カタカタと端末を操作する音が静かな室内に響く。
作戦を何通りも立てているらしいルルーシュの後姿を黙って見つめていたスザクはおもむろに口を開いた。
「ルルーシュ・・・一つ、聞きたい」
「俺は忙しい。一つだけだぞ。」
「・・・何故、ユフィを殺した?」
それに、ルルーシュは手を動かしたまま口だけ噤んだ。
しばしの沈黙の後、押し殺したような静かな声で返答が返る。
「・・・邪魔だったから。慈愛を振りかざし、ずかずかと踏み入ってくる彼女が。」
「じゃあシャーリーは?彼女も邪魔だったから、君が殺したのか?」
「・・・一つだけだと断ったはずだ。」
『ユーフェミアの信念から最もかけはなれたギアスがかかってしまって、殺すしか『救う』方法が無くなってしまって・・・それでも心が痛まない非情な男だと思っているのか、ルルーシュの事を。』
ゼロはそう言った。
かかってしまって、という言い回しが何よりも気にかかる。
もし何らかの事故でユーフェミアにギアスがかかってしまったのだとしたら。
ルルーシュの本意ではないとしたら。
シャーリーの死にも何か別の真相があるのだとしたら。
彼を恨むことで突き動かされていた己はどうなってしまうのか。
胸中を占めた感情に恐らく一番当てはまるのは『恐怖』だった。
そして思い出すのは、学友であったシャーリーとの最後の会話。
彼女は。
「シャーリーは・・・君がゼロだということを知っても、君が大好きだと言っていた。」
「・・・そうか。」
「ルルーシュ」
「お前は俺に、何と言ってほしいんだ?」
ついにルルーシュは作業の手を止め、振り向いた。
まっすぐ射抜くような視線に、スザクは息を詰まらせる。
迷いなど寸分も感じさせない紫電がそこにある。
「ユフィを、シャーリーを殺してすいませんでしたと・・・そんなつもりは無かったんですとでも言ってほしいのか?俺が頭を下げれば、お前は満足か?」
「・・・っ、・・・僕は、」
「お前が望むなら俺はそれをしよう。ただそれはあくまで体面上の話であって、俺自身は今現在のこの『結果』について何も思うことは無い。罪悪感を抱くには遅すぎたし、今更の後悔は彼女達に失礼だ。」
何も言わなくなったスザクに、ルルーシュは反転させていた身体を元に戻し、また端末に向き合ってなにやら操作している。
ただその沈黙が暫く続いて、スザクが小さく息を吐いたとき、ふと手を止めたルルーシュは顔だけほんの少し振り返ってみせる。
「・・・奪うことには、慣れてしまった。ただ、奪われることには慣れていないんだ・・・傲慢だろう?」
皮肉を込めて笑ったルルーシュに、スザクはそれ以上何も言わなかった。