「結構集まったな。」


少し驚いた。

目の前には7人の人間。

ブリタニア帝国の代表であるナナリー・ヴィ・ブリタニア。

世界を解放した奇跡の記号、ゼロ。

以前と異なるラフな出で立ちのコーネリア・リ・ブリタニア。

今やテレビで見かけない日はない売れっ子キャスターのミレイ・アッシュフォード。

未だにミレイを追いかけているらしいリヴァル・カルデモンド。

科学者として研究を続けているニーナ・アインシュタイン。

そしかつて黒の騎士団のエースであった紅月カレン。

よくもまぁこれ程の面子が集まったものだと微笑む。


「アンタが私たちを呼び出したの?こんなふざけた手紙で。」


カレンは目を細めてC.C.を睨み付けた。

それはいつしかの日々と代わらない表情で、変わっていないのだと安堵する。

カレンが手に持っているのは一枚のポストカードだ。

裏には焼けるように赤い夕焼けが描いているだけ。

宛先人が記してある場所の下に、小さくメッセージと待ち合わせ場所のアドレスが日時と共に記されている。

神根島の、遺跡。


『魔王の吐いた嘘の中にある真実を知りたければ来い』

「お前個人を呼んだわけじゃないさ。私は世界に呼びかけた。それに勝手に応えたのはお前達の意思だ。」


C.C.は何故か、まだブリタニアの拘束服を纏っていた。

別に今彼女が囚われの身というわけではない。

ただ、彼女がその服を纏うことによってまるであの頃に戻ったような錯覚を起こす。

彼女があの頃と全く変わらない姿をしているせいもあるだろう。

皆、それぞれ年を重ねた。

老いが見え始めたものもいるし、成熟した大人へと変化したものもいる。

月日は、あっという間に流れた。



「あれから、10年だ。」



C.C.は崩れた遺跡の上底から覗く、晴れ渡る空を見た。

彼が死んでから。

今と同じような青空の下、真っ赤な血を散らせて。

世界の憎しみを全て奪った彼は壮絶なる最期を迎えた。


「お前達は、知りたいのか?」


C.C.の問いに応えるものはいない。

しかしそれは迷いではなくて、愚問だという意味だ。


「まぁ、私は教えるつもりなんてないがな。」

「・・・何?」


コーネリアが眉を寄せる。


「私が真実を伝えるのは契約違反だ。それに、この中には既に真実を知る者もいる。態々説明するのは面倒だ。」

「じゃあ何で私たちを呼び出したの?」


ミレイが腕を組んで、表情を固めた。


「今、言っただろう。『私が真実を伝えるのは契約違反だ』と。」


C.C.は笑う。


「だから、本人に語ってもらえばいい。」


神根島の遺跡は、もう殆ど崩れている。

誰にも管理されず、干渉すらされないその場所の荒廃は激しかった。

大きな、何かの紋章が描かれた扉に、そっとC.C.が手で触れた。

呼応するように、紋章とC.C.の額に浮かんだ紋章が光る。

まだ動くそれに安堵して、C.C.は振り返った。


「アイツを悲しませるなよ。悲しませた奴は即刻私がはじき出してやる。」

「待ってくれよ、アイツって・・・そんな・・・死んだんだろ!?」

「生きてるよ。死んでいるが、生きている。」


手に砂埃が付くのも構わず、慈しむように扉を撫でながら。

ゆっくりと瞼を下ろして、上空を仰いだ。


光に、満ちる。


全員があまりの眩さに目を閉じた。










目を開けると、そこには何故か白亜の壁があった。

空は青空。

周囲は緑に溢れている。

明らかに先ほどまでいた遺跡ではない。

何より、全員の容姿が変化していた。

10年前の姿。

服までもがその当時のものだ。

そして目の前に広がる宮殿は。


「アリエス、ですね。」


ナナリーが何ともいえないという表情で見上げる。

今、新たなる首都のシンボルとしてあるアリエス宮ではない。

幼い頃過ごした離宮。

間違えるはずがなかったのだが。

ナナリーは首を傾げた。


「しかしアリエスはこんなにも庶民的でしたでしょうか。」


門と、普通のドアと。

そのドアの横にインターホンが付いている。

門ならまだしも、流石に離宮にインターホンはなかったはずだ。

そんなナナリーをよそに、ミレイがインターホンに手を伸ばした。


「突撃ィ!ミレイさんの、隣の晩御飯!」


あ、と。

全員の声が重なった。

ピーン、ポーン。

普通の音。

思わず拍子抜けしてしまう。

暫しの沈黙の後、中からパタパタと音がする。

誰かが走ってくるらしい。

がちゃり、とドアが開いた。


「はいはい、勧誘ならお断り・・・」


ドアの隙間から覗いたのはピンクのエプロン。

それで濡れているらしい手を拭きながら現れた彼に、全員が息を呑んだ。

彼も彼で、目の前に広がる光景に呆然としている。


「ほわぁ!?」


ああ、彼だ。

誰もがその素っ頓狂な声を聞いて確信した。

彼は慌ててドアを閉めようとする。

その閉められる寸前のドアの隙間にゼロが自身の足を挟ませて、ドアが閉められるのを防いだ。


「なんで逃げようとするかな。」

「するだろう普通!なんだこの状況は!」

「他に言うことは無いの?」

「・・・ああ、久しぶり。」


いやいや、そうじゃなくて。

突っ込みたい衝動を全員が抑えた。


「ルルーシュ」


観念したようにルルーシュがドアを放して、完全に開く。

あの日と変わらない姿で、ルルーシュは立っていた。

その胸を染める赤もない。

ルルーシュは困ったように微笑んだ。


「えーっと・・・アレから大体2ヵ月半・・・約10週間ってことだから・・・10年ぶりか。」

「お久しぶりです、お兄様。」

「ナナリーとスザクは7年ぶりだね。でも皆外見が変わらないな。」

「この世界に入った途端、姿が変化してしまったんです。」

「・・・お前の仕業か、C.C.。」

「契約に違反してはいないぞ。」


ルルーシュが全員を見渡す。

ミレイとリヴァルとカレンは泣いていた。

ニーナはただ微笑んでいるだけ。

コーネリアは何ともいえないという表情。

何と言ったらいいのか双方が分からず、沈黙が続く。

それを破ったのはミレイだ。


「ガーッツ!!!」


木霊する声に目を見開いたのはルルーシュで、思わず苦笑した。


「懐かしいですね、その魔法。」

「うふふ、そうでしょう?ミレイさん特製のガッツの魔法だもの!」


涙を拭いながら微笑んだ彼女に場の雰囲気が和んだ。



「色々言いたい事もあるでしょうが・・・とりあえず入りませんか。」









すいません、長くなりそうなので一度切ります。