全然暗い話ではないですけどよくよく考えてみれば死にネタでした←
嫌な方はレッツリターン★




























べちゃり、という衝撃が額に走って、スザクは身を捩った。

そもそも今は何時で、ここは何処だっただろう。

何をしていたんだっけか。思い出せない。

額はどこか冷たく、何か滴る水分のようなものが感じられた。

閉じたままだった瞼を押し上げる。それでやっと今まで眠っていたのだと分かった。

溢れんばかりの光が視界に流れ込んでくる。

眩しい。目を凝らしてみる。

ピントが合った視界に映ったのは。

「あ、れ・・・」

額に乗ったビショビショのタオルを押し上げながら、目の前で露骨に嫌な顔をした少年を見る。

「勘違いしないでください。僕は兄さんに頼まれて仕方なくここにいるんです。」

フンッと鼻を鳴らして踵を返した彼に、スザクは呆然と身を起こした後動けなくなった。

状況が呑み込めない。

誰もいなくなった室内を見渡して見覚えが無いことを確認し、サイドボードの上に置いたままの洗面器にタオルをかけて、スザクはベッドから這い出した。

右手、右足、左手、左足。異常なし。

首や腰にも違和感はない。

額にタオルは乗せられてはいたものの熱がある様子もない。むしろ疲労なども無いように思う。

身体を軽く動かしながら室内をぐるりと一周してみた。

部屋の内装は上品というかどこか気品すら感じられる。記憶を探ってみてもやはりこの場所に心当たりはなかった。

そして先程の彼だ。

知っている。知っているけれど、例えばもう長らく会っていなかった様な記憶の曖昧さがある。

そんな訳は無い。だって彼は己の記憶の奥底にあったそのままの姿でそこにいて、どこか見慣れた風にも思える嫌悪の表情を浮かべていたのだから。

困ったように頭を掻きながらも、とりあえずスザクは部屋の外に出てみる事にした。

この部屋に見覚えが無いだけで、部屋がある建物自体には心当たりがあるかもしれない。

恐る恐る真鍮のドアノブに手を掛けた。

「うわっ」

少し開いたドアの向こうから驚いたような声が聞こえた。

その声にははっきりとした覚えがある。

他の何を忘れてしまったとしても、絶対忘れない自信がある、彼の声だ。

ドアにぶつかってしまいそうだったのを何とか避けた彼が、声音と同じように驚いたような表情で見つめている。

「・・・っ」

胸が締め付けられるというのはこういう状態をいうのだろうと、まるで他人事のように思いながら胸元を押さえた。

苦しい。涙が出そうだった。

「どうした、まさか具合が悪いのか?」

ドアの向こうに立っていた彼にそう問われ、ゆっくりと首を横に振る。

触れたい。唐突にそう思った。

しかしもし、これがただの幻で、己の願望にしかすぎないモノだったら。触れた途端、消え失せてしまったら。

それが怖くて結局微動だにできないスザクを見かねてため息を吐いた彼が、薔薇がいけられた花瓶を足元に置き、さぁこいとばかりに腕を広げてみせる。

衝動で飛び込んだ。抱きしめる事ができた。

「全く、子供かお前は」

ぎゅうぎゅうと加減無しに抱きしめるスザクに、彼・・・ルルーシュは困ったように笑った。















「 えっと、実は状況がよく呑み込めないんだ」

結局勢い余ってその場で泣きじゃくってしまったスザクはぐすぐすと鼻を啜りながらコーヒーの入ったマグカップを差し出してきたルルーシュを見つめた。

当然といえば当然なのだが、ルルーシュの姿はスザクの記憶に残っているままの姿だった。

艶やかな黒髪とか、長い睫毛に縁どられたその奥にある宝石のような紫の瞳。

肌はシミ一つない象牙のようで、すべてのパーツに目を奪われてしまう。

スザクの視線に気づいたのかルルーシュは気まずそうに一つ咳払いをして、ベッド横の椅子に腰掛けた。

「状況?」

「此処、Cの世界だよね?」

「そうだが」

「C.C.が僕を此処に?気付いたらこのベッドの上だったんだけど。」

ルルーシュは眉を寄せた。

何か変な事を言っただろうか。スザクが伺うように首を傾げると、ルルーシュはスザクをじっと見た。

視線がかち合う。

相変わらず長い睫だなぁと呑気な感想を浮かべているスザクに気付いたのか、その思考を遮るようにスザクの肩に手を置いてルルーシュは少し身を乗り出した。

「お前、何で此処にいるのか分からないんだな」

「だからさっきからそう言ってるんだけど」

「お前は・・・」

そこで一度、ルルーシュは言葉を切って、一拍置いた後意を決したように言った。

「お前が此処にいるのは、C.C.のせいじゃない。」

「そうなの?」

「じゃあどうしたら此処に来れると思う?」

「どう、したら・・・」

「お前、あっちの世界で死んだんだ」

沈黙。スザクは思わず絶句し、ルルーシュはスザクの様子を伺うように黙っている。

「へ、へぇ・・・」

「何だその反応は」

「いや、何ていうか・・・そっか、僕死んだんだ。っていうか死ねたんだ。」

「そりゃあ死ねるだろう。お前は人間なんだから。」

「でもさ、やっと記憶がはっきりしてきて思い出したんだけど、僕確か・・・134歳くらいじゃなかった?」

「違う。享年135歳だ。」

うわー・・・とスザクは声を漏らした。

『死ぬな』というルルーシュのギアスがその身に残されたままだったスザクは、それはもう生きた。

まだナナリーの補佐としてゼロの仮面を被っていた時は襲い来る銃弾から。

ゼロを引退しだらだらと隠居生活をしていた時はちょっとした事故から。

日本のひっそりとした農村に移住し農作業をしながら自給自足の生活をしていた時は土砂崩れや雪崩から。

ありとあらゆる危険から身を守ってくれたギアスのおかげでそろそろ死にたいと思っても自殺なんて出来るわけも無く、ギアスのせいかどうかは分からないが病気一つしなかった健康体のおかげで結局そんな年齢まで生きてしまったらしい事を知り、スザクは唖然とするより他無かった。

そして因みに死因は老衰だとあっさり言い放つルルーシュである。

「でも何で僕、こんな姿なんだろう」

「皺だらけの姿の方がよかったのか?」

「そうじゃないけど」

「思い入れが強かったんじゃないか?」

「思い入れ?」

俺にも正しいことは分からないがな、と付け足したルルーシュに、スザクは首を傾げる。

「・・・まぁ、なんだ。これ位の姿だった時に起こった事が強く印象に残っているだとか」

「あ・・・そう、なの・・・かな」

「微妙な顔をするな」

こつんと軽く額を小突く指。

「褒めてやろうか?」

「は?」

ルルーシュが不敵に笑んだ。

「褒めるって、何を?」

「そんなもの一つしかないだろう」

自信満々にルルーシュは言うけれど、スザクには検討がつかなかった。

褒められるようなこと。

もしかしたら仮面を受け継いだことについてだろうか。

キョトンとしたスザクの様子に笑いながらルルーシュは立ち上がってスザクの傍まで来ると、徐に栗毛に手を差し入れて大袈裟なまでに掻き回す。

「ちょ、ルルー・・・」

「俺の分まで・・・よく、生きてくれた。」

「・・・っ」

「頑張ったな」

あ、泣くかも。スザクは思ったが、さっきまで散々泣いていたので流石にこれ以上はとぐっと堪える。

声も震えそうになるけれど、それでも伝えたいことがあった。

彼が死んでからも生き続けた長い時間の中で、導き出した答えがある。

「・・・ほんとにね。でも、きっと、ここまで生きてきたからこそ君への想いは浄化されたんだと思う。」

「浄化?」

「君の作った世界は、素晴らしかった。そんな世界を君と一緒に作れたことを僕は誇りに思う。」

次はルルーシュが言葉を詰まらせる番だった。

憎しみ合って、最終的に手を取り合ったもののそれは目的があったからだ。

『ゼロのやり方は間違っている』と唱え続けてきたけれど、『ゼロ』の存在は間違いなどではなかったのだと、最後には思うことができた。

浄化。昇華とも言えるか。それができたからこそ、今目の前にいる彼がどうしようもなく愛おしく見えるのかもしれない。

思わず笑いがこみ上げて破顔したスザクはルルーシュの顔を覗き込んで、間違いなく意表をつけるであろう言葉を吐いた。

「ねぇ、キスしたい」

「ほぁっ・・・!?」

「いいでしょう?」

「いい訳あるか!」

それでもスザクは止まらない。元々ルルーシュが大人しく応じることなど想定していないのだ。

立ち上がってそれまで自分が腰掛けていたソファーにルルーシュを無理やり座らせて、覆いかぶさる。

ルルーシュは顔を真っ赤にして、まるで酸欠の魚のように口をパクパクさせている。

もうルルーシュに絶対遵守の能力はない。ただの力だけなら余程綿密に力学云々を駆使されない限りは負けることはない。

やがてルルーシュは諦めたようで、せめてもの抵抗なのかついっとそっぽを向いた。

不満そうに尖った唇に食らいついてやろうとぐっと体重を移動させる。

それと同時に、ノックも無しに唐突に部屋の扉が開いた。

目が合ったのは、見覚えのある女性。

男女逆転祭の時のルルーシュのようだが、間違いなく本物の女性。

彼女は頬に手を添えて「まぁ」と声を発したあと、ああこれは遺伝だったのかと思わざるを得ないような見覚えのある不敵な笑みを浮かべた。

「大丈夫よ」

「は・・・」

「閃光のマリアンヌとして世に名を轟かせたこの私が、例え『そっち』の道に走った息子の決定的瞬間の現場に居合わせようとも、動揺なんてするわけないじゃない」

「誤解ですマリアンヌ皇妃、まだキスだけです」

「まだって何だ馬鹿が!」

ルルーシュがスザクの腕を掴んだ。その瞬間ぐるりと視界が回って、気付けばスザクは床に座り込んでいた。

あれ?と首を傾げてみる。これはさっき可能性として考えた力学云々の応用とか何とかの賜物だろうか。

目を丸くしたスザクにくすりと笑ったのはマリアンヌだった。

「ルルーシュは私に似て美人だから暴漢対策に護身術を教えたのよ」

本当はCの世界に暴漢なんていないと分かってはいたけれど、案外役に立ったわねー。

ひらりと手を振ってマリアンヌは部屋を出ていくべく踵を返した。

「ルルーシュ、もう準備は出来ているから、早めにね」

「・・・っわかっています!!!」

パタンと扉が閉まって、残された二人には何とも表現し難い沈黙が残った。

何だろう、気まずい。

それに耐えられなくなって、スザクはバツが悪そうにルルーシュを見遣った。

「えっと、ルルーシュ。準備って?」

「スザク」

「なに?」

「ゼロ・レクイエムによって『枢木スザク』が死んで、『ゼロ』が生まれた」

「・・・うん」

「でも、その『ゼロ』も死んだ」

「そう、だね」

「このCの世界はお前が今まで生きてきた世界とは違う時間が流れている。時が進む早さは全く違うしそもそも俺達はもう歳を取らないけれど、それでも確かに時は進んで、巡っているんだ」

「ルルーシュ?」

「何の偶然か何の因果か、今日はな、Cの世界では7月10日なんだ」

スザクは息を飲んだ。それにルルーシュが苦笑して、スザクの手をとって立たせる。

「皆がパーティーの準備をしてくれている。広間に行こう。」

呆然とするスザクに、ルルーシュはため息を吐いた。


そしてぐっと身を乗り出してきたかと思うと、スザクの唇よりも少しずれた所に口付ける。

照れからか顔を真っ赤に染めながら、ルルーシュは綺麗に笑んだ。

「HAPPY BIRTHDAY、スザク。生まれてきてくれて、ありがとう」



07/10 BIRTHDAY




「ルルーシュ、どうせキスしてくれるならもうちょっと右の所がいいんだけど」

「うるさい!」









なんで誕生日なのに死にネタやねんwwwwww
ってツッコミは既に自分でやっているので、もうほっといてやってください
一から書いてる時間ないと思って一番どうにか出来そうな書きかけの話を改造したらこんな事になりました/(^o^)\