「アンタ、誰ーぇ?」


煙管が突き出される。

その先には馴染みの仮面があって、その仮面の下の顔は密かに眉を顰めた。

ラクシャータはにやりと笑う。


「ゼロだが」


普通に、仮面の男はそう答えた。

そう答えるより他に、答えがあるだろうか。

しかしラクシャータは首を横に振る。


「なぁんか違うのよねぇ。」

「何がだ」

「なんていうのかしら。雰囲気?」

「まぁ、そうだろうな。」


あっさりと、ゼロは肯定した。

扇や星刻が目を剥く。

くつくつと笑ったゼロは首を傾げるような動作をした。


「しかし『ゼロ』は象徴で、尚且つお前達は私の素顔を知らない。雰囲気という不確かなもので違いを判断したところでホンモノを知らないのだからそんなことどうでもいいだろう。・・・で、この仮面の下にある顔が以前のモノと違ったとして、それで何か問題があるのか?」


そういえばいつも作戦会議に出るのは片割れの役目であり、自身がKMFにも乗っていない生身の状態で団員の前に現れるのは初めてだったか、と思う。


「では、やはり今誰かがゼロに成り代わっているのか?」

「そうだ。何か問題でも?」


繰り返すような問いを扇にぶつければ、彼は押し黙る。

やはり凡人か、と嘆息した。

もうそろそろ潮時かとも思う。

『ルルーシュ』という一介の学生が作り上げたものとしては誇れる組織だし、戦力もそれなり。

しかし『ゼロ』というブレーンがいることで、団員の殆どが自ら考えるということを怠りがちだ。

いつかの崩壊は免れないことではあるが、それがいつ起こるのかは予測がつかない。

誰がいつどのタイミングでイレギュラーを引き起こすかを予測するなど、それこそ超能力でも有していなければ不可能だ。


「私はゼロであり、ゼロではない。」

「それはどういう・・・」

「私は1年前のゼロではない。しかし今のゼロは私であり、1年前の彼だ。1年前のゼロと私は同じ・・・憎い世界も、目指す世界も、その存在すらも。だから私たちは2人で1人。どちらか1つのゼロはもう在りえない。」


ゼロは立ち上がってマントを翻した。

もうどうせ会議は終わり。

長居する必要はない。

デスクの上の書類を束ねて手に持つと、ゼロは会議室を出た。












「ゼロ!」


後ろから追いかけてくる女性に見向きもせず、ゼロは朱禁城の廊下を歩く。

目指す場所はゼロの私室。

そこから蜃気楼に乗り、日本に帰らなければならない。


「待ってください、ゼロ!」


何を不安がっているのか。

彼女の声から伝わる疑念に本日何度目かも分からない嘆息をした。

あっという間に私室について、ロックを解除した。

一緒に身を滑らせたカレンは肩で息をしながら、デスクの上に書類を置いたゼロの背中を見つめる。


「ルルーシュ!」

「煩いぞ、少し黙れ。」


カレンに背を向けたまま、ゼロは仮面を外した。

現れたのは黒髪。

カレンが安堵の息を吐いた。


「ねぇ、さっきのは何なの?」

「質問の意味が分からない。」

「私だって分からないわよ!アンタが1年前のゼロじゃないだとか、2人で1人だとか!」

「C.C.」


カレンを完全に無視して、ゼロは室内に呼びかけた。

ここだ、と抑揚のない声が返ってくる。

その方向にゼロは歩いた。

あるのは天蓋に覆われたベッド。

ゼロが片手でそれをめくると、布の隙間からカレンが見ることが出来たのは黄緑だ。

ベッドの上で身を起こしたC.C.は手元にある何かを撫でている。


「まだ眠っているか?」

「ああ。」

「ではそのまま連れて帰る。ただでさえ最近あまり眠れていないようだったから。」

「こちらは引き受けよう。」

「頼む。」


淡白な会話。

カレンの存在を無視して繰り広げられるそれに業を煮やして、カレンが駆け出した。


「ねぇ!私を無視しなっ・・・!!?」


なんで。

そんな意味合いの声にならない声がカレンの口から漏れる。

C.C.の隣で、髪を撫でられながら眠っているのは紛れもなく。

カレンは『ゼロ』と、ベッドの上の彼を見比べる。

しかし『ゼロ』の顔は見えなくて、身を乗り出した。

そしてある赤という色彩にまた息を呑んだ。


「あなた・・・誰・・・?」

「『ゼロ』だ。それ以外の答えが必要か?」

『ゼロ』が眠っている彼を横抱きに抱え上げる。


彼が目を覚ます様子はない。


「紅月カレン、一つだけ忠告してやる。」

「なに、を・・・」

「この先恐らく『私達』はお前達と共に在る事は出来なくなる。その時がきたら・・・『私達』のことは忘れろ。」


『私達』。

先ほどの『ゼロ』の言葉を踏まえるならばそれは2人の『ゼロ』。

恐らくベッドで眠っていたほうが1年前のゼロで、ルルーシュという人間。

では目の前の、『ゼロ』は。


「な、ぜ・・・」

「お前は生きなければならない。それが、この子の望みだから。」


ゼロは、ルルーシュを抱えて扉の向こうに消える。

カレンはそれを追うでもなく、残されたC.C.を問い詰めるでもなく。

ただ、その場に立ち尽くした。







19話をUPしたのが2009/01/23だそうです、記録によれば。
えっと、1年と半年強くらいぶり?
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

一応これから再開ですが、きっと相変わらずの亀更新ですので気長にお付き合いいただければと思います。

・・・ってかゼロ、白状しちゃっていいのかYO。


2011/10 加筆修正