声がするたびに、びくりと震える身体。

オートで反応しているのではないかと思うほどもれなく起こるその挙動が気になって仕方がない。



それは脅え。


むしろ恐怖なのかもしれない。



きっと後悔しているのだ。

今が幸せだからこそ、後悔している。

あの時、ああしなければよかった。

それは誰もが一度は経験する後悔の形だと思う。


「ロロ」


短く名前を呼んでやると、先ほどとは違う様子で身体が震える。

どちらかといえば不意を衝かれたことによる驚きだろう。

ロロがパタパタと走ってくる。


「なに?兄さん。」


まるで犬のようだとルルーシュは思う。

勿論いい意味で。

ふわふわと癖のある髪を撫でてやると、ロロは首を傾げた。


「楽しんでるか?」

「うん。」


今日はピクニックだ。

ピクニック、といってもただ弁当を拵えて、芝生の上にシートを広げて座っているだけだが。

2段になった弁当は勿論ルルーシュが作ったものだ。

色合い、バランスが考慮された、見目にも華やかなサンドウィッチ。

それを食べて、何気ない時間を穏やかに過ごす。

クロヴィスは相変わらず絵を描いている。

シャルルはマリアンヌの膝を借りて眠っているようだ。

シャーリーやユーフェミアはそれぞれ別の場所で花に囲まれている。


「ルルー!!!」


びくり、とまたロロの身体が揺れた。

ルルーシュは気付かれないように小さく息を吐く。

何とかならないものか、と考えてしまうのはお節介か。

シャーリーが駆け寄ってきて、腕一杯の花束を持って微笑む。


「見て!すっごい綺麗なの!」

「そうだな。」

「もー、ルルってばちゃんと感動してる?」


しょうがないなぁ、と笑って、シャーリーが一輪のガーベラを引き抜いた。

それは予想外の方向に突き出され、その先でロロが小さく声を漏らした。


「・・・っ・・・」

「ロロに一本あげる!」


明らかな脅え。

震えながらも、切り抜けようという努力はあるらしい。

おずおずと手を差し出して、その花を受け取った。


「よかったな、ロロ。」

「う・・・ん・・・」

「折角貰ったんだ。花瓶に挿して飾ったらどうだ?」


小さく頷いて、ロロは駆け出した。

走り去るロロの背中を見ながら、シャーリーは苦笑する。


「ごめんね、ルル。」

「シャーリー?」

「私、不器用みたい。」


困ったように、シャーリーは笑った。


「そこ、座ってもいい?」

「どうぞ。」


ルルーシュの隣の空いているシートに腰を下ろして、シャーリーは膝を抱えた。


「私もね、何とかしたいと思ってるんだ。」

「シャーリーは・・・」

「私を殺したこと、恨んでなんかないよ?ロロはね、きっとずっと怖かったんだと思うの。もしナナちゃんがルルの隣に戻ったら、本当に居場所がなくなるんだと思って。」


人を殺す。

任務を全うする。

それしか考えずに生きてきたロロにとっての、初めての家族。

しかし所詮は偽りで、幸せは永遠ではない。


「あの日、私がロロの心の傷を抉っちゃった。私が悪いの。ロロは悪くない。」

「俺も・・・人のことは言えないんだ。」


ボロ雑巾のように。

酷い言葉を考えたものだ。


「何もかもを失ったとき、最後まで隣にいてくれたのは・・・本物を奪って居座っていた憎いはずの偽者だった。」


黒の騎士団を追われ、ロロはその身の限界までルルーシュを守った。


「失ってから気付くなんて・・・遅すぎるのにな。」


彼こそが本物だった。

偽りでも、兄を愛し、最期まで兄を想った。


「ルルも愛されてるね。」

「そうだな。」


ロロが戻ってきた。

一瞬立ち止まってしまった彼を手招きする。

躊躇いの後再び歩き出した彼を気にしながらシャーリーに微笑む。

シャーリーもそれに何かを汲み取ったように微笑んで立ち上がった。


「じゃあ私あっちのほうの花見てくるね!」

「転ぶなよ。」

「ルルじゃないんだからそんな心配いりませーん!」


駆け出したシャーリーに手を振って、その手をそのまま近くまで来ていたロロに差し出した。

それを取ったロロは少し申し訳なさそうな顔をして。

大丈夫だと言い聞かせるように手を握った。


「ロロ、今夜時間あるか?」


ロロは首を傾げたけれど。


ルルーシュが提案したことに少し考えて、それから強く頷いた。




























「シャ、シャーリーさん!」


呼び止められたシャーリーはきょとんとして、首を傾げながら振り返った。

まるで愛の告白だ。

強ち間違いでもないから、見守ることは出来ても助け舟を出すことは出来ない。

ロロは震える声で、震える手で、震える瞳で。

シャーリーに向き合う。

彼女は微笑んだ。


「ロロ、なぁに?」

「あのっ・・・」


手に持ったものを、ゆっくりと差し出した。

白くて、長い。


「リボン?」

「兄さんに教えてもらって・・・それで・・・」


ただ布を切って直線に縫うという簡単な作業が、ロロには大きな壁だった。

その証拠に、針で傷ついた指には無数の絆創膏が巻かれている。


「昨日の、お礼に・・・!」

「結んでくれる?」


シャーリーはくるりと回って、いつもただのゴムで飾り気なく結われた部分をロロに晒した。

少し躊躇ったロロはルルーシュに視線を送り、ルルーシュはそれを微笑ましそうに見つめながら頷いた。

静かに、ロロの手が伸びて。

ゴムを白いリボンが覆う。

シュルッという衣擦れの音が妙に大きく響いた気がした。

結び終わったロロが少し離れて、シャーリーはルルーシュにそれを見せる。


「ルル、似合う?」

「とても。」

「よかった。」


微笑んだシャーリーはロロに抱きついた。

ロロが小さく声を上げたが気にしない。


「ありがとう、ロロ!」


驚きから目を見開いていたロロは、やがてその目元を緩めた。

皆に自慢してくるね!と笑顔で走っていったシャーリーを見送りながら、ルルーシュはロロの頭を撫でた。


「よく頑張ったな。」

「兄さん・・・」

「肩の力は抜け。大丈夫だから。」

「う・・・うん。」


ぎこちなく笑ったロロの頬をつねって。




ルルーシュも笑った。






白のリボン









シャリロロ?違います(多分)
とりあえずルルは自分含め死後の世界にいる人たちの確執というものを片っ端から解決していくつもりです(これも多分)
シャーリーを殺したことで居た堪れなさを感じていたロロをルルがどうにかする、という感じ。
やっと同じラインに並んだロロとシャーリーは、はれてルル争奪におけるライバルになれたわけです。
・・・あくまでこの小説での話。


因みに拍手で『公式でルルの料理はマリアンヌ仕込み』という情報を頂きました。
あーやっぱり。って感じですが、このまま行きます。
今暮らしているメンバーの中で家事能力があるのはルルだけ、ということにしていたいので。