「何か用ですか。」
あからさまな嫌悪を浮かべて出迎えたロロにスザクも眉を顰めたのだが、今はそんな事に構っている暇はないと割り切ってクラブハウスに押し入ろうとする。
しかしロロがそれを拒むかのように身を呈し、ドアを塞いだ。
身を刺すような殺気が放たれる。
「ですから、何の用なのかと聞いているんですが。」
「君に用はないよ。」
「では誰に何の用なのかここではっきりさせてもらえますか。」
「ルルーシュに、君らの兄のことで話がある。」
ぴくりと、ロロは眉をはねさせた。
しかしすぐに平静を繕ったのか目をすっと細めてドアを閉めようとする。
「兄さんは今朝から体調が優れないので休んでいます。明日にしてもらえますか。」
「ゼロにギアスをかけられているんだろう。」
ロロが小さく舌打ちをした瞬間、周囲の時は静止した。
次にスザクが意識を取り戻した時にはロロがスザクの背後を取り、その首筋にナイフを添えていた。
ロロが手に力を込めてナイフを引こうとした時、静かな声が響いた。
「ロロ、待ってください」
スザクもその声に耳を疑い目を剥いた。
クラブハウスの中から現れたのは、車椅子に腰かけたナナリーで。
彼女はロロの元までやってくると、ロロの服の裾をきゅっと掴んだ。
目が見えなくても、放たれる殺気でロロが何をしようとしているのかを悟ったのだろう。
悲しそうに眉を寄せるナナリーにロロは急いたような声で名を呼ぶ。
「ナナリー・・・!」
「もうそういうことはしないと、お兄様と約束しましたよね。」
「でもッ!」
「いいんです。」
ギアスの事を分かっている上でルルーシュに会いに来たスザクに、ナナリーの存在までもが知られてしまった。
それで生かしておけばどうなるかと心配するロロに、ナナリーは首を横に振った。
それからロロが項垂れてスザクを解放し、ナナリーは静かにスザクに向かい合った。
「お久しぶりですね、スザクさん。」
「・・・やっぱり、ここにいたんだ。」
「私の居たい場所はブリタニアではなく、お兄様の傍ですから。」
「・・・戻る気は、無いという事?」
「貴方がお兄様の居場所を私に黙っていた事、許していません。」
そう言って、ナナリーは袖からナイフを一本引きだした。
それを逆手に握り締める。
ここで無理矢理連れ去るつもりならば自らこの命を絶つと、訴えているのだ。
それに盛大に眉を顰めたスザクに、ナナリーは微笑む。
「勘違いしないでくださいね。私がこれを持っているのはお兄様に言われたからではありません。私は自分の意思でここに残る事を選び、その為の保険としてこれを持ち歩いているのです。私はもう何もかもを指図され、全てに頷くような人形ではありません。」
その気迫に押され黙り込んだスザクに、ナナリーはまた微笑んで、何より・・・と言葉を繋げた。
「それにあの国は私の存在など、とうに忘れているでしょう?」
「そんな事ッ」
「名目上『ゼロに誘拐された』私を取り戻す努力を、あの国はしましたか?」
スザクは思わず口を噤んだ。
スザクが何度進言しても、ブリタニアは皇女ナナリーの返還要求を立てなかったのは事実だったからだ。
「他の方よりは多少不幸な身の上、加えてまだ何かを治めるには若すぎる年齢。私が治めたであろう人々も、私自身も、簡単に操れる体のいい操り人形なんです。いれば便利で、いなくても困りはしない。」
「ナナ、リ・・・」
「それでも私は悲しくはありません。大切な人達が傍にいてくださいますから。」
ロロの手をきゅっと握って微笑んだナナリーは改めてスザクに向き合い、やわらかく笑む。
「それで、お兄様に何のご用ですか?」
「・・・ルルーシュは本当に休んでるの?」
「ええ、お兄様は最近あまり睡眠をお取りにならないので、よくゼロお兄様が強制的にギアスで眠らせるんです。」
お兄様に急ぎの用ですか?と首を傾げたナナリーに、スザクが呻くように言った。
「ゼロ、が・・・シュナイゼル殿下に捕まった。」
ナナリーが小さく悲鳴を上げて、それでも今にもスザクに飛びかかっていきそうなロロを制するために震える手でロロの服をしっかり握りしめた。
ホント私って黒ナナ好きだな