失態だった。失態としか言いようがない。
まだまだ霞み本覚醒とはいかない意識の中、ゼロは思った。
状況は理解できているようで、できていなかった。
捕まった。枢木スザクと話をしていて、呆気なく。油断していた。しかしルルーシュのことで頭が一杯だったのだから仕方がない。
鈍い痛みを訴える腹部に気遣いながら身を捩ってみると、じゃらりと鳴った金属音にやはりかと嘆息しかけて、思考に割って入るようないけ好かない声音に一気に現実へと引き戻される。
『気分はどうかな?』
「最初に視界に入ったのが貴様でなければそれなりには良かった筈だ。」
『これはまた随分な物言いだ。』
いつもなら、大抵目が覚めて視界に入るのは弟のどちらかか妹。
それが今に限ってはそのどちらでもなく、更には胡散臭いまでの笑みを浮かべているものだから、ゼロはそれに対して盛大に毒吐いた。
神聖ブリタニア帝国第二皇子、シュナイゼル・エル・ブリタニア。
彼はギアスを警戒してか別室からの通信を利用していた。
モニタに映る優雅とも言える微笑にゼロは盛大に眉を顰め、目を細めた。
身体は重い。
怪我のせいでもあるし、手足を拘束する鎖のせいでもあるだろう。
深くため息を吐いて、尚も見据えるのは眼前にある通信用のカメラだ。
「何故私を生かす?生かしたところで私は決して口を割らないぞ。」
『その余裕から推測するに、自白剤の類は効果が無さそうだね』
「あらゆる自白剤、自白に通ずるであろう麻薬への耐性はつけてある。残念だったな。」
『困ったね。』
「嘘だな。全く困ってなどいないだろう。」
『バレたかい?』
「殺せ」
『こちらは君が何者なのかが気になって夜も眠れない程なんだ。君の正体を掴むまでは殺さないよ。』
「私が何者か?貴様は私を『ゼロ』として捕えたのだろう。」
『そうだね、君は『ゼロ』だ。だが『ルルーシュ』ではないのだろう?』
「私はゼロだ。それ以外の何者でもない。」
『『ゼロ』という名称は記号でしかない。象徴、と言った方がいいかな。私は中身を知りたいんだよ。』
「何度聞かれても、私は『ゼロ』だとしか答えられない。」
まるで言葉遊びのようだとゼロは思った。
相手は『ゼロ』を記号、象徴として捉えている。
だがその相手が知らない己の本当の名もゼロなのだ。
シュナイゼルが知らないのをいいことに、無意味なやりとりは続くかに思えたのだが、先に諦めたのはシュナイゼルの方だった。
『やれやれ、困ったものだ。』
「その意見には同意する。」
『私はね、君がブリタニアを壊そうが何をしようが興味はないんだ。ただ一つ、私の興味を引くのは、君の・・・君達の存在だけ。』
ゼロはまた眉を顰めた。真意が読めない。
国を壊す反逆者としてではなく、ただ己の興味の対象として『ゼロ』を捕え、更にはルルーシュまで捕えようとでも言うのだろうか。
『『ルルーシュ』の頭脳は素晴らしい。幼い頃から利発な子だとは思っていたが、まさかたった一人でブリタニアをここまで追い込むとは思わなかった。』
「『ルルーシュ』は一人ではない。」
『いいや、彼は一人だよ。『黒の騎士団』という組織も、所詮はまやかしに過ぎない。』
「貴様」
『まやかしでなければ、こんなに容易に崩壊させることなど出来なかっただろうからね。』
ほくそ笑んだシュナイゼルにゼロは顔を顰めた。
その時、彼の映るモニタの隅に、アヴァロンへと着艦する斑鳩の映像が映し出された。
短いですが一旦ここでストップ。次はルルーシュさんのターンになるかと。