お兄様。
愛しい愛しい、私の世界。
私はもう迷いません。
疑いません。
否定しません。
その全てを愛することを、永遠に誓います。
透き通るような、まだ幼さを残した声。
マイクを通して大きさを増したその声が響く。
他の声は一切聞こえない。
誰もが息を呑んで、声を発することが叶わないのだから。
世界を混沌に落とした悪逆皇帝ルルーシュ。
それと全く同じ血を引く妹は、世界に向けてのたまった。
愛していると。
目と足が不自由な元エリア11総督は有名だったが、99代皇帝の後継として代表という立場に就任した彼女は、目を開けて凛と前を見据えていた。
まるで神に誓うように。
両手を胸の前で組み、空を仰ぎながらナナリーは言う。
沈黙は、やがてざわめきに変わった。
それもそのはず。
今祈りを捧げた相手は、世界の憎しみを一身に集めた魔王なのだ。
多くの血を流し、多くの人間を失脚させ、世界を独裁で支配しようとした悪逆皇帝。
彼を恨むものは多い。
英雄ゼロによって命を絶たれた今も、世界の憎しみを全て受け入れる存在。
彼は何を遂げたかった?
そう聞かれれば『世界征服』。
何のために?
そう聞かれれば『私利私欲』。
誰も彼もの認識が、そうなってしまった世界。
「世界中が、あの人を誤解しているのです。」
ナナリーは静かに囁いた。
そう、誤解しているのだ。
真実を知っているのはほんの一握りの人間。
自分ですら本来知らないままでいるはずだった。
あの、満足そうな彼の笑みに気付かなければ。
血に濡れた手に触れなければ。
兄の願いも、兄の想いも、その本質すらも。
彼はそれを心の奥に仕舞い込んで、仮面を被ってしまったのだから。
誰もが騙される完璧な仮面を。
「私は、兄のように力で世界を手に入れようなどとは決して思わないという事を、今日ここで、私を見てくださっている全ての方々に誓います。」
ざわめきは治まる。
やはりそれが一番の懸念だったのだろう。
「ただ、私は兄を愛しているし、誇りに思っています。」
誰が彼を罵ろうと。
ただ、己だけは。
「兄が死する事で手に入れた、今ここにある『平和』という世界を維持する事が・・・私が兄から託された使命であり、罰です。」
兄を信じてあげられなかった。
理解してあげられなかった。
全てを背負う覚悟をした兄から目を背けた。
そして、兄を免罪符に多くの血を流した。
女神の光を一番多く放ったのは、他でもない自分なのだから。
「兄を・・・ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを許してくれとは請いません。永遠に憎しみを向けられ続けることが兄の目的であり、願いなのですから。」
人々の憎しみのエネルギーが一点に集中する。
それが彼の望み。
「さぁ、平和へと。振り返らず、迷う事無く進んでください。」
それが歴史上稀に見る悪逆皇帝ルルーシュの、世界に向けたメッセージ。
To my dear
愛しています、お兄様。
愛しています、私の世界。
え、ルルって生きてるじゃん←現実逃避
2008/10/01 UP
2011/04/06 加筆修正