幼い頃、妹としたように。



咲き誇る花を摘んで、一本一本編みこんでいく。

それはやがて輪状になって。

出来上がった花輪をロロの頭の上に乗せた。


「兄さん・・・?」

「はは、似合うよ。ロロ。」


ロロが顔を赤らめて俯く。

少し涙が浮かんでいるのは、恥ずかしさからなのか喜びからなのかは分からない。


「ちょっとルル!今のは普通私にくれたりしない!?」

「あ、ごめん・・・シャーリー。じゃあ次の・・・」

「ずるいですわ。わたくしも、せめて次のは頂きたいです。」


本当は一番が良かったのですけれど。

そうにこやかに微笑むユーフェミアに、ルルーシュは内心冷や汗だ。

コンチキショウが。

そう言われたのが、自分でも気がつかないうちにトラウマ化してしまっているらしい。

本来ならば何のことはない言葉だ。

しかしそれが、ユーフェミアの口から出た言葉だと思うと何故か恐怖を感じてしまう。


「ユフィ!次のは私が貰うの!」

「あら、わたくしですわ。」

「じゃあ公平にジャンケンで決めよう!」

「・・・じゃんけん?」


ジャンケンを知らないユーフェミアにシャーリーが説明をする。

ユーフェミアは手のひらをひらいたり握ったりをして、その説明を熱心に聞く。

その姿を微笑ましく思いながら、ルルーシュはロロの髪を撫でた。


「ごめんな、ロロ。」

「何が?」

「・・・お前が救ってくれた命なのに。」


黒の騎士団を追われたルルーシュを助けるため、ロロはギアスの力を酷使した。

体感時間を止める代わりに心臓に負担を掛けるギアス。

その結果ロロは命を落としてしまった。

折角救われた命は、結局平和の為に投げ出されてしまった。


「・・・本当だよ。」

「すまない。」

「・・・嘘。いいんだ、兄さんがそれで満足なら・・・僕は・・・。」

「ロロ・・・」

「お茶が入ったわよー!」


少し離れたところから、マリアンヌの声がする。

オーブンテラスに、紅茶のポットとお茶菓子が乗っているらしい3段のケーキスタンド。


「あれ・・・」


そこでやっとルルーシュは気がついた。


「ここ、アリエス宮だったのか。」

「気付くのが遅いよ、兄さん。」


緑に囲まれた庭も、よくお茶会を開いたテラスも、その背後に聳える宮殿も。

全てが昔過ごしたアリエスの離宮だった。

行こう、とロロがまた手を引く。

ちらりと目をやった先では、シャーリーとユーフェミアがジャンケンで勝負がつかず悪戦苦闘していた。

いいか、と思いロロと駆け出す。

椅子に腰掛けたシャルルと、ティーカップを準備するマリアンヌ。

アリエス宮の庭を描くクロヴィス。

ルルーシュの顔も自然と綻んだ。


「母さんね、クッキー作ってみたの。」

「・・・え。」


ルルーシュは一気に顔を蒼白にする。

マリアンヌは料理というものが全く出来なかった。

幼い頃は正直、暗殺よりもマリアンヌの料理というテロリズムのほうが恐ろしかった。

・・・いや、きっと大丈夫だ。

ほら、だってこんなに美味しそうな・・・


「・・・・・・」

「中々上手にできているでしょう?」


アフタヌーンティーに用いられるケーキスタンドは本来スコーン、ケーキ、サンドウィッチが乗っているのが主流だ。

しかしそのケーキスタンドには何故か3段ともクッキー(らしいモノ)が乗っていた。

それだけならばいい。

クッキーの色が尋常ではない。


上から黒、紫、緑。


「・・・えーっと。」


何とかして逃げる手立ては無いものか。

ルルーシュはその出来すぎた頭脳をフル回転させる。

マリアンヌは微笑んだ。


「ほら、ロロも。食べて頂戴。」

「いえ・・・その、マリアンヌ様。」

「あらヤダ、あなたはルルーシュの弟なのだから私の息子よ。母と呼んでくれなきゃ。」


ロロが目を見開いた。

それは恐らく喜びだ。

しかし、それは所詮つかの間の幸せだったのだ。


「ほーら。」

「・・・んぐっ!」


マリアンヌが素早い動作でクッキーを3色1枚ずつ一気にロロの口に押し込む。

ロロは暫く何も言わずに咀嚼して。

ガタンッ!


「ロローー!!!!?」


椅子から落ちて倒れこんだロロをルルーシュが抱き起こす。

ロロは蒼白な顔色で泡を吹きながら、よろよろとルルーシュに手を伸ばした。

それを掴んでやると、ロロはふっと微笑む。


「兄さ・・・」

「ロロ!気をしっかり持て!」

「逃げ・・・て・・・」



ガクッ。



「あらあら、急に眠っちゃって。ルルーシュにまた会えたのが嬉しくて、はしゃぎ過ぎちゃったのかしら。」


違うな、間違っているぞ。

そう言えるものなら言いたかった。

しかしそれを口走った瞬間、全てが終わる気がする。

終わりたくない。

平和を願って死んだのに。

死後の世界でまた死ぬなんて。



「はーい、ルルーシュ。あーん。」

「あ・・・あーん・・・」



なすすべなく口を開けたら。








ルルーシュが次に意識を取り戻したのはそれから48時間27分35秒後だった。





そして何かが始まる









シリーズ化してみました。
基本的にキャラ崩壊ギャグになると思います。
・・・何話まで続くかは謎。