しがないファーストフード。
売るのはハンバーガー。
客足も少なく、潰れるのは時間の問題と噂されていたその店に連日長蛇の列が出来るようになったのは最近のことだ。
午前10時開店。
24時間営業が主流となり始めているファーストフードにしては遅い開店だ。
しかしその奇跡が始まった日。
口コミであれよあれよと客が増え、午後1時には全ての商品が売切れてしまっていた。
潰れかけの店らしく、元々そこまでの量を作っていなかったとはいえこれは異常なことだった。
翌日からは半信半疑でストックを増やしたものの、やはり午後3時には完売。
日に日に作る量を増やし、何とか営業できるようにはなったものの、それでも閉店時間の午後11時には在庫が全て底を尽きている状態だ。
売り上げは100%UP越え。
だって元々一日に一つも売れないような店だったのだから。
店主涙目。
「いらっしゃいませ。」
今日も、奇跡を起こした男の声が店内に響く。
アルバイトとして働くルルーシュ・ランペルージは、貼り付けたような笑顔で来店した客に挨拶をする。
なんともわざとらしいそれは批判を浴びることは決してなく、逆に客が黄色い声を上げるほどだ。
『仕方なく笑っている感じが何故か萌える。』
家族連れで訪れた女子高生(16)は語った。
艶やかな黒髪と対を成すような象牙の肌。
洗練された顔を彩るようにはめ込まれたアメジストのような双眸。
女性顔負けの細身の体躯のせいで『女性』と言われても納得できてしまうほどだ。
すらりと長い指がトレーに籠を載せ、さらにその上に注文を受けたハンバーガーやポテトを乗せていく。
レジを打つのは目では追えないほど素早く、そして正確。
適確に釣銭を渡し、(貼り付けたような)スマイル。
「ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ!」
注文をしていた女性は深々と礼をし、トレーを持って覚束無い足取りで店内の椅子に座った。
全く、なんだって俺がこんなことを。
笑顔の裏で、そして心の中でルルーシュは毒吐いていた。
何故アルバイトを・・・と言えば、原因は一つだ。
単位が圧倒的に足りない。
勿論何のといえば体育の単位が。
しかしルルーシュの体力の無さは自他共に認めるものであり、哀れに思った(正確にはルルーシュに絆された)教師陣が条件付での補習をヴィレッタに願い出たのだ。
潰れかけの一軒のファーストフード。
そこを2週間の間、繁盛させてこい。
それが補習内容。
余りにも過酷なその内容に最初は絶望したルルーシュだったが、実際に店に訪れた彼の脳内には既に『勝利』の二文字しか存在していなかった。
荒れた店内の清掃と改装。
A型ルルーシュの得意分野だ。
商品の改良と目玉商品の開発。
これも料理上手なルルーシュにとっては造作も無いこと。
あとはどうやって客を呼び込むか。
それについては145通りのプランを考え、それから候補を絞っていくつもりだったが、その必要は無かった。
ルルーシュの容姿に惹かれた客が口コミで客を呼び寄せてくれたのだ。
あっという間に店は大盛況。
何と容易いことか、フフハハハハハハ。
その高笑いも声に出すことは無い。
「ありがとうございました。」
マニュアル通りの受け答えしかしていないはずなのに、それでも何故か客は喜ぶ(ルルーシュに自覚は無い)。
ほんの少しだけ微笑んでやれば、その客は翌日には大勢の連れを従えてやってくるのだ。
本日も売り上げは好調。
何の問題もない。
全て売りつくすまでここで笑顔を浮かべていればそれでいい。
しかしそんなルルーシュに最大のピンチが訪れることになろうとは、誰も予想していなかったのだ。
ウィーンと店の自動ドアが音を立てて開かれる。
しかし何故か無駄に広い店内に長蛇の列が出来上がってしまっているせいか、新たに店に足を踏み入れた人物を目視することができない。
「いらっしゃいませ。」
ひとまずはそう声をかける。
その途端、視界が急に拓ける。
長蛇の列が、左右にざっと割れたのだ。
まるで誰かが通るための道が出来たかのように。
ついには今現在ルルーシュに注文をしていた女性までさっと脇に避けてしまう。
何事か、と顔を上げたルルーシュは驚きの余り目を限界まで見開いた。
※注意
ここからは分岐END制になります。
駄菓子菓子!(古)
全員キャラ崩壊してます。
特に星刻。
純粋にファンの方はきっと後悔するので見ないでください。
多分すっごいつまんないです。
結構スペース空けてあるので、それぞれのエピソードの下にある↑リンクでここまで戻ると便利かと思います。
僕は、ナイトオブワンになる!
あやつめ、やりおったか!!!
私が最も愛し、恐れた男です。
我が心に迷い無し!
あとがき
ナイトオブセブン、枢木スザクの場合
きゃあっと女性客らから声が上がる。
何事か、とルルーシュが視線をやれば、そこには青の色彩。
どこか深みのあるその青のマントを翻して現れたのは、何かと因縁の絶えない枢木スザクである。
ナイトオブラウンズの正装のまま現れたスザクは、他の客が避けた事で出来た通路をゆっくりと歩いていく。
ルルーシュは焦っていた。
まさか記憶が戻っていることがばれたのか。
まずい、激しくまずい。
しかし何故ばれた!?
ばれる要素が何かあったのか!?
くそっ・・・わからない!
・・・ナナリー!!
ドサッ
「8000ブリタニアポンドある。」
「スザ・・・お客様?」
今は営業中。
いくら顔見知りと言えど、『お客様は神様』という信条を掲げている店の意向に背くわけにはいかない。
しかし許されるならば、何を考えているのかと怒鳴りたかった。
スザクがカウンターの上に置いた革製の鞄から大量の札束覗いていたのだから。
ルルーシュは瞠目して、スザクを見つめた。
「これで、君のスマイルを買いたい。」
「・・・はぁ!?」
「『ポテトはSにしますか?Mにしますか?それとも・・・俺?』って言ってくれたら尚良い。」
「・・・ご要望の意味が分かりかねます。」
言っている内容はすごくふざけているのだが、スザクの表情が真剣だから困る。
「えーっと・・・」
「間違った過程で得た結果に意味は無いんだ。」
「・・・お前それ言えば全てカタがつくと勘違いしてないか?」
↑
神聖ブリタニア帝国98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアの場合
何故だ。
何故ここに。
ルルーシュはだらりと伝っていく汗を感じながら目の前を見据えた。
明らかにおかしい出で立ち。
真っ黒なコートを纏った体格のいい二人組みだ。
どちらも男性。
周囲が騒ぎ始める。
中には度肝を抜かれて腰が抜けてしまう者すらいるほどだ。
黒いコートの男性が一人、カウンターに近づいてくる。
もう一人の男性はその後ろにそっとついてきた。
ルルーシュは改めて彼と対峙する。
目深に被った黒の帽子から覗くのは顔ではなくて、白い・・・白い・・・。
ロールケーキ。
「い、いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」
「うむ。」
「かしこまりました。ご注文をどうぞ。」
平静を装っていられるのだから、己の精神も強靭になったものだと。
もう今すぐ声を上げて己を褒め称えたい気分にルルーシュは駆られた。
彼はじーっとメニューを見て、適当な注文をし、もう一人の男性を連れて店内の席についてしまった。
(何故だ・・・正体がばれたわけではない?しかしそうでなければ奴がこの店に訪れるはずが無い!この区域にあるファーストフード店の数から計算してこの店に奴が来る確率は31分の1・・・もしそこに俺の存在がバレたという要素が加わるとすると確率は一気に跳ね上がって・・・)
ぶつぶつと呟きながらも、やがてどっと押し寄せた客の波にルルーシュは呑み込まれてしまった。
「陛下・・・もうそろそろお戻りにならないと・・・」
「じゃかぁしぃわビスマルクゥ!ワシは可愛い我が子の参観日に来たのどぅあ!」
(じゃあ何故日本に出したんだ・・・)
そんな会話が繰り広げられていることを、ルルーシュは知らない。
↑
神聖ブリタニア帝国第二皇子、シュナイゼル・エルブリタニアの場合
何故だ。
何か間違いを犯してしまったのか。
ルルーシュは混乱していた。
逆光に照らされて立っていたのは一人の男だった。
むしろ逆光でずっとその姿が見えなければよかったのに。
無意識の内に握りしめていた手に汗を握った。
しかしもしかしたら相手は気づいていないかもしれない。
このファーストフードに来たのも偶然で。
そしたら、何事もなくふるまえば、それで何事もなくすむかもしれない。
カウンターまで進んできた男は、腕を組み、しかし片手は顎に添えて何かを考えていた。
ルルーシュは精いっぱいほほ笑む。
「いらっしゃいませ。お客様は店内でお召し上がりでしょうか、それともお持ち帰りで・・・」
「・・・・・・」
男は何も言わない。
今度はルルーシュの額に汗が浮かぶ。
周りの客は固唾をのんで見守っている。
「あの、お客様・・・」
「・・・・・・いいね。」
「は?」
その男、名をシュナイゼル・エル・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国第2皇子にして宰相。
そして最も皇帝の座に近い男。
義理の兄であるシュナイゼルはルルーシュを見つめたあと微笑んで。
そしてもう一度「いいね」と呟いた。
「あ、の・・・」
「失礼するよ。」
そのままシュナイゼルは踵を返した。
何も買うことなく、そしてルルーシュにそれ以上何の言葉もかけずに。
バレなかったのならそれでいい。
それが一番いい。
ルルーシュは静かに息を吐いて、嵐が去った店内でまたほほ笑んだ。
「なに・・・?」
カノンの報告を受けて、シュナイゼルは首を傾げた。
視察に行ったエリア11で掘り出し物を見つけた。
それはしがないファーストフードで、皇子であるシュナイゼルには縁のない場所だった。
しかしカウンターの向こう側でほほ笑む彼は、どこか昔喪った弟に似ていたのだ。
敬愛するマリアンヌ皇妃の血をそのまま受け継いだ容姿と、冴えわたる頭脳。
最も愛し、その知性ゆえに最も恐れた義理弟、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
彼は死んだとされ鬼籍に入っている。
しかしどこか懐かしく思い、その店ごと買い取ったのだ。
これで、彼と話ができる。
そう思ったのに。
「申し上げにくいのですが、その・・・彼は二週間限定のアルバイトだったらしく。業務委託などの手続きをしている間に契約期間を終えてアルバイトを辞めたそうです。」
カノンは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
いや、いいよ・・・と声をかけてシュナイゼルはまた顎に手を当てて考える。
勿論、彼のことを。
「・・・いいね。」
簡単には手に入らない感じが、なんともたまらん。
↑
中華連邦武官、黎星刻の場合
「なっ・・・」
思わず声を上げてしまった。
何故彼がこの場にいるのか、全く持って理解できない。
黎星刻。
中華連邦の要とも言うべき彼が、何故ファーストフードに!?
ルルーシュは混乱しつつも深呼吸し、何とか落ち着こうと努力する。
幸い彼はゼロの正体を知らない。
今自分の目の前でアルバイトをしている男がゼロだ、と気付くことはないだろう。
落ち着いた者勝ち。
よし!と気合を入れて、微笑む。
「お、お客様、店内でお召し上がりですか?」
「いや、出来れば持ち帰りたいのだが。」
「畏まりました。ご注文をどうぞ。」
カウンターの上に置いてあるメニューと睨めっこをすること数十秒。
客も後ろに閊えているというのに迷惑な。
もう一度声をかけようとしたとき、星刻は静かに、聞こえるか聞こえないかギリギリの声で囁く。
「・・・・・・キッズセット・・・一つ。」
「は・・・?」
マズい、イレギュラーすぎた。
全身の血の気が下がった。
慌てて脳内マニュアルに検索をかける。
「え、っと・・・申し訳ございません。そちらのセットは12歳以下のお子様のみのセットとなっておりまして・・・」
「違っ・・・私のではない!これは・・・」
「えー・・・天子様も13歳でいらっしゃいますから対象では・・・」
口にした後で、ルルーシュは墓穴を掘ったことに気がついた。
その証拠に、星刻は怪訝そうに眉を寄せている。
ただのファーストフードの店員が何故一人の男から『天子』という言葉を導き出したのか。
「貴様・・・もしや・・・」
ああ、逃げ出したい。
この場で正体がばれるのだけは避けたい。
だらりと汗が滲み出る。
「そうか、君も天子様のよさが分かるか。」
「・・・は?」
「隠さなくて結構。私も天子様のよさを分かってくれる御仁に出会えたことを素直に喜んでいる。」
星刻は表情を崩さないまま、無言で自らの懐を漁り始めた。
なんだ、今度は何が始まるんだ。
取り出されたのは一枚の紙。
正しくは写真。
天子が侍女に・・・着替えを手伝ってもらっているらしい、明らかにおかしいアングルの写真。
(完全に隠し撮りなアングルだろうこれは!)
「秘蔵だ。一枚だけ差し上げよう。」
「いらんわ!」
↑
今更過ぎですねぇ。
でもこれ、本当はSE4が出る前に書いたものです。
ごみ逝き作品を整理してたら出てきました。
SE4の内容のあらすじだけ読んで書いたんですが、なんとも酷いw
とくに星刻には土下座するしかないです。
因みに8000ブリタニアポンド=150万円位だと思います。