ルルーシュの朝は早い。

低血圧であるルルーシュが早朝5時にすっと起きるというのは、慣れるまでに結構な苦労をした。

学生だったときも、皇室に戻った後も。

こんなに朝早く起床し、朝食の下ごしらえから始めたことはなかった。

今となってはその手間も生きがいとなってしまっていて、最早周囲から主婦と言われても否定することなど出来なかった。

ベッドから身を起こして10分ほどボーっとする。

その間に今日は洗濯をしようだとか掃除は明日でいいかとか。

おぼろ気な意識の中で考えるのだ。

やっとベッドから身を出すと、ひやりとした冷気に身震いした。

部屋着を脱いで綺麗にたたみ、洗濯するものも分けておく。

部屋に備え付けの水道で顔を洗ってから身だしなみを整えて部屋を出た。

広い宮殿故に廊下も無駄に長い。

キッチンに着くまでに大抵朝食の献立を考える

まずパンはクロワッサンを焼こうと決める。

フランスパンは昨日作ったものがあるから希望があれば切ればいい。

ハムエッグに野菜サラダを添えて。

苺ジャムは一昨日作った。

そういえばドレッシングが切れていたなと思い出して、それも脳内リストに記録する。

コーヒーと紅茶は皆が起きてきてから希望を取る。

モッツァレラチーズがあったから付け合せに軽いものでも作ろうか。

そんなことを考えているうちにキッチンへ。

そして見事に絶句した。

なんだこれは。

そんな言葉すら発することが出来ない。

漂うのは白い粉と、黒い煙。

見事なコントラストだ。

汚れたボウルなどの調理器具が散乱し、焦げ付いた壁にはまるで砲丸でもめり込んだのかというほどの穴が開いていた。


「えー・・・」


やっと声が出た。

なんというか、よくわからない。

泣きたいのか怒りたいのか、はたまたここまでの大惨事を創り上げた者に賞賛を浴びせたいのか。

どうにもならない感情に、ははっと乾いた笑いが漏れた。

そもそも昨晩の夕食後の状態と今の状態がかけ離れすぎている。

昨日も当然のように後片付けをして。

そして今朝こんな状況ならば・・・。


「・・・夜中か?」


では何故夜中に気付くことができなかったのかとルルーシュは悔やんだ。

壁に穴があくほどの何かがあったのなら、大きな音もなったであろうに。

日常の主婦生活があまりにもハードすぎて、夜は泥のような眠りに落ちてしまったとでも言うのか。

とりあえずどうにかしなければ、朝食の準備すらままならない。

壁にかけてあったピンクのエプロンの汚れを叩き落として纏った。


袖をまくって己に気合を入れた。






















結局後片付けに2時間以上かかってしまった。

調理道具を洗うだけならば15分程度で終われたはずなのだが、何せ壁や床まで煤や粉だらけだったのだ。

それを全部磨き上げるのは、ルルーシュの体力と寝起きという条件下の元では至難の業だ。

軽く息切れを起こしながらも一度手を洗って、休憩しようと広間に向かう。

時刻はもう7時を回っていた。

そろそろ誰か起きていてもいい時間。

首を傾げながらも、妙に重く感じる扉を押し開けた。


「・・・なっ!!」


そこはまた違った意味で大惨事。

テーブルの上にはどうやらあのキッチンの主産物らしいケーキ。

形はグチャグチャで、白いはずの生クリームは何故か少し黒ずんでいた。

部屋の片隅には脚立。

天井近くにはロープが這わされ、そこに紙テープで作った輪と横断幕が飾られている。


『ルルーシュ誕生日おめでとう!』


「あ、そ・・・か。」


12月5日。


自分の誕生日であるということをすっかり忘れていた。

切った後らしい色とりどりの紙くずや、マジック。

それらを、自分が寝静まった後夜中に使ったのだろう。

テーブルから少し離れた絨毯の上に、キッチンを惨状にした犯人達が寝転がっている。

夜通しの作業で、疲れて眠ってしまったのだろう。

別の部屋からブランケットを持ってきて、一人ひとりにかけてやる。


「みんな・・・ありがとう。」


さり気無く宮殿の窓ガラスが割れていたり、テーブルにマジックの跡がついていたり。

問題は山積みだったが、今だけは素直に喜んでおこうと。

みんなの寝顔を見ながら、ルルーシュは笑った。









あまりにも昨日UPした小説がアレだったもので、即席で書いちゃいました。
ゆえに短めです。
執筆時間累計10分の代物なので微妙ですが。
連載の番外編で何か書けたらいいなと思ってたんですが、書けそうなものがこのシリーズしかありませんでした(笑)