目をあけると、そこは花に囲まれていて。

真白に降り注ぐ光が眩しくて、陰を作るように目の上に掌を添えた。

服は結構豪華だ。

黒い、まるで皇族が纏うような服。

銀の装飾がなされていて、派手なデザインだ。

剣に貫かれた部分に傷はない。

それは幸いだ。

死んでまで痛いのなんて御免だ。

まぁ痛みを与えられても仕方のないほど、罪を重ねたが。

それにしても、風景は想像していたものとは違っていた。

自分が堕ちるのなら確実に地獄だろうと思っていたのに。

そこは華やかで、穏やかな世界。

おかしいな、と首を傾げる。

そもそも地獄なんていうのは死を恐れる人々が生み出した空想に過ぎないのかもしれない。

花が咲き乱れている丘に、一つのベンチがある。

そこまで歩いて腰掛ける。

息をゆっくり吐いた。



「お疲れさま、ルルーシュ。」



声がした。

その瞬間に涙があふれる。

目の前には、殺してしまった女性が立っていた。



「ユ、フィ・・・」



なんて都合のいい夢だろう。

そう苦笑したとき、背後から抱きつかれた。

首のあたりに、誰かの腕が巻きつく。



「お疲れさま、兄さん」

「ロロ・・・」

「もう!ロロずるい!私も!」



また新たな声。

ロロが右のほうに寄って、空いた左のスペースからまた誰かが抱きつく。



「お疲れさま、ルル。」



シャーリー。

もう声は思うように出ない。



「お疲れさま、ルルーシュ。」



クロヴィス兄上。



「お疲れさま、ルルーシュ。」



母さん。



「・・・・・・。」



・・・父上。



「皆・・・」

「申し訳ないのですけれど。シャーリー、ロロ。離れていていただけますか?」

「はい。」

「いっけー!ユフィ!」



ロロとシャーリーが大人しく離れた。

ルルーシュは目の前でほほ笑んでいるユーフェミアにぎこちなく微笑み返す。

笑顔に、棘がある。

やっぱり恨んでいるのか・・・そうだよな、と顔を俯けた瞬間。

パンッ!!

案の定、頬に衝撃が走った。

徐々に熱を持ち始めるそこに手を添えたら、今度は反対の頬にも一発。

両頬はきっと真赤で、情けないことこの上ないだろう。

ユーフェミアは、尚もにっこりとほほ笑んで。



「虐殺皇女の名が霞む?ふざけんじゃねぇぞコンチキショウが。」



え。

・・・えええ!!?



「・・・で、よろしいですか?」

「うん、いい感じ!」



何がいい感じなものか。



「ユフィ!なんて言葉づかいを・・・!」

「わたくしは、あたなにそんな事をしてほしくありませんでした。」



ユーフェミアが、今にも泣きそうなほどに顔を歪めている。

ただ眼差しだけは毅然としていた。

口にしようとした言葉を飲み込んで、ルルーシュは俯く。



「俺は・・・」

「そんな事、してくれなくてよかったのに。わたくしは貴方を恨んでいないのですから。」



頬が、ユーフェミアの手に包まれる。

温かい体温。

左手をシャーリーが握ってくれる。

学生の時のように、無邪気にほほ笑んでいた。

右手をロロが握ってくれる。

その笑顔は弟のとしての笑顔だ。

肩を、クロヴィスが叩いてくれる。

兄としての、幼いころよく見た笑顔だ。

頭を、マリアンヌが撫でてくれる。

ちゃんと愛情のある、母として。

シャルルはそっぽを向いているところをマリアンヌに引きずられた。

目を背けたまま、その父親としての大きな手も頭に添えられた。



「俺は、頑張れたかな。最期まで。」



皆が、頷いてくれる。

自然と、笑った。



「あとは、ヨボヨボな癖に筋肉だけはムキムキな老人スザクが来るのを待つだけかな。」

「ふふっ、そうですね。」

「ルル!あっちで綺麗な花を見つけたの!」

「まぁ!じゃあみんなで花輪を作りましょう!ね、ロロ?」

「はい!兄さん、行こう!」

「おい、引っ張るな。今行くから。」

「じゃあ私はお茶の準備をしなくちゃね。シャルル、手伝ってもらえる?」

「うむ。」

「じゃあ私はその風景を絵に描くとしよう。」





それぞれが、それぞれの道を行く。










終曲












小説を書いている最中も涙が出ました。
お疲れ様、ルルーシュ。