目を開けるとそこにあるのは燃えるような夕焼け。
オレンジ色に染まった空は眩しいほどで、目を細めながらもルルーシュはその色を見つめた。
あの時。
突然の発光に驚いて身を寄せ合ったロロも、それごと抱きしめてくれたゼロも傍にはいない。
それどころか何処か別の空間に移動してしまったのではと、現実ではまずありえないようなことを考えてしまう。
まずギアスという力がある時点で現実離れしているのだが、まさか瞬間移動もしくは空間転移なんて。
目の前には長い石段と、なにかの祭壇。
どこまでも続く夕焼けが背景にあるせいか、まるで宙に浮いているようだ。
そこにあった人影にルルーシュは目を剥く。
ぎりっと奥歯を噛み締めて叫んだ。
「・・・シャルル・ジ・ブリタニア!!」
その姿は紛れもなく憎い敵。
シャルルは祭壇からルルーシュを見下し、特に何かを言うわけではないのだが、ただじっとルルーシュを見つめている。
殺すなら、今が好機。
ルルーシュは手に握り締めた銃を構えようと、腕に力を込める。
その途端に怖くなった。
銃は、シャーリーの命を奪った武器だ。
そしてゼロが自分に向けてきた武器。
明確な殺意の元、高確率で人の命を奪える。
カタカタと震える手に、銃も一緒に震えた。
「どうした、奪って見せろ」
「・・・っ!!!」
「弱いなぁ、なぁルルーシュよ」
「・・・るさいっ、黙れぇ!!!」
ダンダンッと銃声が響く。
何発もの銃弾はシャルルの身を貫き、その体躯のあちこちから血が噴き出す。
ゆっくりと倒れて地に沈んだシャルルの周りに血だまりが広がり、ルルーシュは口元を押さえて膝をついた。
フラッシュバックするのはシャーリーの、止まらないそれ。
生きろと。
死ぬなと何度叫んでも止まらなかったそれ。
視界が涙でぼやけるのを感じながら呼吸を整えようと大袈裟に肩を上下させたルルーシュの耳に、声が響いた。
「貴様は弱者だ」
ばっとルルーシュが顔を上げる。
そこにはゆっくりと身を起こすシャルルの姿。
赤い血を流す傷跡はみるみる小さくなり、そこから鉛の弾を吐きだして完全に塞がってしまう。
その様子に、ルルーシュは見覚えがあった。
「まさか貴様ッ・・・コードを・・・!?」
傷ついたC.C.も、いつしかその傷をみるみる内に再生させたことがあった。
そして何よりコードを持っていたはずのV.V.が絶命し、彼のコードがどこに消えたのかが分からなかった。
V.V.のコードが、シャルルに移譲されている。
「そうだ、これはV.V.のコードだ」
「そん、な・・・」
不老不死の人間を殺す方法などあるはずがない。
『死なない』から『不死』なのだ。
混乱が混乱を呼び、ルルーシュは頭の中が真っ白になるのを感じた。
そもそもここで父親を殺して、どうするつもりだったのだろうか。
皇帝を失えばブリタニアという国は確実に乱れる。
次期皇帝に就く可能性が高いのは第二皇子のシュナイゼルで、彼はとにかく腹の底に何を潜めているかが知れない男だ。
ブリタニアを変えるどころか、エリアの解放すら成されないかもしれない。
これでは本当に奪うだけだ。
これでは憎い父親と何も変わらない。
言葉を失ったルルーシュにまたシャルルは嗤って懐に隠していたらしい銃を構えた。
「弱いなぁ、ルルーシュよ」
先程と同じように言ったシャルルではあったが、ふと視線を横へと流す。
ルルーシュもそちらを向けば、そこには居なかったはずの人物が立っていた。
「C.C.・・・?」
「シャルル、もういいだろう。」
そう言って彼女が向かったのはルルーシュの傍ではなく、シャルルの傍だった。
瞠目するルルーシュの視線の先で、C.C.とシャルルは向かい合っている。
「私が来たのだから、もう何もかもに意味は無いはずだ。・・・そこの、男にも。」
「・・・その通りだ。」
シャルルは口角を吊り上げて、C.C.の身体を乱暴に抱き寄せた。
「C.C.!何を・・・!」
「ここに2つのコードが揃った。C.C.よ、お前の願いもようやく叶うのだ」
「C.C.の願い・・・!?C.C.の願いを知っているのか!?」
力を与える代わりに私の願いを一つだけ叶えてもらう。
そう言って契約を交わしたルルーシュは結局C.C.の願いを教えてもらってはいなかった。
ルルーシュの思う『願い』とシャルルが言う『願い』が同じものなのか、ルルーシュには分からない。
ただ契約を交わした時、何処か寂しげな声で一つだけ願いを叶えろと言ったC.C.に、そのほかに願いがあるとはルルーシュには思えなかった。
狼狽するルルーシュを一瞥して、C.C.は少し目を細めた。
「ルルーシュ・・・今こそお前に、我が願いを明かそう」
C.C.の隣でシャルルが嘲笑を浮かべている。
C.C.は謳うように言った。
「私の願いは、『死ぬ』こと。この永遠の命から解放されることこそ私の望み。」
ルルーシュは絶句した。
そんなはずはないと思って、何故「そんなはずはない」と思うのか分からなくなった。
己はC.C.のことを何も知らず、契約したが望みすら知らず、ただその関係を共犯と名づけてそこに居ただけ。
そんなはずはないと、言える資格がなかった。
「じゃあ、お前は・・・死ぬために、生きてきたのか」
「そうだ。死があるからこそ人は生きる。それを奪われている今の私に、生の意味は無い。」
「ずっと、最初から・・・俺に、そう願ってきたのか」
「そうだ。だがもう私にとってお前は何の利用価値も無い。私の望みは、シャルルが叶えてくれる。」
C.C.が手をかざした場所の地面から端末のようなものが迫り出して、それを操作する。
ルルーシュの身体が光に包まれた。
「なッ・・・」
「さようなら、ルルーシュ。私の望みを叶えるには・・・お前は優しすぎた。」
やがて収縮していった光と共に、ルルーシュの身体は霧散した。
それを見届けて、C.C.は肩を撫で下ろした。
シャルルは然して興味もなさそうにそれを一瞥したあと、くつくつと笑いを漏らした。
久しぶりすぎてもう土下座するしかないですよね、ええ。
相変わらず本編沿い適当ですいません。