スザクが、地に血溜りを作っている。

彼を赤く染め上げた少女は彼の同僚。

しかし彼女は妖しく嗤い、剣に付着した血糊を掃った。


「母さ・・・ん」


ルルーシュの唇から呟きが漏れる。

母として、愛していた女性。

死んだはずの彼女は姿を変え、目の前で微笑んでいる。


「久しぶりね、私のルルーシュ。」


アーニャ・アールストレイムの身体は光に包まれ、やがてそれは少女から女性の姿へと変化した。

艶やかな、長い黒髪。

深いアメジストの瞳。

紛れもない母の姿。

涙がこみ上げる。

それは母に再会できたという喜びの涙ではない。

妹を守れなかったという罪悪感。

母だけではなく妹も守れなかった『息子』を彼女はどう思うだろうか。


「ナナリーが・・・死にました。」


俺は、また守れなかった。

そう苦しげに呻いたルルーシュの耳に、静かな母の声が届く。







「それがどうしたの?」







マリアンヌは微笑んだ。

ルルーシュの脳内に過去の記憶が蘇る。

母が死んだとき。

父親である皇帝に謁見を求め、それがどうした・・・と。

そんなことを言うために謁見を求めたのか、と蔑まれたとき。

全身の血の気が引いた。


「かあ・・・さ・・・」

「あの子は失敗作。私に必要なのはあなたよ、ルルーシュ。」


吐き気がして、思わず口元を手で覆った。

こみ上げる嗚咽に涙が浮かぶ。

それすらも愉快そうに笑ったマリアンヌは、傍らに立っていたシャルルに目をやった。

「ねぇシャルル。もう『準備』は済んでしまったの?」


シャルルは何も応えない。

それを是と受け取ったマリアンヌはつまらなそうに息を吐いた。

呆然と立ち尽くして動けないままのルルーシュにマリアンヌは歩み寄る。

ふわりと、ルルーシュを抱き込んだ。


「ああ、私のルルーシュ。」


懐かしい、母の香り。

何も変わらない。

香りも、ぬくもりも。

仕草さえも。

それは彼女の存在が偽りではないということだ。

喜びに溢れるはずの心中は、絶望で満ちた。


「ナナリ・・・」

「ナナリーは私の『器』として相応しくなかった。脆弱で、優しい世界を夢見ている。」

「俺だって・・・!」

「あなたは違うわ。ナナリー以外はどうでもいいと思っている。世界がどんなものであろうとナナリーが幸せならば構わない。それはあなたの心の闇。その闇があなたの支え。」

「違う!」

「いいえ、違わないわ。違うとしたら・・・そうね。彼かしら。」


マリアンヌがチラリと視線を外した。

開いた口から微かな息を漏らしたスザクは最早立ち上がれないだろう。


「彼にあなたは心を許した。ナナリーにしか開かなかった心をさらけ出した。これは私にとってはイレギュラーだったけれど。」


呼吸が荒くなっていく。


必要以上に空気を吸い込もうと欲張る肺がやがて悲鳴を上げ始めた。

息が出来ない。


「ただ最期には・・・彼のことが憎くてたまらなくなったでしょう?そうなるように私が仕向けたの。」

「な・・・に、を・・・」

「ユフィちゃんにあの言葉を告げたとき。どうしてあのタイミングでギアスが暴走したと思う?」


苦しい。

視界が霞んでいく。

「私があなたのギアスに働きかけたの。彼があなたを憎むように・・・そしてあなたが彼を憎むように。全ては私のシナリオ。」

あの時ユーフェミアに暴走したギアスが作用したのも。

それがきっかけでスザクがルルーシュに憎悪を抱いたのも。

ルルーシュも同じように憎悪を抱いたのも。






すべて。






「愛しいルルーシュ。私の大切な、大切な器。貴方を殺してから、私は神を殺す。」















そして私は神になる










シャルル、私・・・知っていてよ?

あなたが私に協力するフリをしていること。
私からルルーシュを解放するために、私を殺してルルーシュとナナリーを日本に送ったこと。


でもそれも全て、私の『ステージ』上での『喜劇』。










すべての元凶をマリアンヌ様にしてみようシリーズ←
黒幕がマリアンヌ様なので、皇帝は白にしてみました。
因みにあまりにも言葉が足りないので補足説明。
マリアンヌ様の『ルルーシュ』を殺すっていうのは、ルルの心を壊して(殺す)、身体を乗っ取ろうとしていることです。