日差しは実にうららかで、窓から入ってくる風が静かにカーテンを揺らしている。

羽ペンの先にインクをつけて、書類に名前を書き加えるというだけの作業を朝からずっと行っていたルルーシュは、静かに息を吐いて羽ペンを置き、凝り固まった肩を解すように軽く伸びをした。

ただサインするだけ、とは言っても、やはりある程度書類に目を通さなければならないから、机の上に積み重なった書類は作業を始めて3時間ほどという今やっと少し減ったかと感じられる程度だ。

ふぅと小さく息を吐いて、気配のある背後に声をかける。


「四六時中俺を見張っていなくてもいいと言ったぞ」

「僕は君の騎士だ」

「主の過ちは騎士が正すとでも言いたげだな。別に何も疚しい事などしていないのに。」


騎士ならば、主を護るために傍にいるのが普通だが、ルルーシュには騎士であるスザクが己を護る為に傍にいてくれるとは思っていなかった。

主が傍にいて欲しいという理由で選んだ騎士でもなければ、騎士が望んで主を決めたわけでもない。

お互いの利害の一致。

それが一番の理由で、唯一の理由だ。


「お前、ずっとそこでそうしていて暇じゃないのか?」

「別に」


淡々と必要最低限の返事だけを返してくるスザクに、ルルーシュは苦笑した。


「少し休憩にしよう」


そう言って立ち上がったルルーシュは部屋の隅にある棚から缶を一つ取り出した。

蓋を開けると鼻腔を擽るのは豊かな紅茶の香り。

茶葉をスプーンで掬ってポットに入れる。

熱い湯を注いで茶葉を蒸らしている間にティーカップも温める。

その動作を、やはりスザクは黙って見つめていた。


「お前も飲むだろう?」


スザクは応えない。

その無言を肯定と受け取り、ティーカップをもう一対出す。

紅茶という名らしく深紅に近いそれを注いで、ソーサーに乗せて、スザクに差し出す。

スザクは大人しく受け取ったが、手をつける動作をすぐには見せない。

まぁその内飲むだろうと苦笑して、ルルーシュはカップを持ったまま窓際に立った。

空は青い。

鳥も優雅に飛んでいるし、視線を下に落とせば広がるのは緑だ。

思い切り息を吸い込めば肺を満たすのはその緑の匂いと、手に持った紅茶の香り。

心地よくて目を細める。


「こういうのを、幸せというのかな。」

「・・・君は、今幸せなのか」

「幸せだよ。紅茶を片手に、こうやってゆっくりできる。どんな理由だとしても傍にいてくれる者がいる。」

「笑わせるね。もう死を待つだけのその身で、こんな何でもない事が幸せ?」

「そうだな。だがお前に殺されることも、多分きっと、俺にとっては幸せだよ。」


かちゃりとスザクの持ったティーカップが音を立てた。

震えているのだ。

死を受け入れている己に怒り、悲しんでくれているのだと、彼の表情や仕草から伝わってくる。

くすりとルルーシュは笑った。


「俺はそんなお前が好きだよ、スザク」

「僕は嫌いだよ。」

「知っている。」

「君なんか、大嫌いだ。」


カタカタと、スザクの手は震えている。

今にも泣いてしまいそうな表情に、どうしようかと迷いあぐねてルルーシュは持ったままだったティーカップを一先ずデスクに置く。

そしてスザクの元に歩いていけば、スザクは一層震えて呻いた。


「そうやって、笑って、僕に君を殺させるんだ。そんなの・・・」

「ああ、俺は狡猾で残酷で、愚かだ。それでもそんな俺の『最期』に立ち会ってくれるお前が、俺は好きだよ。」


ティーカップを持ったままのスザクの手に片手を添えて、もう片手はそのカップを持つ。

持ち上げて、スザクの口に運んでやれば、スザクは静かに目を伏せて口をつけた。

その時頬を伝った雫が、紅茶に静かに波紋を作った。





愛を想ふ









ゼロレク前的な。
キセキの誕生日見て、なんだか現実をつきつけられたので。