「お兄様を、返してください。」



広い洞窟の中。


反響したその幼い少女の声にスザクは驚いて歩みを止めた。


その声は聞き覚えがあるというより耳に馴染んだ声で、ゆっくりと振り返るとやはりそこには馴染みの顔。


しかし、彼女がこんなところにいるはずがない。


目を疑うようにそれを凝視すれば、彼女は首を傾げた。



「何か?」

「なんで・・・こんなところに・・・」

「真実を、知るために。」



いつもの車椅子に腰掛けているナナリーは、何かの確信を持ってスザクに顔を向けている。


目の見えない彼女は気配を感じ取るのを得意としていた。


それならば理由はつくのだが、それでもどこか、まるで目が見えているかのように。


息を呑んだスザクは静かに視線を下に落とした。


己の腕で横抱きにしているのは親友で。


そして彼女の兄で、憎い敵だ。


気を失ったルルーシュを拘束し、これから彼の身柄と共に帰艦するつもりだった。


ゼロとして世界を混乱に陥れたルルーシュはこれから裁きを受けるのだ。


神の、ではない。


自らの、最も憎い相手である父親の手で。



「お兄様を返して」



ルルーシュは『ナナリーが攫われた』と言っていた。


攫われて、この遺跡につれてこられているのだと。


どうせそれは嘘だろうと、その場凌ぎの狂言だろうと決め付けて彼の申し出を突っ撥ねた。


しかし実際ルルーシュの探していた最愛の妹はこの場にいる。


ははっと乾いた笑いが漏れた。



「ナナリー、君は目が見えないね。」

「それが何か?」

「君は今、ルルーシュがどんな服を着て何をしていたのか分からない。だからそんなことが言えるんだ。」



返して、なんて。



「ルルーシュはこのまま僕が連れていくよ。」



今度はナナリーが乾いた笑いを浮かべる番だった。



「なんと、愚かなことを。私からお兄様を奪おうだなんて。」



くつくつと嗤ったナナリーは綺麗に微笑んでいた。


いつか、幼い頃に見たそれと寸分変わらない笑顔。


それにスザクは身震いする。


背筋を冷機がなでたような、そんな感覚に汗がにじみ出る。



「あなたはお兄様をどうなさるおつもりですか?」

「・・・皇帝陛下の御前に。」

「嘘。」



短くナナリーはそう言った。


小さな白い手がスザクに向かって差し出される。


別段それがスザクの首を絞めるわけでもないし、爆弾の起爆スイッチを持っているわけでもない。


なんの危害も加えるわけでもないその白い手からスザクは目を離せなくなっていた。



「私、手を握れば大抵の嘘は見抜けてしまうんです。でも今のは手で触れなくてもわかる・・・スザクさんは嘘を吐いている。」

「ふぅん。じゃあ今僕が何を考えているか、当ててみせなよ。」

「お兄様をお父様に差し出すなんて嘘。スザクさんはお兄様をご自分のモノにしたいだけ。縛って、閉じ込めて・・・お兄様を弄んで。お兄様がもう二度と争いを生まないように、ほかの誰も憎まないように・・・ただご自分だけが恨まれるように、お兄様を閉じ込めてしまうのでしょう?」



恨むということは始終その相手のことを考えるということだ。


どうやって仕返ししようか、どうやって殺してやろうか。


どうやって絶望を味わわせてやろうか。


朝目が覚めてから夜眠りに落ちるまで。


はたまた夢の中ですら。


それは即ち独占だ。



「スザクさんはお兄様に想われたいだけなんです。それが愛ではなく憎しみだとしても。」

「流石ナナリー。」



即ちそれは肯定。


内心を見抜かれたにもかかわらずスザクはどこか楽しそうに言う。



「そうだよ。だって、ルルーシュは俺のモノだから。」



目を細めて、高らかに哂った。









最初に書いたのはコッチの方だったんですが、あまりにもアレだったので書き直しましたw