元々浅かった眠りは、囁かれる声によって簡単に覚めてしまう。
意識がはっきりしていくにつれて身体全体を覆う倦怠感と不快感に眉を顰めた。
寝巻きは多くの汗を含んで肌に張り付き、少しだけ重さを増していた。
そのせいだけではないが身体が重く、起き上がろうとした動作は結局身じろぐ程度で終わってしまった。
「ルルーシュ」
気遣うような声が名を呼ぶ。
憎しみの篭らない、スザクの声だ。
お互いを分かり合うのに随分と時間がかかってしまったが、やはり親友はかけがえの無い存在で。
何もかも喪ってしまった今、彼が傍にいてくれることが何よりも心強い。
「ルルーシュ」
「スザ・・・ど、した?」
「どうしたって・・・君が魘されていたから。熱もあるみたいだし。」
「疲れが、でたんだろ・・・」
「そうだね、最近忙しかったし。君もよく体調崩すようになったね。」
汗で張り付いた前髪を掻き分けて、額に手が乗せられる。
その冷たさに目を細めた。
「冷たくて・・・気持ちいい、な・・・」
「君が熱すぎるんだ。待ってて、今着替えとタオル持ってくるから。」
侍女はいない。
普通ならば高い身分ゆえに大勢の侍女がいるものだが、ルルーシュは決して傍に侍女をおかない。
最低限掃除をするようなメイドはいるが、身の回りのことは全て己でやる。
体調を崩すようになってからはスザクが。
甘えるように縋ればスザクは苦笑して、髪を撫でてからルルーシュが望むことをしてくれた。
ふぅっと息を吐く。
視界はグルグルと回っているし、吐き気がある。
困ったものだと自嘲した。
「言わないのか、枢木に。」
「・・・いたのか。」
ベッドの天蓋のレースの影が動いた。
鮮やかなライトグリーンは宵闇の中でもその存在を誇張する。
C.C.はお気に入りの人形を抱えたまま、横たわるルルーシュを見つめた。
怒っているのか、嘆いているのか、呆れているのか。
どれが正しいのかは分からない。
彼女はあまり感情を表には出さないから。
「言うなよ。」
「さぁな、約束は出来ない。私はC.C.だから。」
「言ったら・・・もう一生ピザの香りすら嗅ぐことが出来なくなると思え。」
「それは困るな。」
ははっと笑ったC.C.はあまり困ってないようにも見えた。
しかしピザ以外に自由奔放な彼女を縛れる手段は持ち得ない。
次なる手を考えるしかないだろうか。
痛む頭に手を添えて深く息を吐き出した。
「枢木が怒るぞ。」
「そうだな。次こそ殺されるかもしれない。」
散々嘘を吐き続けてきた。
これからも、嘘を吐く。
手を取り合っても尚、嘘を吐かれていると知ったら。
「まぁ・・・それもいいさ。」
「ルルーシュ。お前の時間は・・・」
「言うな。自分の身体の事くらい弁えている。」
両目に発現した絶対遵守の力。
力を増したそれは使用するごとに『命』を喰らうモノになった。
ブリタニアを作り直すため、広範囲に何回も。
過度の使用が身体を脆弱にし、蝕む。
体調を崩すようになった・・・のではなく、事実壊れかけているのだ。
体力も無いため身体の変化にもついていけない。
それでもまだ五感は生きているし、五体も満足だ。
今はそれで十分だと思う。
スザクに身体のことは伝えていない。
伝えるつもりもない。
世界が変わるのを見届けるまで。
あるいは、この命が終わるまで。
「神に背いた罰かな。」
「神を、信じているのか。」
「信じるより他無いだろう。俺は『神』を遵守させてしまったんだから。」
「・・・そうだが。」
「神の存在は認めるよ。祈りはしないがな。」
祈ったところでどうにもなりはしない。
祈って願いが叶うなら誰も苦悩などしないだろう。
神はいつでも傍観者。
生死は生まれた時に運命付けられたもの。
それが『天命』ならば従うのみ。
「死んでも、きっとユフィやロロやシャーリーや・・・ナナリーのところには行けないだろうな。」
「当たり前だろう。お前は地獄行きだ。」
「酷いな。」
やっとの思いで身体を起こせば、全身を駆け巡った悪寒に身体を震わせる。
寒い。
でもそれは身体だけで、心が寒くなることは無かった。
「ルルーシュ!着替え持って・・・って駄目じゃないか、寝ていないと!」
戻ってきたスザクは身体を起こしているルルーシュに瞠目して、仕方ないなとタオルで身体を拭いてやる。
「C.C.も。ルルーシュは具合が悪いんだから。」
「ああ、悪い。じゃあお邪魔虫は消えるとしよう。」
「そういう事じゃなくて・・・ああ、もういいや。」
「アレの扱いは難しいんだ。」
「そうだね。」
すっと闇に解けるようにいなくなったC.C.は、いつもルルーシュの傍に寄り添っている。
「彼女と、何を話していたの?」
「なんだ、妬いたのか?」
「・・・ルルーシュ。」
「そろそろピザばかり食べてないで健康的な食生活をしてみたらどうなんだって話。何のことはないさ。」
スザクに手伝ってもらいながら寝巻きを新しいものに変えた。
倦怠感はあるものの不快感は消えた。
「一晩中俺の手を握っていろ。」
「えー、それじゃあ僕は寝れないじゃないか。」
「じゃあここで寝ればいい。いいか?我が騎士スザク。」
「Yes,your majesty」
大きなベッドは、スザクが入り込んだところで狭いとは感じさせない。
隣から伝わる暖かさが、嬉しくて。
胸が痛かった。
神に捧ぐ鎮魂歌
「君、少し痩せた?」
「スザク」
「・・・なんだい?」
「俺は謳うよ、『零』のレクイエムを。」
最期まで。
最近スザルルを書くことが多くなったのは公式のおかげw
でもこういうネタ、何番煎じだって感じですね。
だんだんルルーシュが衰弱していったりとかしたら困る、萌えすぎて。
すいません・・・大好きなんです病気とか病弱とか死期が近いとか←最悪
・・・ちゃんとリクエスト小説も書いてますよ!(汗
2008/09/14 UP
2011/04/06 加筆修正