もうクラブハウスにはいられない。

ゼロはルルーシュに何も言わず、心地よかった彼の傍を離れた。

己の存在は大切なものを壊す。

それが例え自らの意思ではなかったとしても。

イケブクロで、ゼロはいつの間にかルルーシュに銃を向けていた。

V.V.が己に暗示をかけていることを知っていたゼロは、V.V.が本格的に動き出したのを見て身を引くより仕方が無かった。

裏切らないと誓いをたてていても、身体の自由が利かなくなる。

もし本当にこの手で彼を殺してしまったらと考えるだけでも身震いが起きる。

久しぶりに訪れた場所は、以前C.C.と潜伏していたマンションの一室だ。

ドアを開けた途端鼻腔を刺激した微かな異臭に目を細めたが、気にする事無く足を踏み入れた。

異臭の正体は積み上げられたピザの箱だろう。

箱は全て空だから少しの異臭ですんでいるのだろうが、これの中にピザが残っていたらと考えると何ともおぞましい。


「ゴミは棄てておけと言っておいたのにアイツは・・・」


魔女は今中華連邦の朱禁城に身を寄せているから、そこに移る以前のゴミだろう。

しかし今はとても片付ける気にはなれなくて、適当に箱を避けてベッドに倒れこむ。

片割れが、泣いている。

ぎりぎりと心臓に走る鋭い痛みが絶望を訴えている。

いつも誰よりも傍にいた片割れが苦しむのを見ていられなくて、実体を得た。

それが今となってはその存在が片割れを苦しめている。

本末転倒とはこのことだと震える息を深く吐き出して、ゼロは静かに目を閉じた。














「ゼロが、いない?」


ナナリーの言葉が信じられなくて、ルルーシュは思わず眉を寄せた。

ロロはおずおずと一枚の紙を差し出してくる。

メモ紙にあるのは整った文字。


「部屋に、これが置いてあって・・・」


『お前達の世界は、必ず私が手に入れる』


紛れもないゼロの文字。

ただ一言だけそう書いた紙を残して、彼は姿を消した。

文面からしても『裏切る気は無い』と言ったゼロの言葉に嘘はないのだろう。

しかし蜃気楼が発進したという連絡も無いため、中華連邦の騎士団の元へ向かったとは考え難い。

手に持ったメモ用紙を握りしめたルルーシュは自室へと走り、携帯電話を取り出した。

メモリに入ったコードネームから該当するものを見つけ出してボタンを押す。

コール時間が長いのが苛立ちを増幅させた。

やがて電話が繋がり、ルルーシュは叫ぶ。


「C.C.!」

『なんだ、坊や。泣いているのか?』

「泣いていない!」


相変わらずの不遜っぷりで、C.C.は鼻で哂った。


「ゼロの行きそうなところに心当たりはないか!?」

『ゼロの行きそうなところ?お前の傍以外あり得ないだろうが。』

「いなくなったんだ!」


電話口でC.C.が息を呑むのが聞こえた。

何か知っているのだろう。

彼女は深くため息をついていた。


『アイツは自分でお前の傍を離れたんだろう?』

「それはッ・・・」

『だったら放っておいてやれ。それが恐らく今のゼロにとっての最良の道だ。』

「どういう・・・」

『V.V.に、会ったんだろう。』


今度はルルーシュが息を呑む番だった。

ゼロを創った、コード保持者。


『ゼロには暗示のようなものがかけられている。V.V.が行動を起こしたのなら、いつゼロを操ってお前を殺すかも分からない。お前を傷つけたくないからゼロは・・・』

「そんなのっ・・・!」


余計なお世話だ、と言いかけて慌てて口を噤んだ。

間違いではないが、決して迷惑なわけではないのだ。

ゼロが心配をしてくれているのは分かっていることで、気を遣っているであろうというのも確か。



それでも。



その意思を汲み取ったのか、C.C.はため息をついて声を低くした。


『ゼロに会ってどうするつもりだ?』

「・・・つれて帰る。」

『それで?』


いつになく、C.C.は問いを投げかけてくる。

ルルーシュ自身、今どうするのが最良なのか分からなかった。


だから。


「一緒に、夕飯を食べる。」


それは当たり前のこと。

だからこそ今、それがしたいと思う。

ルルーシュがそう言うと、電話口でははっと笑ったC.C.は至極穏やかに『この馬鹿者共が』と呟いた。






なんか、そろそろ終わらせたくなってきました(笑)
ほら・・・皆さんもハッピーエンドで終わっておいたほうがいいですよ・・・ね?


2011/10 加筆修正