「で?」


誰よりも不遜な態度で、黒髪の彼は言った。


「だから、君が今日から僕達のボスだから。よろしくお願いしますって話。」


誰よりも人懐っこい態度で、茶髪の彼は応えた。

椅子に腰かけた黒髪の、女と言われれば納得してしまうかもしれない位の綺麗な顔立ちの男の表情が盛大に歪み、高く組まれていた足のその革靴の底が、目の前で跪くくるくるとした癖のある茶髪の男の顔に見事命中した。




capo







「ボス」

「ボスと呼ぶな馬鹿が!俺はマフィアになどならない!」


普通の学生として普通に生活していたルルーシュの前に現れた、まるで犬のような男。

彼によって、ルルーシュは自分がとあるマフィアの後継者であることを告げられた。

音耳に水、とまではいかない。

大嫌いな父親がどうせ何か悪どいことをしていただろう事は容易に想像できた。

もうもう何年も連絡を取ったこともない彼が何をしようと、何処で死のうと関係ない。


「ねぇボスー」

「だからボスと呼ぶなと言っているだろうが!」

「じゃあルルーシュ」

「馴れ馴れしいな・・・!!」


黒いスーツに身を包んだ男は、『枢木スザク』と名乗った。

妙に人懐っこいその性格にこれでマフィアが務まるなら世も末だと鼻で笑いながらルルーシュは腕に絡みついたそれを振りほどく。

こんな馬鹿馬鹿しい話に付き合っていられるほど暇ではないのだ。

所属している生徒会の書類も纏めなくてはいけないし、病気がちで現在入院中の目に入れても痛くないほど愛している妹の見舞いにも行かなければならない。


「ルルーシュってば。」

「黙れ。ともかく俺はマフィアになど・・・お前らのボスになどならない。とっとと諦めて次のボスでも探せ。」

「ダメだよ。うちのマフィアは世襲制なんだ。」

「じゃあそんな制度廃止してしまえ。というか俺はあの男を父親と思ったことはない。」


力いっぱい腕を振って、彼の拘束から逃れる。

まだ縋ってくるかと思いきや枢木スザクは呆然と立ち尽くしたままで。

これはチャンスとルルーシュは走り出した。








その後ろ姿を見つめながら、スザクは目を細めた。

100mほど走ったところで立ち止まり荒い息を整えているらしい彼。

それを微笑ましくも見つめながら、懐から携帯を取り出す。

震えているそれの通話ボタンを押して、耳に届いた声に返答を返す。


「僕だ・・・いや、中々手ごわそうだよ。例の件・・・任せた。」














生徒会の仕事も終わり、やっと愛しい妹に会えると意気揚揚に病院までやってきたルルーシュが目にしたものは、割れたガラスと立ち込める黒煙だった。

呆然としながらもよく見れば、一番煙が出ているのは愛する妹の病室。

血の気が引いた。

竦みそうになる足を叱咤して走り出す。

病院内は非難する患者や医師で混乱状態だった。

人の流れに逆らうように走り、階段を駆け上がって。

上がる息と痛む肺に知らないふりをして思い切り叫んだ。


「ナナリー!!!!」

「お兄様?」


返ってきた声は意外と軽い。

よくよく見れば怪我一つなく、少し髪が煤で汚れている程度の妹の姿が。

慌てて駆け寄り、傍に控えていた看護師に視線を向けると、彼女は安心させるかのように微笑んだ。

改めて自身の目で怪我がないのを隅々まで確認し、困ったように微笑む妹を見る。


「お兄様、ナナリーは大丈夫です。」

「よかった、本当に・・・しかし何故こんな・・・」

「うおー派手だなぁー」


突如、知らない声が混ざった。

聞いたことの無いその声は上から降ってきて、慌ててルルーシュはナナリーを抱きしめて上を仰ぐ。

すぐそこに、スーツ姿の長身の男が立っていた。

その黒いスーツという時点で今朝の事を思い出し、身を固くしたのだが、そこにいたのは茶髪ではなく金髪の男だった。

襟足のところの3本の三つ編みが印象的に揺れる。


「お前達の・・・所為か・・・」

「ん?」

「お前達の所為でナナリーがこんな目にッ・・・!」

「『誰の所為』かを決めなくちゃいけないなら、それは間違いなく君のせいだよ、ルルーシュ」


いつの間にか、そこには朝の男・・・枢木スザクが立っていた。

絶句するルルーシュを気にすることなくスザクはナナリーの無事を確認し、金髪の男に目を向ける。


「ご苦労様、ジノ。」

「まぁ仕事だしな。」


ジノと呼ばれた金髪の男はこれまた人懐っこい笑顔で笑った。

呆然とそれを見つめたままのルルーシュの腕の中で身じろいだナナリーが、ルルーシュの服の裾をきゅっと握る。


「ジノさん・・・?が助けてくださったんです。」

「え・・・」


信じられないという顔をしたルルーシュの腕から、ジノがナナリーを抱き上げてしまった。

声を荒げようとしたルルーシュをスザクが制する。


「お姫様は先に避難してような。」

「お姫様?」

「男にとっちゃ女の子は皆お姫様さ。」


にかっと笑って、ジノはそのままナナリーを横抱きにして下に降りてしまった。

看護師も一緒について行ってしまった為、その場に残ったのはルルーシュとスザク。

呆然とするルルーシュに、スザクはため息を吐いた。


「あれは僕の部下でジノ・ヴァインベルグ。腕っ節には自信があるみたいだから任せていい。」


僕らも行くよ、とスザクがルルーシュの腕を攫む。

しかしそれを、朝の時のようにルルーシュは払った。

スザクがもう一度溜息を吐く。


「君を狙ってるんだ。そして君の弱点が妹であるのも調べられて、その上で彼女も狙われてる。ここにいるのは危ない。」

「お前がッ・・・お前らが俺達を巻き込んだんだろう!」


すっとスザクが目を細めた。

ルルーシュは身を強張らせる。

今朝見た、人懐っこい笑顔はどこにいったのだろうか。

冷たい彼の表情に、ルルーシュは身体が震えだすのを感じた。


「・・・そうだよ。僕が君の前に現れたことで君の人生は大きく変化した。ただそれ以降は君の自覚と覚悟の問題だ。今朝の今で覚悟どうこうは厳しいとしても自覚くらいは持ってもらわないと困る。」

「自・・・覚・・・」

「君がいくら僕らのボスになる事を拒否したところで、敵対しているファミリーにとってはそんな事どうでもいいんだ。君が次期ボス候補である事実に変わりはないんだから、次期ボスの座に就く可能性のある人物は排除される。ボスにならないならそれはそれで、君は一人で妹を守っていくだけの力と覚悟が必要になる。」


君にそれが出来るか、と問われて。

思わずルルーシュは口を噤んだ。

やってやれないことは、きっとない。

ただ、その『きっと』という不確定な予測に、妹の命を預けることはできない。

黙り込んだルルーシュに、スザクは困ったように眉を寄せた。


「マフィア間の闘争はそれはもう酷いものだよ。そんな世界に君を好き好んで招き入れたいわけじゃない。ただ・・・僕達にはボスが必要なんだ。誰かが纏めてくれなきゃ、僕達は皆路頭に迷う。」

「お前が・・・やればいいだろう。」

「だから言っただろ、世襲制だって。僕達の誰もボスにはなれないし、ちゃんとした血筋とカリスマ性を持った人間じゃないと誰も付いてこないし、ボスがいなければファミリーは纏まらない。弱小化したマフィアはあっという間に潰される・・・多くの血が流れる。」


卑怯だ。

まるで血を吐くかのように、苦しげに呻きながらルルーシュは呟いた。

逃げ道は、何処にも用意されていなかったのだ。

それが分かっていたからこそ、朝、スザクは追いかけてはこなかった。

襲名するとも言っていないのに、もう既に多くのファミリーの命を背負ってしまった。

ぎゅっと手を握り締めて、ルルーシュは小さく呻いた。


「ナナリー・・・は・・・」

「ボスの最愛の妹だからね。僕達が命を賭けて守るし、勿論安全な病院も確保する。」


さぁ、逃げるよ。

そう声をかけて差し出したスザクの手を取り、ルルーシュは立ち上がった。







若干18歳という若さでファミリーを纏め上げたルルーシュは部下からの信頼も厚く、あっという間にファミリー間の闘争を治めてみせた。

マフィアのボスという裏の顔を隠し、ただの一学生としての生活に戻ったルルーシュの前に転校生として現れたスザクがルルーシュを盛大に驚愕させることになる。



お友達とケーキを食べにちょいと遠出しまして、その帰り道車運転しながら某死ぬ気マフィアの話をしまして。
マフィアネタで行こうという話にまではなったんですが、あんまりマフィアっぽくならなかったです。
とりあえずこれからBOSSルルーシュを筆頭に、チャイニーズマフィア『麗華会』との闘争が勃発すr(ry

因みにタイトルの「capo」はBossのことで、スザクはunderboss(No.2くらい?)を予定してます←