていた剣が、自らの身体を貫く。
血を吐いて這い蹲れば、そこには愛しい男の顔。
「ルル・・・シュ・・・」
やっぱり、憎しみが消えてしまうほどに。
「愛・・・して・・・る」
まだ少しだけ熱を帯びていた彼の手を握り締めて、スザクは静かに目を閉じた。
1つの終焉、そして始まり
これからジェレミアはギアスキャンセルの旅に出ます。
ルルーシュが何を思っていたのかも伝えるために・・・メッセンジャー?
リヴァルやミレイのところにも行って。
最後はナナリーかな。
目が見えるようになるかな。
リクエストがあればジェレミアの旅の模様も短めに書こうかと思います。