C.C.はどこかの住所と何かのパスワードを伝えた。

それを頼りにルルーシュが訪れたのはいつしかゼロと始めて会った日に連れてこられたマンション。

エントランスにある端末にパスワードを入力すると扉が開いて、そこに静かに足を踏み入れる。

エレベーターに乗り込んで深呼吸した。

彼に会ったら、まず何を言おう。

そう考えると脳内が混乱してしまう。

不甲斐無さに涙が出そうになった。

辿り着いた階の一番奥。

部屋の番号と自分が持っているメモ用紙の番号を見比べて相違ないことを確認すると、恐る恐るドアノブに手をかける。

冷たい感触。

ゆっくりとドアを引く。

中は静かで、無意識のうちに余計な物音を立てないように部屋に足を踏み入れた。

しかし人生とは何事もうまくいかないものだ。

ルルーシュは見事に部屋の隅に積み上げられたピザの箱に足をひっかけ、その箱が雪崩のように崩れる。

ガサガサガサ・・・という箱の音に、ルルーシュがしまったとばかりに息を呑んだとき。

かちゃり、という別の音が耳に届く。

目の前のベッドで眠っていたらしいゼロが起き上がり、銃を構えていた。


「あっ・・・」

「・・・ルルーシュ?」


少し目が虚ろなゼロはやがて目を剥いて、慌てて構えを解く。

どうして、ここに。

きっとゼロの驚きはそれなのだろう。


「ゼロ」

「す、すまない・・・私は・・・」

「俺に銃を向けたことを謝っているのならそれはいい。俺が聞きたいのはそんな謝罪じゃない。」


崩れたピザの箱を集め、部屋の隅に積み上げていく。

進路を遮るものを撤去し終えてルルーシュは改めてベッドの上で呆然としているゼロの前に立った。

表情は硬い。


「どうして、俺に何も言わずに出て行った?」

「・・・そうするのが、一番いいと思ったからだ。」

「それは誰にとって?」

「ルルー・・・っ!」


不意に途切れた言葉。

ゼロは驚きから言葉を発することができなくなっていた。

両頬がルルーシュによって抓られ、何よりそのルルーシュが目の前で涙を浮かべていたのだから。

今にも零れ落ちてしまいそうなそれに触れようと手を伸ばせば、それに抵抗するようにルルーシュの手にこもる力が強まった。

正直、あまり痛くはない。

それが彼による手加減なのか、非力さなのかはわからないが。

暫くそうしてされるがままになっていたのだが、このままでは埒が明かないとゼロが口を開きかける。


「るる・・・」

「勝手に・・・いなくなるなッ!」


ルルーシュの怒声が響いた。

勝手にいなくなるな。

その言葉がゼロにとっては嬉しくて、何より辛かった。

いなくなりたいわけではない。

いつも共にいたい。

片割れとして寄り添っていたい。

それでも、離れなければいけない理由がある。


「・・・V.V.がいる限り私は・・・いつお前に・・・」


離れて生きること。

せめて、この『反逆』が終わりを告げるまで。

それがきっとお互いにとって最良なのだとゼロは判断した。


「私はこれ以上・・・お前を傷つけたくない。」

「余計なお世話だ!」


ついに言ってしまった、とルルーシュは口を噤んだが、ゼロが目を見開いて黙り込んでいるうちにまた声を張る。


「最初に言っただろう、俺は!『お前だけに背負わせるわけにはいかない』と。そして二人で背負うと決めたじゃないか!」

「ルルーシュ・・・」

「確かに俺はお前に支えられてばかりだ。それでもっ・・・それでも俺はお前と一緒に歩くと決めたんだ!」


ぼろり、と。

ルルーシュが声を荒げた瞬間零れ落ちた涙にぎょっとしたのはまずルルーシュで。

慌てて手で拭いとってなにやら小さく悪態を吐いている。

呆然としたゼロの瞳からも涙が零れて、それに指先で触れたゼロは苦笑した。


「私も、泣けるんだな。」

「・・・泣かない人間なんかいない。」


お前も俺も、人間だ。

そう言ったルルーシュは、泣いてしまった自分自身をフォローしたつもりだった。

しかし『人間だ』と、その言葉に自分の存在を確立したゼロは微笑んで。

帰るぞ・・・と言ったがその前に捨てるべきピザの箱を何とかしなければとゴミ袋を探し出したルルーシュと一緒に、部屋中のピザの箱を集める。

『二人』でやるならピザ女の尻拭いも悪くないと、ゼロは小さく呟いた。







ここで一度切ります。
詳しくは1/23の日記に書いていますが。
しばらくの休載の後、ちゃんと彼らの反逆が終わるまでを書きたいと思います。
気長に待っていただけると嬉しいです。
因みにゼロが銃を向けたのはこの場所に誰かが来るわけないという警戒半分、寝ぼけ半分です(笑)


2011/10 加筆修正