優雅なランチタイム。
今日の昼食はベーグルサンドだ。
勿論ベーグルも手製。
栄養を考えて野菜をふんだんに挟み込んでいる。
校内放送ではブリタニア本国で行われる皇帝の会見の中継が各教室のスクリーンに映されている。
フラッシュがたかれ、チカチカする画面を煩わしく思いながら、ルルーシュはベーグルサンドに齧りついた。
「なぁルルーシュ、今日の放課後・・・」
「悪いリヴァル、パスだ。」
「えぇ〜またかよ。最近付き合い悪くない?」
「じゃあ行ってやってもいいぞ。俺の代わりに今年度の予算全て再計算してくれるなら。」
「ゴメンナサイ。」
スクリーンに映ったのは、現ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが会見を行う大広間だ。
ざわつく人々の様子から、皇帝が入場したのだと分かる。
ステージの上の玉座に腰掛けた皇帝は、そのドスと巻き舌のきいた声を張り上げた。
『人はぁああ、平等ぅではぬぁあああい。』
決まり文句。
必ず皇帝はそれを言う。
弱者を是としないブリタニアの国是を如実に表した言葉だからだ。
ルルーシュはそれが嫌いだった。
鼻で笑って、傍らにあった牛乳のパックのストローを銜えて吸い上げた。
『・・・で、あるからしてぇえ!』
「相変わらずウザイ口調と髪型だな、反吐が出る。」
「おいルルーシュ、不敬だって。」
焦るリヴァルをよそに、ルルーシュはまたベーグルサンドに齧り付いた。
『皇位継承権というのはぁあ、意味の無いものであるぅぅ。ワシの贔屓目でぇ次なる皇帝を選び、帝位を譲ることにしたぁあああ!』
会場がざわつく。
それに呼応するように教室内もざわついた。
まさかの政権交代だ。
それも仕方の無いことなのかもしれない。
しかしルルーシュは興味ないといった風に携帯を取り出した。
新着メール一件。
首を傾げてそれを開くと、メールの送り主は予想外の人物だった。
件名に「すまない」と一言。
本文は無い。
何があったんだと不安になって返信しようとキーを打つ。
『次期皇帝はぁああ、二名とするぅ!』
『皇帝陛下!それは一体・・・!』
『次期皇帝は二人で一人ぃぃぃ!いずれの者もぉ、訳あって鬼籍に入っておるがぁ、今この時をもって継承権を復活ぅ!次期皇帝に任命するぅ!』
中継のその様子を聞いていたルルーシュは、一瞬呆気に取られて携帯を取り落とした。
どこかで聞いた事のある話だ。
訳あって鬼籍に入った二人?
二人で一人?
いやまさかそんなわけないだろうそうだそうだこれは幻聴幻覚だそうにちがいないだってそんなわけないだろう!
『次期皇帝はゼロ・ヴィ・ブリタニア、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア両名とするぅぅぅ!!!』
泣きたくなった。
ぼとりと落ちたベーグルサンドからハムとレタスとトマトが飛び出る。
なんとなく視線を感じる。
むしろ痛いほどに。
気付けば教室中の視線を集めていた。
汗がたらりと背中を伝う。
「な、なんだ、みんな・・・」
「ルルーシュって・・・」
「いや、ルルーシュなんてどこにでも転がっているような名前だろう?」
『ゼロォォォ!こちらへこいぃぃぃ!』
中継のスクリーンで皇帝が叫ぶ。
教室の学生の視線が全てそちらに集まった。
『こやつがゼロ・ヴィ・ブリタニアだぁぁ!ワシと第五皇妃マリアンヌの長子。ルルーシュはこやつの双子の弟で、現在家出中であるぅ!』
再び視線が返ってくる。
もう言い逃れは出来ないと、ルルーシュな溜息を吐いた。
皇帝の隣で何故か拘束されている彼は、自分とまるで瓜二つの容姿をしているのだ。
双子といっても疑う要素はないし、加えてルルーシュという名。
呆然としたリヴァルが、おそるおそる顔を覗き込んでくる。
「あの・・・ルルーシュ?なんかその・・・顔が、そっくりなんですけど。」
誰と、なんてことは最早愚問だ。
途端に居心地が悪くなり、ランチボックスの蓋を閉めた。
「・・・なんか体調が。悪いなリヴァル、俺は早退し・・・」
ガラッ!
教室のドアが開く音。
いくら冷静さに欠いた今のルルーシュでもそれくらいはわかる。
だがしかし、その開いた扉の向こうにいた人物にいよいよ涙が出そうだった。
「ルルーシュ様、お迎えに上がりました。」
「・・・クビになりたいのか、ジェレミア。」
「も、もうしわけありません!ですがっ・・・!」
「もういい分かった。どの道ゼロを一人あちらに置いておく訳にもいかない。」
立ち上がったルルーシュは教科書の類をカバンにしまい、ナプキンで包みなおしたランチボックスと共にジェレミアという男に押し付ける。
ふと思いついたようにポケットから紙とペンを取り出し、サラサラと文字を書き綴って呆然としたままのリヴァルに渡した。
「悪い、会長に言って、今日提出予定だった予算関係の書類を全てここに送ってくれ。集計し次第送り返すから。」
「わ、わかった・・・」
「よろしく頼む。いくぞジェレミア。」
「イエスユアハイネス」
ルルーシュが出て行ったあと、教室の中で誰かが動き出すまで、小一時間を要したことはルルーシュの感知するところではない。
ブリタニア本国、本宮。
「ルルーシュッ!」
出迎えたのは自分と同じ顔。
双子の兄であるゼロは切羽詰ったような表情でルルーシュの下に駆けて来た。
その手首にはじゃらりと音を立てる鎖が動きを封じるようにのびていて、それを不快そうに見ながらルルーシュはゼロの頬に手を添える。
「一体何があった?」
「すまない・・・私のミスだ。」
ルルーシュの目から見て、贔屓も何も無しにしてもゼロは完璧だった。
頭脳は冴え渡っているし運動神経も優れている。
己と違い体力だってそれなりにはある。
そのゼロがミスを犯すなど考えられない。
・・・のだが。
「その・・・ロールケーキ皇帝がルルーシュを抱きしめてキスを迫っている写真が送られてきて・・・カッとなって殴りこみに行ったらそのまま・・・」
「そんな馬鹿な。」
なんというベタな展開。
お前本当にあのゼロか、と疑いたくなるような失態にルルーシュは脱力した。
「どうせアイコラかなにかだろ。そんな事になった覚えは俺にはないから安心してくれ。」
さて、どうしてくれようか。
ルルーシュは考えていた。
ロールケーキな髪形をストレートにしてやるくらいじゃ収まらない。
日本に古くから伝わる美豆良とか野郎髷とかスタンダードな丁髷とか、嫌味も込めてあえて文金高島田とか。
面倒だったら角刈りでもいいかもしれない。
どうしようか迷っていると、前方から走ってくる女性が一人。
「ルルーシュー!!!」
「ユフィじゃないか。」
「お久しぶりです。ルルーシュが帰ってきたって聞いて飛んできちゃいました!」
ユーフェミアの後ろにはその騎士でありルルーシュの幼馴染、学友でもある枢木スザクの姿が。
彼は少し驚いたような顔をしていて、それにルルーシュは苦笑したことで返した。
「ゼロ、ルルーシュ、皇帝就任おめでとうございます。」
「・・・あまり喜ばしくはないがな。」
「まぁいいじゃないですか、ゼロ。これでお父様を失脚させたも同じことでしょう?」
ユーフェミアの笑みに若干黒いものが混じる。
身震いしたゼロに首を傾げながら、ユーフェミアはルルーシュの手を取った。
「ところでルルーシュ、もう騎士は決めたのですか?」
「それどころか俺はまだ皇帝をやると決めたわけじゃ・・・」
「決まってないなら、騎士に推薦したい方がいるんです。」
聞いちゃいねぇ。
ルルーシュは言葉をぐっと飲み込んだ。
「ルルーシュ、わたくしの騎士を貰ってください!」
「ほぁあ!?」
「え、ちょっ、ユフィ・・・じゃなかった、殿下!!?」
困惑したスザクの手を引いて、ルルーシュの手も引いて。
二人の手を握らせた後ユーフェミアは満足げに微笑む。
「お似合いです!」
「待てユフィ、スザクは君の・・・」
「もうスザクの恋愛相談にのってあげるのはうんざりなの。口を開けばルルーシュルルーシュって。」
「ユフィ!」
「わたくし嘘は言っていませんよ?いいからさっさとルルーシュの元にお行きなさい!」
ぐいぐいと背を押され、抵抗することもできないスザクはルルーシュに対峙する。
困惑したスザクの視線と、冷めたルルーシュの視線が交わって。
しかも外野のユーフェミアから「ここでルルーシュが断ればスザクの行き場がありませんよー」という言葉が飛んできて、今にも泣きそうなスザクに先に折れたのはルルーシュだった。
「俺の騎士になるか、スザク。」
「・・・っ・・・イエス、ユアハネス!」
「ほぅ・・・貴様が私の命よりも大切な弟であるルルーシュの騎士になると、そういうわけだな?」
ゴキッ
ゼロの拳からいやな音がした。
ふふふふふふふと笑いながら迫るゼロのただならぬ雰囲気にスザクが思わず後ずさる。
しかしここで負けてはいけないと、スザクも決意したのだろう。
口の端をひくつかせながら、スザクはゼロを睨みつけた。
「恐れながら、えーと、ゼロ殿下?のせいでルルーシュはここに戻ってこらざるを得なくなったのに、よくもまぁ『私の命よりも大切』とか言えますね。俺もうびっくりっていうか片腹痛い。」
「おいスザク、一人称がなんか変だぞ。」
「ハッピーエンドですね!」
「え、どこが?」
ゼロとスザクの言い争いと場を更に混乱させかねないユーフェミアの天然発言と、不毛とも言うべきルルーシュのツッコミはその後しばらく続いた。
皇帝就任おめでとうございます
ファイル作ってからやっぱごみ逝きかなぁとも思ったのですが、あえてこっちで。
めずらしくゼロがヘタレました。
そしてピュアと見せかけ俺スザクと真っ黒お姫ちゃまユーフェミアという恐ろしい組み合わせが・・・orz