「彼の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第11皇子にして、私が最も愛し、恐れた男です。」
これで騎士団は終わりだ。
内心でシュナイゼルはほくそ笑んだ。
今まで信じたゼロの正体が皇族であれば、その信頼は離れる。
加えてギアスという力。
片腹の妹であるユーフェミアに日本人の虐殺を強要させた力。
人の心を操り、弄ぶ異能。
騎士団に参加した者達が、本当に『自分の意思』で動いているのかが分からなくなるはずだ。
これで問題はクリア。
あとはいいように言いくるめて、騎士団を手駒にすればいいだけだ。
シュナイゼルは次なる話題を持ち出そうと扇を見た。
扇は、きょとんとしていた。
無理も無い。
信じてきたものが全て無に還ったのだ。
シュナイゼルは苦笑した。
「扇さん、お気持ちは分かりますがこれが真実です。」
「はぁ。」
気の無い返事をした扇は隣に座っていた玉城や藤堂に目を遣って。
そして改めてシュナイゼルを見た。
「・・・で?」
「・・・は?」
「それで、まだ何かあるんじゃないんですか?」
「いえ、その。我々と手を組みませんか。ルルーシュをこちらに引き渡してください。そうすれば・・・」
「日本を返してくれるんですか?」
シュナイゼルは思わず押し黙った。
目の前のいかにも平凡そうな男が、大帝国の宰相にここまで毅然とした態度で臨んでくるとは思っていなかったのだ。
「わかり、ました。」
「では念書でも書いていただきましょうか。」
「なに・・・?」
「・・・書けないですよね。そんな気なんて無いんでしょう?」
にこやかに微笑んだ扇にシュナイゼルは身構えた。
なんだ。
なにが起こっているんだ。
イレギュラーに滅法弱いのは愛した義弟の専売特許だったはずだが。
混乱するシュナイゼルをよそに、扇は隣の玉城を見た。
「玉城、そういえばお前、風邪引いてたんじゃなかったか?」
「そうなんだよぉ!もう鼻水ズルズルでさぁ!」
玉城が、扇の持っていた『ゼロがギアスをかけたと思われる人物リスト』の表紙をビリッと破いた。
「あ。」
シュナイゼルの後ろで、カノンが小さく声を上げた。
玉城は一度紙をクシャクシャに丸めて柔らかくした後、ブー!と盛大な音を立てて鼻をかんだ。
「かーっ!やっぱりブリタニアの紙は上質だなオイ!」
「扇、私も貰っていいだろうか。どうやら私も風邪を引いたらしい。」
「どうぞどうぞ。」
ビリッ!
藤堂もまた盛大に鼻をかんで、それから思いついたように「あ。」と声を上げた。
「そういえば我が四聖剣も全員風邪を引いていたな。」
「呼んだらいいんじゃないですか?」
「ではそうさせてもらおう。」
机の上のスイッチを押す。
『あれ、藤堂さん?どうしたんですか?』
「朝比奈、四聖剣は全員揃っているか?」
『いますよー。』
「いい紙が手に入ったんだ。お前達、全員風邪を引いているんだろう?」
『本当ですか!今行きます!』
なんだこれは、と。
シュナイゼルは目をむいた。
「そういえばラクシャータも風邪を引いていたか。」
「KMFに整備不良が出たら困る。呼ぶか。」
「そういえばカレンもコッチに戻ってきたばかりで体調を崩したらしいぜ。」
「じゃあカレンも。そういえば杉山と南は風邪だったか?」
「風邪プラス、なんか感動する映画観たとかで顔がグチャグチャだ。ひでぇのなんのって。」
「集団感染だな。このままでは騎士団は壊滅だ。」
「神楽耶様と天子様もお風邪を召されたらしい。」
「星刻総司令も。神楽耶様と天子様には残しておかないとな。あ、玉城!そのページは俺が貰う!」
「はいはい、千草はお前の嫁なー。」
「・・・っ!」
「照れんなって。」
やがてぞろぞろと団員達が集まってくる。
そのあまりの人数に、あっという間に元は書類だった紙はクシャクシャに丸められてゴミ箱へと放り込まれた。
唖然とするシュナイゼルに、扇は笑う。
「俺達はとっくの昔にそんな秘密、知っているんだよ。」
「いつ・・・から・・・」
それに笑顔で答えたのは朝比奈だった。
「そんなの決まってるじゃないですか。『ゼロが再臨』した時ですよ。」
朝比奈がねー?と同意を求めた先には卜部がいた。
卜部は鼻をかみながらそうだな、と呟く。
「何せ俺は記憶を失ったゼロ・・・ルルーシュの救出作戦に加わったからな。素顔なんて当の昔に見ている。」
「あ、あたしだってブラックリベリオンの時にゼロの正体見たわよ!」
「カレン、張り合うな。事態がややこしくなる。」
「まぁそんなわけで、素顔が見れれば自ずと出生の秘密も聞き出せたし、ギアスのことも教えてもらった。『虐殺皇女ユーフェミア』の真相がただの不運な事故だったことも。」
事故。
それをシュナイゼルは知らない。
枢木神社でのルルーシュとスザクの会話を監視していたシュナイゼルは、ただルルーシュがユーフェミアにギアスをかけて日本人を殺させ、自分がそれを撃つという演出をしただけだと思っていた。
それは真実ではなかったのか。
唖然としたシュナイゼルの思考を遮るように、何かの電子音が鳴り響く。
「神楽耶様からの通信だ。」
扇がスイッチを押して、モニターに笑顔の神楽耶様が映る。
『あら、どうしましたの?皆様お揃いで。』
「神楽耶様、ブリタニアのシュナイゼル宰相閣下がルルーシュの身柄の代わりに日本を解放してくださるそうですよ。」
結局その話は破談になったはずなのに。
何の疑問も無く、扇は神楽耶にそう報告する。
扇の言葉に神楽耶は表情を綻ばせた。
まぁ、と手を口元に添えて。
目を輝かせた神楽耶にシュナイゼルは少しだけ安堵した。
日本のことを第一に考える皇家の彼女なら、と。
そんなシュナイゼルをあざ笑うかのように、神楽耶は目を細めた。
『おとといきやがれ、ですわ。』
「・・・は?」
シュナイゼルが目を剥いた。
それを気にする事無く神楽耶は扇に視線を遣る。
『まもなくそちらに到着しますから。あの方はお元気?』
「どうやらあの光に妹さんが呑まれたらしくて・・・見ていられないくらい憔悴してます。」
『まぁ・・・お可哀想に。あの方からくれぐれも目を離さぬように。あの方はナナリーさんのことになると自暴自棄になることがありますから。』
ブツン、と。
神楽耶の映っていたモニターが沈黙した。
さて、と。
騎士団全員が、シュナイゼルを見る。
「えーと、シュナイゼル殿下?早く逃げといた方がいいですよー。紅月の鉄拳が火を噴くから。」
「朝比奈さん!なんで私なんですか!」
「だって許せるの?僕らの『仲間』の居場所を奪おうとする、ソレ。」
「ゆ、許せないわよ!いいわよ火を噴いてやるわよ!ナイトオブセブンにコンボ喰らわせたこの拳で、その胡散臭い男顔を歪ませてやるわ!」
「お黙りなさい!シュナイゼル殿下になんて口の聞き方をッ!」
「いい、カノン。」
完全なる敗北だった。
切り札であったはずのジョーカー。
まさかここまで無効化されるなんて。
「やれやれ、やっぱりあの子は恐ろしい義弟だよ。」
裏切り?何ソレなんかメリットあるの?
「これは何の騒ぎですか?」
「あ、ロロ!」
「お前のだーいすきなお兄様が、そこの金髪に陥れられそうなんだよ。」
「・・・へぇ。」
ゾクッ、と。
髪がふわふわの、一見愛らしい少年の笑みでこんなにも悪寒が走るのは何故だろう。
恐るべし、黒の騎士団。
別名『ルルの騎士団』・・・愛されルル万歳!(笑)
最終話絡みじゃなければ普通に黒の騎士団書けることに気付きました。
そして今回は扇を男前にしてみよう作戦を勝手に展開・・・というよりも口調とか適当になっちゃいました。
早い内から正体を知って、皆ルルーシュに影響されて物事考えれるようになればいいと思います^^
ロロのことを忘れててあとからあわてて付け足したのは秘密です。
こんなものでよければどうぞ、零音さま!