俺を裏切ったな




そう叫んだ声が、耳について離れない。

裏切り。

スザクは自身がつけられていたことには気付かなかったが、それでも二人きりで会うはずの場に他の人間がいて捕らえられてしまえば、相手が裏切られたと思っても仕方の無いことだ。

裏切ったな。

その言葉をもう一度反復して、噛み締める。

感情は漠然としていて、今胸中に渦巻く感情が悲しみなのかどうかすら分からない。

ただ虚無感はある。

心に穴・・・というよりは肺に穴が開いてしまったのではないかと思うくらい息苦しい。

軍が撤退していく。

ルルーシュを乗せたKMFはもう目視できない。

枢木神社に一人残されたスザクは動くことが出来ずに、ただその場に立ち尽くしていた。

ざわざわと、風に靡く木々の葉が音を立てる。

耳に届くその音に、誰かの声が混じった。


「お前は何がしたかったんだ?」


いつのまにか、スザクの目の前に一人の女性が立っていた。


「ルルーシュが憎いか?」

「・・・違う。」

「アイツを売り渡すことで、得るものがあるのか?」

「・・・何も、無い。」

「では失うものは?」


失うもの。

失ったもの。

友情?

信頼?

そんなものはとうの昔に失った。

それでも、それらを取り戻そうとして、そのチャンスすら失った。


「たくさん、失くした・・・きっとこれからも失くし続ける。」

「枢木スザク」


短く名前を呼ばれる。

いつの間にか俯きがちになっていた顔を弾かれたように上げた。

彼女は感情を表に出すことは無く、ただ淡々と言葉を紡ぐ。


「お前が欲しいものは何だ?力か?名声か?ブリタニアが『イレブン』のお前にしてきた仕打ちを、今度はお前自身が『日本人』にするための地位か?何をしても傷まぬ心か?意思とは無関係に毒だけ吐いてくれる口か?人間を殺し続ける手か?都合のいいものだけ映してくれる目か?それとも、今は亡き・・・主か?」

「違う。」


心を無にできたらいいのにと思うことはあっても、それを望むことはしない。

主はもう還って来ない。


「僕が・・・俺が、欲しいものは・・・」


スザクの唇の動きに、彼女は微笑む。

白い手が差し伸べられた。

薬指に伴奏黄が貼られたその左手を見た後、スザクは彼女の顔を見る。


「お前には、生きるための理由があるらしい。」


浮かんだ笑みに苦笑で返して、スザクは体温の低いその手を握り返した。




















「・・・で、どうしようかなぁ・・・。」


スザクは頭を悩ませていた。

目の前で横たわっているのはC.C.。

本来敵である彼女と、捕らえられたルルーシュを救出すべく手を組んだはいいのだが、握手の後すぐ彼女は気を失ってしまった。

枢木神社は本来実家のようなものであるから、彼女を抱えてずかずかと入り込んだはいいのだが。

寝かせたC.C.をスザクは観察する。

一見己よりも幼く見える彼女は、不老不死の魔女。

寝顔はあどけない。


「んっ・・・」


彼女の瞼がふるりと震える。

あ、やっと起きた・・・とぼんやりそれを眺めていたスザクであったが、突如彼女が悲鳴にも似た声を上げて震え上がったものだから、驚いて思わず後ずさってしまう。

手を伸ばすと、彼女は己を庇うように腕を構えた。


「い、いやっ・・・ごめんなさいごめんなさい!言うこと聞きますからっ・・・」

「いや、あのー・・・C.C.?」

「・・・え、あのっ・・・もしかしてご主人様のお知り合いですか?それとも、あの・・・私の新しいご主人様ですか?出来るのは料理の下ごしらえと掃除、水汲みと牛と羊の世話、裁縫、文字は少しなら読めます・・・数は20までで・・・死体の片付けも・・・」

「ちょっと待って!」

「ひッ!」


声を荒げたスザクにC.C.はまた震え上がる。

スザクはこの上なく混乱していた。

不遜な態度だった彼女は何故かしおらしく、まるで奴隷のような仕事をつらつらと上げていく。

加えて、『ご主人様』。

なんだこれは、と。

スザクは頭を抱えた。


「とりあえず、君の前の?ご主人様の名前は?」

「えっと・・・ル、ゼロさま、です。」

「んー」


なるほど、と呟いたあと、何がなるほどだ馬鹿野郎と自分を罵った。

ご主人様をゼロだと思っていることから、ルルーシュはこの状態のC.C.を傍においていた。

何らかの原因で記憶が混乱している?

そんなことを考えながら、スザクはため息をついた。


「とりあえずまず言っておかなければならないことは、僕は君の新しいご主人様じゃないってこと。君のご主人様は今ちょっと・・・攫われちゃって。僕と君で助けに行くつもりだったんだけど。」

「ご主人様・・・ご無事なのですか!?」

「わかんないよ。だからなるべく早く助けに・・・あぁ・・・そんなに泣かなくても・・・」

「ごしゅっじ、さまぁ・・・!」

「調子狂うなぁ・・・」


ぼりぼりと頭を掻きながら溜息をついたスザクだが、正直C.C.がどうにかなるまで待つ時間はないと意を決して震える彼女の肩を掴む。

驚いたC.C.はビクリと震え上がったが、スザクの真剣な瞳にきょとんとして首を傾げた。


「ご主人様を助けたい?」

「・・・はい。」

「協力してくれる?」

「私に、できることなら何でも・・・!」


我ながら酷い作戦を考えたものだと。

瞬時に思いついた作戦を実行させるにはあまりにも純粋なC.C.に罪悪感を覚えながら、スザクは彼女の手を引いて神社を出た。

































「これはラウンズ様!」

「どうぞ、お通りください!」


ラウンズの正装である騎士服を纏ったスザクの前では、大抵の軍人が膝を付く。

まるでその服自体が通行証だ。

小さくありがとうと呟いて通り抜けようとしたスザクを、軍人が後ろから呼び止める。

振り返ったスザクに、軍人は気圧されながら呟いた。


「あの・・・『それ』は・・・」

「・・・皇帝陛下に献上する娘だ。」


小脇に抱えた白っぽいモノ。

白を基調とした拘束服と、そこから伸びる黒のベルトに手足から口元までを塞がれた女性が、静かに目を伏せている。

鮮やかな黄緑の長い髪が揺れた。

女性は抵抗する様子もなくぐったりとしているようだった。

そういうと、兵士は簡単に信じて通行を許可した。

それほどまでにナイトオブラウンズという地位は確かなものであったし、それ以上に皇妃を100人以上娶っている皇帝には珍しくもなんともない話だったからだ。


「ねぇ、君。」

「はっ、はい!」

「一応この女はシュナイゼル殿下の名目で捕らえた女だ。もし逃げ出すようなことがあれば、捉えた後そのままシュナイゼル殿下の元に連行しろ。」

「ですが・・・」

「どうせ抵抗する力も残っていない。」

「・・・イエス・ユアハイネス」


無理やり兵士を説き伏せて、スザクは再び歩き出した。

長い廊下はそれなりに人通りも多い。

なるべく人目を避けて、暫く後抱えていたC.C.を下ろした。

拘束服の襟元を緩めてやると、C.C.は不敵な笑みを浮かべた。


「いいのか?これで私が簡単に逃げればお前の名声は地に落ちるだろうに。」

「・・・君、なんでころころ変わるの。」

「のっぴきならない事情があるのさ。」

「・・・別に何でもいいけど。ちゃんと役割を果たしてくれれば。」

「果たすさ。それが契約だからな。」


拘束服のベルトをあちこち外してにやりと笑ったC.C.は走り出した。

・・・が、数メートル走ったところでぐらっとその身体が傾き、倒れこんでしまう。

ぎょっとしてスザクがそれを見ると、むくりと起き上がったC.C.は強か打ち付けたらしい額をさすりながら涙を浮かべた。


「うぅ・・・痛い・・・」


漏れた弱弱しい声からまた『変わった』のだと判断して、スザクは溜息を吐きながら声をかける。


「C.C.、もうCODE−Rに移行してるよ。」

「えっ・・・えーっと、あーる、あーる・・・あ、はい!行ってきます!」


走り出し、C.C.はスザクの視界から消えた。

そのまま暫く身を潜めたあと、数人の兵士に拘束されたC.C.が連行されていくのを確認してスザクも動き出した。

安直な方法ではあるが、これでシュナイゼルの元へ案内してくれるはずだ。

焦りを押し殺すように、スザクは静かに息を吐いた。























「どうしたんだい?」


楽しそうに、シュナイゼルは笑う。


「壊れてしまったかな?」


大きなベッドに横たわらせられたルルーシュはしっかりと手錠でベッドに縫い付けられ、四肢を投げ出していた。

纏っていたアッシュフォードの制服はズタズタに切り刻まれて、無残な姿で部屋に散乱している。

黒を基調とし、銀の装飾がふんだんに施された皇族服。

今ルルーシュが纏っているのはそれだ。

手袋が外されたシュナイゼルの手が、艶やかな黒髪を撫でる。

指通りのいいその髪に嬉しそうに目を細めながら、シュナイゼルは後頭部に手を差し入れ、髪を掴んでグッと引いた。

必然的にルルーシュの顔が上方に向けられて口元が突き出された状態になる。

空ろなアメジストの瞳に、シュナイゼルは唇を寄せた。

ルルーシュはピクリとも動かない。

それをいい事に、シュナイゼルは口付ける場所を変え、あっという間にルルーシュの口を塞いだ。

抵抗を知らないそこは簡単に舌の侵入を許し、蹂躙されていく。

溢れた唾液がルルーシュの口の端から伝い落ちた。


「私はね、リベリオンにもゼロにも、何にも興味は無いんだよ。」


ひとしきり楽しんで満足したらしいシュナイゼルはそう言って、先ほど自ら着せた皇族服の胸元を寛げていった。

手を差し入れ、ぶつかった突起を撫でて、つまむ。

ぴくりとルルーシュの身体が震えた。


「欲しかったのは君だ。君が幼い頃からずっと、君をどうやって手にするか考えていた。手に入らないなら身体を陵辱してでも、心を壊してでも。やっとそれが叶ったよ。」


這い回る手が身体をまさぐり、その動きに合わせて少しずつではあるがルルーシュは反応を示し始めた。

びくんと跳ね上がる身体。

ふふっと楽しげに笑いを漏らしたシュナイゼルの手が、ついにルルーシュの下半身に到達する。


「愛しいルルーシュ・・・私の・・・」


ルルーシュの中心に手が触れたとき。

部屋の外部から、呻き声や何かがぶつかる音が聞こえてくる。

徐々に近づいてきているらしいそれは音量を増し、やがてバンッと一際大きな音が木霊した。

シュナイゼルはそれを横目で一瞥した後ルルーシュに口付けを落とし、ゆっくりと起き上がる。


「やぁ、スザク君。」

「・・・殿下、何を!」


ベッドに横たわるルルーシュの上に覆いかぶさっていたことを言っているのだろう。

スザクは怒りを露にし、ギッと睨み付けた。


「おかしなことを聞くね。私がこの子に何をしようと君には関係がないはずだ。そうだろう?『裏切り者』君?」

「くっ・・・!」

「ご主人様!」


途端、飛び込んできたのは黄緑の髪の少女。

C.C.は部屋に押し入るのと同時にルルーシュがいるベッドまで一目散に駆けた。

それはスザクの作戦外らしく、焦ったスザクが足を踏み出したとき。

パン!

そんな炸裂音のような銃声が響いた。

スローモーションのようにゆっくりと、額から血を溢れさせたC.C.が崩れ落ちていく。

走り寄って抱きとめたスザクに、今度はシュナイゼルの銃が向けられた。

スザクは目を剥いた。

銃が向けられたことに対してではなく、抱きとめたはずのC.C.が身を捩ってスザクの盾になり、もう一発の銃撃をその身で受け止めたからだ。

右肩あたりから新たな血が噴出す。


「C.C.!」

「うる、さいぞ・・・何だ・・・お前も童貞、か?」


不敵に嗤ったC.C.はぐっと起き上がり、そのまま一気にシュナイゼルとの距離を詰めてその手に触れた。

ビクリとシュナイゼルの身体が硬直する。

C.C.の額に浮かび上がった紋章が発光していた。


「はや、く・・・ルルーシュを・・・」


その言葉でスザクは駆け出す。

ベッドに走り寄って横たわるルルーシュの顔を覗きこむと、手に繋がれた手錠を腰に差していた剣で壊し、力の入っていない身体を抱え上げる。

空ろな瞳。

ぎゅっと抱きしめた。


「ごめん、ルルーシュ・・・僕は、君を・・・」


裏切るつもりはなかった、と言っても今の彼には届かないかもしれない。

視線はどこまでも空ろで、何も映していないようだった。


「おい・・・こちらは長くはもたない、んだ・・・早くどうにかし、ろ・・・」


ショックイメージを与えられているらしいシュナイゼルは微動だにしない。

まだ血を流し続けるC.C.を小脇に抱え、ルルーシュもしっかりと抱きしめた。

もう離してなるものか。


そんな想いで回した腕に力を込めると、背のほうにだらりと垂れたままだったルルーシュの腕に少しだけ力が篭って、スザクは目を伏せた。










離して、繋いで





なんか気持ち中途半端ですが勘弁してください。
C.C.を普通にするか奴隷Ver.にするか伺ったらお任せといわれてしまいまして、困ったのでもういっそどっちもやっちゃえという気で書いちゃいましたスイマセン(笑)
さすが、私wwwいいご都合主義っぷりだwww トキさま、こんなもので申し訳ありません@@;