「貴公の忠節はまだ終わっていないはずだ。」

「イエス・・・ユアマジェスティ!!」


オレンジ君と、一度はそう呼んで陥れた元貴族がまさか自分の仲間になるとは思っても見なかったと、ルルーシュは皮肉にも似た笑みを浮かべた。

彼は母であるマリアンヌを敬愛し、その息子であるルルーシュがゼロであることの真意を確かめようとしていた。

彼がこちら側につくという事態はイレギュラーではあったものの、ギアスキャンセラーという能力は実に便利だ。

かかったギアスを解除する。

それがあればもっと出来ることが増えるはずだ。

何よりゲフィオンディスターバーの動作実験が出来たのは喜ばしいこと。

しかしジェレミアが暴れてくれたおかげでイケブクロは壊滅状態だった。

気がかりなのは、シャーリーだ。

彼女と先ほどまで一緒にいた。

しかしシャーリーはスザクに用があると言って、彼と行ってしまった。

スザクがいればこの場を逃れることも可能だろうが、嫌な胸騒ぎがある。

ジェレミアにはどこかに潜んでいろと命令してルルーシュは走り出した。

一先ず駅のホームからは出なくてはならない。

長い階段を駆け下りる。

その途中のホールから聞きなれた声が聞こえた。

まさか、と耳を疑ってホールに飛び込む。


「シャーリー!?」

「ルル!」


そこには震える手で銃を握り締めたシャーリーと、ロロ。

その光景に呆気に取られて見入ったルルーシュだったが、シャーリーに駆け寄るとその手から銃を奪った。


「なんでこんなものをっ・・・スザクはどうした!」

「あ、えーっと、現場指揮に行っちゃった。」

「アイツッ・・・!」


ギリッと唇を噛み締める。

彼女はもう何も関係のない人間だ。

学生としてただ穏やかに過ごせるし、そうすべき人間。

こんなところで巻き込まれでもしたらと、そう思って託したというのに。


「あの、ね・・・ルル。」

「シャーリー、まずはここを離れよう。」

「待って!ねぇ、聞いて?」


踵を返したルルーシュの服の袖をきゅっと掴んで、シャーリーは微笑んでいた。

しかし瞳は少し潤んでいて。

泣きそうなのを我慢しているようだった。


「あの、ね・・・私、全部思い出したの。」

「な・・・にを・・・」

「ルル、私を巻き込みたくなくて記憶を消したんだよね?」


記憶。

一年前、ルルーシュがゼロであることを知ったシャーリーに『忘れろ』とギアスをかけた。

それが戻っている。

息をのんで、ルルーシュが後ずさった。


「でも思い出しちゃった。」

「シャ・・・リ・・・」

「もう、忘れたくない。だって忘れても忘れてなくても気持ちは変わらなかったから。なら私は忘れたくない。」

「俺は・・・」

「ルルが例え私のお父さんを殺したんだとしても、それでも私はルルが好き。」


微笑んだシャーリーにルルーシュは何も言えなかった。

しかしその時。


「兄さん!」


叫んだのはロロだった。

周囲に赤い光が満ちる。

絶対停止の結界、ロロのギアス。

その発動が解けたとき、崩れ落ちたのはシャーリーだった。


「シャーリー?」


ルルーシュが首を傾げて、その場に膝を着いた。

彼女はぼんやりと目を開けて、そして微笑んでいた。

顔から、むき出しの肌から、血の気が見る見る引いていく代わりに、足元に生暖かいものが広がっていく。


「ル、ル・・・」

「シャーリーッ・・・なんで・・・!」

「わた、し・・・死ぬ・・・の・・・?」

「シャーリーは死なない!死ぬな!」


ルルーシュの涙に濡れた瞳が赤く輝く。

鳥の羽のような紋章が輝いて、羽ばたいた。

シャーリーの瞳が赤く光るが血溜りは広がり続ける。


「きっと・・・生まれ変わっても・・・わた、し・・・ルルの、こと・・・」


好きになる。

そう言って、シャーリーは目を閉じた。

力の抜けた腕がだらりと落ちて、血溜りの中に沈む。

突如くすくすと笑う声が耳に届いて、ルルーシュは呆然とその方向に視線を動かした。

そこに、銃を構えた子供が楽しそうに笑っていた。


「こんにちは、ルルーシュ」


ルルーシュは理解した。

少し舌足らずでそう言ったその子供の銃が、シャーリーを殺したのだと。

子供の近くではロロが泣きながら蹲っている。


「おま、えは・・・」

「僕の名前はV.V.。君を殺しにきたんだ。」


じゃあ何故。

何故シャーリーを殺したんだ。

小さく消え入りそうなそのルルーシュの問いかけにV.V.は答えなかった。


「でも僕は君がとても嫌いでね。どうせなら絶望を与えて苦しめに苦しめ抜いた上で殺したい。だから、君を別の人に殺してもらうね。」


カツンと靴の音がした。

だんだんと近づく足音がルルーシュのすぐ近くまで迫ったところで止む。




「ゼ、・・・ロ」




視線を上げるとそこには見紛う事など決して無い、双子の兄の姿。

どこまでも冷たい深紅の瞳が射抜いて、ルルーシュは凍りついたように動けなくなった。

V.V.が、けらけらと笑っている。


「さあゼロ、ルルーシュを殺すんだ。そのために君は『生まれた』んだから。」



カチャリという音と共に、ゼロの持つ銃のトリガーに指が添えられた。










お兄様、敵になるの巻。


2011/10 加筆修正