ユーフェミアと男女交際をする事になったスザクは翌日、大学の最寄り駅で彼女と待ち合わせをした。
一緒に大学に行きたいとの申し出にとりあえず了解したはいいが、やはり多少面倒だという思いはあった。
いつの頃だったか付き合った女性に、何故待ち合わせをするのかとスザクは問うてみたことがある。
それについて色々な話を聞かされたが、要約すれば『見せびらかしたい』という欲求なのだという。
案の定一緒に大学の構内を歩いてみると、あらゆる視線に晒されてしまった。
見せびらかしたいというのは他の女性への牽制の意味が強いのだろう。
しかしその牽制のターゲットである女性からの視線のほか、男性からの疎みの視線も混じってたようだった。
留学生のユーフェミア。人気者らしい。
しかし学科が違うので受けなければいけない講義も違う。
登校を共にしても授業が始まれば別行動だ。
唯一スザクが楽だと感じたのは、これまでの女性と違って昼休みと帰りの行動の自由を与えられた事だった。
大抵は昼休みは一緒に昼食を。帰りは一緒に帰るから講義が終わったら何処かで待ち合わせ。
それが当たり前だったのだが、ユーフェミアはそこまで一緒に居てくれなくていいと言った。
スザクの交友関係や予定を考慮し、無理に会わせる必要は無い。そんな申し出は実に有難かった。
久しぶりの誰にも拘束されない、男友達ととる昼食。
驚いたのは、今朝スザクがユーフェミアと一緒に登校するまで、スザクが前の彼女と別れた事を誰も知らなかったということだった。
何となく気になって別の科にいる昔馴染みの女性にも聞いてみたが「知らないし、あんたの男女付き合いになんて興味ない」と吐き捨てられたほどだ。
しかしよくよく考えてみればそれが当たり前なのである。
前の彼女と別れてから3日間、大学は休みだった。
レポートが終わらないだとか、何らかの事情で大学に出入りしていた人間もいなくは無いだろうが、それであれば噂の広まりなど高が知れている。
ユーフェミアの口ぶりはただの誇大表現だったのだろうか。
そこまで考えて、スザクは余計な事を考えるのは止めようと首を横に振った。
詮索に意味など無い。どうせいつかは終わる仲なのだ。
そんな事をだらだらと考えいている内に、あっという間に講義が終わってしまった。講義の内容は全く頭に入っていないし、ノートすらまともに取れていない。
明日誰かにノートを見せてもらわなければ、と思いながらスザクは校舎を出た。
空がどんよりとしていて、空気が湿っぽい。
これは一雨来そうだと足早に校門をくぐるところでスザクは思わず立ち止まった。
正直立ち止まりたくは無かったのだが、それではあまりに酷だと思いとどまって、そこにいる名目上の恋人を見遣る。
多少恨めしそうな顔をしてしまったがそれくらいは赦してほしかった。だって話が違う。
「・・・帰りは一緒じゃなくて良かったんじゃなかった?」
「わたくしがここにいたのは、一緒に帰るためではありませんわ。」
「そうなの?」
「ええ」
彼女・・・ユーフェミアは首肯する。だからといって目的を語るわけでもない。
自分を待っているわけではないのかともスザクは思ったが、その割りにはユーフェミアの視線の先にはスザクがいるのだ。
何も語らずただ笑顔だけを浮かべている彼女に、スザクは不気味ささえ覚えた。
「・・・とりあえず、僕は帰るよ?」
伺うようにそう告げると、ユーフェミアはすっと視線を動かした。
その視線の先を目で追ったスザクは思わず目を剥いた。
全く気づかなかった。いつの間にかスザクの後ろに、最早神出鬼没とも言える人物が立っていたのだ。
スザクは人の気配には敏感な方だと自負していたので、酷く驚いた。
「あら、ルルーシュではありませんか」
「・・・ユーフェミア」
「あなたとわたくしの仲ではありませんか。どうぞ昔のようにユフィとお呼びになって?」
その二人に面識があったことに驚いて目を丸くしながら両者を見比べたスザクは、ルルーシュが酷く険しい表情を浮かべていることに気付いた。
嫌悪のようで、それとは少し違う。
「ここで、何を」
「あなたなら、態々聞かずとも分かるのではありませんか?」
「馬鹿な真似はやめろ」
「何が馬鹿なものですか。おかしいのはわたくしではなくルルーシュの方です。ベジタリアンの真似事などをしているからこんな状態なのではなくて?」
ユーフェミアの手がルルーシュの髪に触れた。
逆上したかのように表情を歪めたルルーシュがスザクの手を取って踵を返す。
「ちょ、ルルーシュ?」
「いいから来い!」
そのまま大した力ではないものの引きずられる形でルルーシュと共にユーフェミアから離れたスザクは、聞き逃さなかった。
またお会いしましょう。お兄様。
彼女が。笑ってそう言ったのを。
ぜんっぜん進まなねぇー・・・(汗