「お兄様、お願いがあります。」
微笑んだ妹の唇がその『願い』の言葉を紡いで、ルルーシュは目を見開いた。
「だ、駄目だ・・・!」
「お願いします。もう、待っているだけは嫌なのです。」
ナナリーは、うろたえる兄に屈託ない笑顔を向けた。
黒のワンピースを纏い、長い髪を黒のレースがあしらわれたリボンで結わえて。
ロロが押す車椅子に腰かけて現れた少女に、黒の騎士団は一斉に驚きの声を上げた。
「なんでそいつがここにいるんだよ!」
玉城が大袈裟に声を張って、それを聞いたナナリーは不思議そうに首を傾げた。
「おかしいですか?」
「おかしいに決まってんだろうが!ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ!」
「当たり前です。ここは皆さんと、私の大事な人達が命をかけている場所ですから。」
数か月前ゼロによって拉致された、エリア11総督になるはずだった皇女。
ナナリー・ヴィ・ブリタニアはまだ少女らしさを残しているとはいえ皇族らしい威厳を放ちながらそこにいた。
玉城は声を荒げた。
「ブリキの皇女が何でこんなところをウロウロしてんだよ!!」
「ゼロに連れてきていただいたからです。」
「何考えてんだよゼロはよぉ!敵じゃねえか!」
「私の存在が、この黒の騎士団にとって不利益である、と・・・そう仰りたいのですか?」
車椅子の後ろに立っていたロロが気遣うように近づくのを制し、ナナリーは凛とした態度で前を見据えた。
「今現在ブリタニア皇帝は政治や他国への侵略に無関心です。第一皇子オデュッセウスの陰に隠れて実質ブリタニアの全権を握っているのは第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア。彼はカンボジアのトロモ機関と深い繋がりを持っていて、今極秘で天空要塞を作っています。強力なブレイズルミナスで全長3km近くある要塞全てを覆えるように開発しているそうですから、こちらも何らかの手を打たなければあれに攻撃を加えることはできませんね。もしよろしければこんな未完成の兵器よりも、今現在ブリタニア軍がどれ程の軍人とKMFを抱えているのか・・・表にでもいたしましょうか。」
にっこりと、彼女は笑う。
まだ年若い彼女の、年相応の笑顔。
それを見て、騎士団の面々は息をのんだ。
「これでもまだ、私が全くの不利益であると仰られるなら仕方ありませんけれど。」
「・・・自分の国を売るってのかッ!!」
玉城が叫ぶ。
それに同意するかのようにほかの団員達も怪訝そうな視線をナナリーに向けた。
ただそれに臆することは無く、ナナリーは問うた。
「あなた方に守りたいものはありますか?」
ざわめいていたその場がしんと静まり返る。
かまわずナナリーは続けた。
「日本を守りたい?家族や兄弟を守りたい?きっとそんな理由であなた方はこの黒の騎士団に身を置いているのでしょう?人を殺すことを善しとし、例え犠牲を払ったとしても奪われたものを取り返したいのでしょう?私も同じです。例え祖国を裏切っても、多くの兄弟を売ることになっても・・・ただ、守りたいものだけのために、私は私の良心を捨てるのです。修羅の道に落ちることを恐れはしませんし、後悔もしません。」
はっきりとのたまう少女のその意思の強さに、騎士団の面々は言葉を失った。
目が見えず、歩くこともできず、お飾りとして立てられたはずの彼女は確かに強固な意志を持っているのだ。
「ナナリー、もう行こう。」
「そうですね、ロロ。お願いします。」
ロロに車椅子を押されその場から去ったナナリーを、団員達は愕然としながら見送る事しかできなかった。
「C.C.、お前の新しい仕事だ。」
びくりと、彼女は震えた。
今までこなしてきたらしい仕事を考えればそれもしょうがないのかもしれない。
どう見ても、平気な顔で死体の片づけが出来ていたとは思えない。
ルルーシュはC.C.の前にナナリーを導いてやる。
車椅子に腰掛けた、瞳を硬く閉ざした少女。
今のC.C.には勿論それが誰なのか分からないし、新しく与えられる仕事と彼女に関係があるようには思えなかったのだろう。
困ったように眉を寄せて、少し身体を震わせながら伺うようにルルーシュを見た。
「あの・・・」
「俺の妹のナナリーだ。」
「いも・・・う、と・・・」
「見ての通り足と目が不自由な上に、俺達がゼロとして活動している間いつも一人で寂しい思いをさせている。話し相手になってやってくれ。」
C.C.はその黄金の瞳を限界まで見開き、腑に落ちないといった表情でおずおずと呟いた。
「あの・・・それからどうすれば・・・」
「それからも何も、それが仕事だ。」
「それが・・・しごと、です・・・か?」
ただ、話すことが。
そう呟いたC.C.に、ルルーシュは怪訝そうに首を傾げた。
「不満か?」
怪訝そうに首を傾げたルルーシュに、C,C,は首を激しく横に振る事で否定を表した。
C.C.にとっては今までやったことのない仕事だ。
むしろ口をきけば殴られるような生活。
その記憶しか持たないC.C.はどうしたらいいのか分からず震えた。
そのC.C.の手を取ったのはナナリーだった。
「こんにちは、ナナリーです。」
「ひッ・・・だ、だめ・・・!」
「手を触ってはいけなかったでしょうか。」
「だめ、だめですっ・・・私の手、汚いので・・・」
「そうですか?私は目が見えないので分かりませんが、触った感じはそんな風には思えませんけれど。」
「でもっ」
「とても綺麗で、優しい手をしていると思います。」
気づけば、C.C.の金色の瞳からは大粒の涙がぼろぼろと毀れていた。
ナナリーは眉を寄せて懐からハンカチを取り出して、それを拭ってやる。
「ナナリー・・・」
「大丈夫です、お兄様。」
何か言いたげなルルーシュに、ナナリーは微笑みかけた。
「C.C.さんは大丈夫です。私が傍にいますから。」
「・・・」
「私の傍にだって、ロロとC.C.さんがいてくれます。お兄様が私の護衛にと言ってくれた咲世子さんやジェレミアさんもいてくれます。」
「しかし・・・」
「お兄様の傍にも、ゼロお兄様がいますから。私は安心して帰りを待っています。」
心配そうなルルーシュの手をとり、ナナリーはそれをきゅっと握り締めた。
そばに控えているゼロも、手を絡めとられ重ねられる。
「行ってらっしゃいませ、お兄様方。」
黒ナナ降臨。でも正直この話いらんかったんじゃないかなぁとも思います。
書いたの結構前なので、最早自分が何を思って書いたのかは不明orz