ギアス嚮団は殺伐としていた。
黒の騎士団が襲撃を仕掛け、嚮団関係者と思われる者達を残らず切り捨てた。
多くの子供達がギアス能力者になるための実験を甘受していたらしい。
それがV.V.の口車に乗せられてのことだったのか、自分の意思でそうしたのかはわからない。
ただ少なくともその子供達はギアスを使って人を殺すことになんの感情も抱いていないようだった。
気に食わない、とルルーシュは唇を噛む。
ロロも、ここで育ったのだ。
だから人を殺すことに何の躊躇もなかった。
それでも彼は変わってきている。
人として持つべき感情も芽生えたようだし、今は弟として甘えるということも覚えた。
「・・・兄さん?」
険しくなっていた表情を心配したロロが声をかけてくる。
なんでもないよと微笑み返して、深く息をついた。
ゼロは前を歩いている。
V.V.が近くにいるのを感じ取っているらしい彼は、自然とルルーシュとの間に距離をとっていた。
後ろから撃つなんてことはしない。
裏切らない、そんな意思の表れだ。
自分と同じゼロの衣装。
顔も、声も。
今は服装さえも何もかもが同じ、双子の兄。
彼は振り返る事無くただ黙って歩いている。
その背中を見ているのにいたたまれなくなり、声をかけようとルルーシュが口を開きかけた時だった。
「ああ、本当にきたんだ。」
幼い、子供の声。
目の前の階段のようになっている段差に、淡い金の長い髪を地につけた子供が愉快そうに笑いながら腰掛けている。
V.V.。
シャーリーを殺した能力者がそこにいた。
髪や服装は乱れ、ところどころに血がこびり付いている。
KMF戦での負傷を大人しく癒している最中なのだろうか。
「ゼロ、結局裏切るんだね。折角創ってあげたのに。」
「それには感謝している。そのおかげで私はルルーシュに会うことが出来たのだから。」
しかしそれとこれとは話は別だ、と睨んで。
ゼロはV.V.に向けて銃を構えたまま、ルルーシュを庇うように自分の背の後ろに導いた。
「まぁいいけど。どうせ君も、ロロと同じ失敗作だ。」
「何をッ・・・」
「ルルーシュ、下がれ。」
手に握り締めた銃がカチッと音を立てる。
無機質なその感触と冷たさがだんだんと手に馴染んでくる。
ゼロは小さく息を吐いた。
これ以上、愛しく大切な片割れの心を傷つけたくは無い。
シャーリーが死んでからずっと、ルルーシュの心がもがいている。
ごめんなさい。
赦して。
助けて。
表には出さないよう必死に、しかし確かに心がそう叫んでいるのが痛々しくて、思わず目を背けたくなる。
ゼロとなったことを悔い、でも途中で投げ出すには犠牲を払いすぎた。
『終わらせる』しか、もう道が残されていない。
だから。
「死んでくれ・・・V.V.」
ルルーシュの為に。
ゼロが向けた銃口の先でV.V.は笑みを浮かべた。
「君たちが、羨ましいよ。」
バンッ!
小さな身体が打ち抜かれる。
血を噴出させてV.V.は倒れた。
銃創があるのはシャーリーとほぼ同じ場所。
ルルーシュは息を呑んで、ゼロを伺った。
しかしゼロは無表情のまま何も言わず、倒れたV.V.まで歩み寄ってもう一度銃を構えなおす。
コード保持者は不老不死。
こんなことでは死なないと分かりきっていたのだが。
「どういうことだ・・・?」
息を呑んだゼロを受けてルルーシュとロロも走り寄る。
広がる血溜。
止まることを知らず溢れ続けるそれに誰もが瞠目した。
「傷が・・・塞がらない・・・?」
血の気が失せていく表情でなおも笑みを浮かべながら目を細めたV.V.は傷に手で触れて乾いた笑い声を漏らす。
「ははッ・・・マリアンヌがいけない、・・・だよ?僕から・・・シャルル、を・・・たいせつな・・・おとうと・・・うば・・・て・・・」
マリアンヌ。
唐突に出てきた母の名と、シャルルをV.V.が『大切な弟』と言ったこと。
問いただそうとルルーシュが身を乗り出す。
しかし、その時既にV.V.は絶命した後だった。
「コード保持者であるV.V.が死んだ・・・ということは・・・」
「コードを失っているのか・・・では誰に・・・」
その途端、眩い光があたりを照らす。
目を開けているのも辛くなるほどの光の渦。
閃光のようなそれに目を細めたルルーシュとロロをゼロが庇うように抱きしめる。
しかしふっと、ルルーシュの身体が共鳴するように発光し始める。
次の瞬間光の粒子のようなものに包まれて霧散した身体。
抱きしめていた腕の中に確かな喪失感を覚えて、ゼロは言葉を失った。
ここらあたりから気持ち本編沿いをいきつつも適当さ5割り増しですので深くはつっこまないでください・・・!!
2011/10 加筆修正