時が経つのは、どうやら相当早いらしい。
死んでからのルルーシュは家事に追われ、日が経つのも早いと感じてはいたが、それでも己の感覚ではまだ3週間しか経っていない。
何故3週間と言えるのかといえば日記(という名の家計簿)をつけることを始めたお陰なのだが。
あの世で3週間、この世で3年間。
あの世での1週間の内に現世では1年もの月日が流れているという計算は流石に勉強が苦手なスザクでも出来る。
「君、僕のこと馬鹿にしてるだろう。」
「俺の神がかった完璧な指導虚しく数学で17点取った奴は少し黙ってろ。」
「・・・う。」
よく見ればスザクの顔付きも幼さを殆ど遺していないし、ナナリーとてもう18歳。
かの悪逆皇帝が即位したのと同じ年齢なのだ。
そうなってくると、心配事は多々あるもののその中で一際目立ってくる問題がひとつ。
非常にまずい。
これでは成仏などできやしないではないか。
そもそも『あちら側』に帰ること=成仏という方程式も成り立つのかすら分からない。
「・・・はぁ。」
ため息一つ。
ナナリーが眉を寄せた。
「お兄様?」
「いや・・・その、な。」
「私は結婚するつもり、ありませんよ?」
「・・・え。」
ナナリーは少し人の思考に敏過ぎではないだろうか。
思考を読み取り、それ相応のレスポンスを返す。
「お兄様の妹ですもの。」
ああ、またか。
我が妹ながら末恐ろしいと、感じざるを得ない。
「もし・・・その、俺の妹ということで・・・」
「そんな方は選びません。」
「うっ・・・俺は罪人だ。俺のことは早く忘れて幸せに・・・」
「無理です。」
よくもまぁ、バッサリと一刀両断するものだ。
ナナリー・・・強くなったな、と見当違いのことを考えつつもルルーシュは頭を悩ませる。
正直ナナリーの結婚相手を呪わない保証がない。
だからといって、今まで散々踏みにじってきた彼女の幸せを、死した後も邪魔したくない。
可能性を一つはじき出して、それを潰す。
そんな葛藤を繰り返すルルーシュを見てナナリーは微笑んだ。
「じゃあ綺麗な黒髪とアメジストの瞳と象牙のような白い肌を持った、吐く嘘が全て優しい嘘な方とこの先の人生出会うことが出来たなら・・・結婚を考えます。」
そんな奴がいるのか?とルルーシュは首を傾げた。
スザクは何も言わない。
それがどういうことか分かっているからこそ何も言えなかった。
思わず苦笑い。
『お兄様を信じることが出来ませんでした。目先の事実に囚われて・・・もう目を背けて入られないから・・・と誓ったのに、結局は背けてしまったんです。誰よりも愛していたお兄様すら信じることが出来なかった私が、他の、伴侶となる方を信じられるとは思いません。』
一度『ゼロ』としてスザクはナナリーに婚姻を進めたことがあった。
ナナリーはそう言って、決して是を示すことはなかった。
ナナリーも背負うつもりなのだと。
兄を信じられなかったこと、兄を止めるためにという免罪符のもと世界に女神の光を放ったことを。
その罪を。
だからこそゼロとしてはそれ以上何も言えなかった。
「・・・ク、スザク!」
「・・・え、あ、ごめん。何?」
「何、じゃない。どうしたんだ、ぼーっとして。」
なんでもない、と笑ったスザクにルルーシュはため息を吐いた。
やがて何か思いついたルルーシュはスザクの顔色を伺う。
「なぁスザク、俺に金を貸してくれ。っていうか俺はもう金なんて返すことが出来ないから金をくれ。」
「・・・本当にガサツになったんじゃないか?元皇子っていうか元皇帝の言葉とは思えないんだけど。」
「頼れるのはお前しかいないんだ。」
その言葉にスザクは少なからず心を弾ませてしまった。
惚れた弱み、とでもいうのだろうか。
何に使うのかと問えば。
「母さんのドレス、今のこの服と交換するために質屋に入れたんだ。流石に父上あたりが煩そうだから買い戻しておかないと。」
「父上・・・お父様、ですか?」
「そうだよ、ナナリー。」
父上=お父様=神聖ブリタニア帝国98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。
確か兄が皇帝に即位したときに『私が殺した』とのたまったのではなかっただろうか。
首を傾げるナナリーにルルーシュは苦笑する。
「あっちの世界で・・・その、今一緒に暮らしているんだ。」
「え?」
「あと母さんとユフィとクロヴィス兄上とシャーリーと、ロロ。」
「ロロ、さん?」
聞き覚えのない名前にナナリーが首を傾げた。
「弟、なんだ。俺の監視っていう任務できた偽りの弟なんだけど。」
最後まで一緒にいてくれたのは彼だった。
自分の身を犠牲にしても守って、そして逝ってしまった。
「・・・君、随分と楽しそうな生活送ってるんだねぇ。」
「だ、だから謝っただろう!お前ばかりに背負わせてすまないと!」
「でも・・・じゃあやっぱりユフィは夢じゃなかったんだ。」
「ああ、なんかちょくちょく行ってるって言ってたぞ。」
俺は行けるなんてことすら知らなかったのに。
そう漏らしたルルーシュは不満げに口を尖らせていた。
「だがまずあちらへの帰り方がわからない。父上の私室を探せば何かあるかも・・・」
シャルルはそう言っていたはず。
考え込むルルーシュの服の裾が、くんと引かれた。
ナナリーが眉を寄せている。
「お父様の私室・・・ブリタニア宮殿にあるのではないのですか?」
「そうだな。」
「ルルーシュ、君・・・ボケてしまったのか?」
ルルーシュは眉間にしわを刻む。
スザクが一瞬息を呑んで、それから困ったように笑った。
「ブリタニア宮殿は・・・前の帝都ペンドラゴンはアレで消し飛んだよ?」
ちょっと平和ボケしてました、すいません。
どんどんタイトルがふざけたものになってきました。
あと1話で終われれば理想的です。
次で10話だし。
でも収まりきらなかったら2話くらいになるかもです。