「ゼロ・・・なんで・・・」


ルルーシュが呆然と、ゼロに手を伸ばした。

兄の色。

誰の身体にも等しく流れる、温かい血潮の色。

それがどうしようもなく怖くなって身体が震える。

地についた膝を濡らすのはシャーリーの赤で。

その上己に銃を向けている兄の紅が見下ろしてくる。

ガクガクと震えながらもルルーシュが無理やり微笑む。


「嘘・・・だよな?」


そんなはずがない。

そう信じたかった。


ゼロが。


心の支えになってくれたゼロが、自分を殺すために生まれた存在なんて。

「ゼ・・・ロ、何か言ってくれ・・・」

「・・・・・・」

「俺を、殺す・・・のか・・・?」


ゼロはやはり何も答えない。

それが肯定ともとれてしまい、ルルーシュの瞳から涙が零れ落ちた。


「お前も俺を裏切るのか・・・ゼロッ!!!!」


広いホールに、大きく響いた声が反響する。

その響きにゼロは唐突にびくりと身体を揺らした。

何かに気付いたかのように呆然と目を見開いて周囲を見渡したゼロが己が手に持った銃と、血溜に沈んだシャーリーと、あざ笑うV.V.と、呆然と座り込んでいるロロとを順に目で追っていく。

最後に視界に納まったのは傷ついたような表情の片割れ。

もう一度手に持った銃を見て唇を噛んだゼロは周囲に悟られないように深く息をつく。

やがてその唇が意を決したように動いて、それを凝視したルルーシュはその場に崩れ落ちた。


「ロロ!」


信じられない様子で見ていたロロにゼロが呼びかけると、ロロが身体を震わせる。

ゼロの持っていた銃はその銃口がV.V.に向けられ、連続して発砲される。

額や胸や足から血を噴出させながら倒れたV.V.を足で踏みつけて、反応が鈍いロロをゼロは何度も呼ぶ。


「ロロ!」

「・・・っあ・・・!」

「ルルーシュを連れて逃げろ!私も後から追う!」


ロロが目を剥いた。

先ほどのV.V.の口振りから、ゼロはルルーシュを殺そうとしている。

しかし今の彼はV.V.を血溜に沈め、ルルーシュを連れて逃げろと言う。

何を信じていいのか分からず目に見えて動揺したロロの様子にゼロがぐっと唇を噛み締めてもう一発足元のV.V.に銃弾を打ち込む。


「私の事は信じなくていい!ただッ・・・ルルーシュを!」


その言葉で我に返ったロロは何とか立ち上がってルルーシュに走り寄った。

ルルーシュは突然倒れたように見えたが外傷は無く、恐らくゼロのギアスで眠っている状態。

力を失った腕を自らの肩に回して、ロロは走り出した。













「ゼロお兄様」

「ナナリー」


ベッドに腰掛けてルルーシュの髪を梳いていたゼロは、妹の声に顔を上げる。

ナナリーは眉を悲しげに寄せて、静かに息を吐いた。


「お前は大丈夫か?」


一年前、ナナリーは生徒会役員ではなかったものの、副会長の溺愛する妹として生徒会の活動を手伝っていた。

だから、シャーリーとは当然面識がある。

ナナリーは一度だけ頷いて、車椅子を動かした。

ベッドの横に車椅子をつけて手を伸ばす。

ゼロが、そのナナリーの手をルルーシュの手に導いた。


「お兄様は・・・」

「・・・眠らせている。」

「・・・その方がいいです。」


誰よりも優しい兄。

それが壊れるところなど見たくはなかった。


「ロロはどうしている?」

「ご自分を責めていらっしゃいます。お兄様の心を守れなかった、と。」


シャーリーが死んだとき、一番近くにいたのはロロだった。

しかしロロのギアスは人の体感時間を止めるもので、発砲された銃弾を止めることはできない。

何より発砲したのはコード保持者であるV.V.。

コード保持者にギアスは効かない。

咄嗟の判断でギアスの力に頼ってしまったロロは、シャーリーを救うことが出来なかった。

どちらにしろ一般人であるシャーリーでは放たれた銃弾を自分で避ける事などできなかっただろうから、結果は目に見えていたのだが。

しかし彼女の死によって、ルルーシュは深く傷ついている。


「ゼロお兄様」


ナナリーは静かに彼を見る。

閉じられている瞼。

でももしそれが開いていたならば、何もかもを見透かすような瞳がゼロを射抜いていたことだろう。


「ゼロお兄様は私達を・・・お兄様を裏切りませんか。」


ルルーシュが今壊れそうなのはシャーリーの死だけが原因ではない。

それをロロから聞いていたナナリーは、気丈な振る舞いでゼロと向き合う。

視力を失っているために表情を窺うことは出来ないものの、真剣な眼差しが向けられていることだけは感じることが出来る。

ゼロは低くハッキリと言った。


「・・・誓おう。」

「では、お手を。」


人の感情に敏感なナナリーは、手で触れれば嘘を見抜くことが出来る。

しかしゼロはその手を取らなかった。

それが答えなのかと顔を歪めたナナリーにゼロは呻くように言う。


「今はまだ、その手は握れない。」

「ゼロお兄さ・・・」

「私にはお前達に隠していることがある。その状態でその手を握っても結果は目に見えているから。だから今はその手を取れない。」


自分の手のひらを見つめて、それをぎゅっと握り締める。


「全て・・・話すよ。ルルーシュを休ませたら全て話す。その上で私はお前の手を取って、決して裏切らないということを誓おう。」









本当はこの先にまだ続く予定だったんですが、先が書き終わってないので一回切ります。
ま、そうだよねーお兄様が裏切るわけないよねー。


2011/10 加筆修正